加速器は先端科学の強力な研究ツールとして発展し、素粒子・宇宙・物質・生命科学の研究のほか、広く産業応用に普及し今日に至っています。特に研究用加速器は、素粒子・宇宙・物質の起源を探るエネルギーフロントの高エネルギー加速器、大量の二次粒子を発生させて利用する大強度ビーム加速器、放射線利用促進研究用の加速器と多様な広がりをみせています。当社は、1970年代から研究機関の計画に積極的に参加し、国内の主要な研究用加速器建設に継続して取り組んできました。
欧州原子核研究機構(CERN)の大型ハドロン衝突型加速器(LHC)では、さらなる新物理の探索を進めるために、LHCの高性能化改造を目的とした高輝度アップグレード計画(HL-LHC)が進められています。当社は、CERNとの国際協力として日本が担当している超伝導磁石(D1)を受注し、製作に取り組んでいます。
超伝導コイル巻線
シェル溶接完了
画像提供:高エネルギー加速器研究機構
欧州原子核研究機構(CERN)の加速器将来計画候補のひとつである電子陽電子衝突・線形加速器(CLIC, Compact Linear Collider)計画の第一期計画では、クライストロンの採用が検討されています。当社では、高エネルギー加速器研究機構(KEK)と共に、そのプロトタイプであるクライストロン用の超伝導ソレノイド磁石を開発しました。本磁石は、コイル導体の材質に、MgB2(ニホウ化マグネシウム)を使用しているため、1段GM 冷凍機が使用可能な運転温度領域(-248℃)であり、銅やNbTi(ニオブチタン)を使用したマグネットと比較して省エネルギー化に貢献しています。また、本磁石は、2020年 R&D World社 R&D Awards 100を受賞し、2021年低温工学・超電導学会 科学技術インパクト賞を受賞しました。
Photo courtesy of KEK and CERN
磁石外観
磁石全体図
MgB2導体断面
九州シンクロトロン光研究センター(SAGA-LS)では、より高エネルギーのシンクロトロン光のニーズに応えることを目的として、磁場4テスラの超伝導ウィグラー(SCW)を2台設置しました。当社は、SAGA-LSと共にSCWを設計し、製作及び現地据付を行いました。定期メンテナンスを実施することで安定稼働に貢献しています。
Superconducting Wiggler at SAGA-LS
Photo courtesy of SAGA-LS
理化学研究所の重イオン加速器施設RIビームファクトリー(RIBF)では、その最終段の加速装置として、ウランまでの重イオンを加速する世界初の超伝導リングサイクロトロン(SRC)を開発しました。SRCの最重要機器である全6個のセクター電磁石は、当社がこれまで培ってきた大型超伝導マグネットの製作技術をベースに製作を担当したものです。
SRC(Superconducting Ring Cyclotron)
Photo courtesy of RIKEN
Superconducting main coil
Superconducting trim coil
高エネルギー加速器研究機構(KEK)ミュオン科学研究施設では、大強度陽子加速器施設(J-PARC)にミュオンビームライン(Dライン)を建設し、運用を続けてきましたが、2011年に発生した震災によって、Dラインに設置されていた輸送用超伝導ソレノイド磁石が破損、交換用の超伝導ソレノイド磁石の製造が必要となりました。当社は、輸送ソレノイド磁石のうち、最上流側の全長6mのソレノイド(D1)1台と分岐後の全長1.5mのソレノイド(D2、D3)2台を設計・製作し、納入しました。
D1 solenoid
D2 solenoid
D3 solenoid
(Photo courtesy of KEK)
当社は大強度陽子加速器施設(J-PARC)向けに大型で高精度な実験装置用電磁石群を納入し、21世紀を代表する科学・研究活動(物質科学、生命科学、原子核・素粒子研究、核変換技術研究)に貢献しています。
10th ACASC-2nd Asian ICMC-CSSJ | MgB2 solenoid magnet for klystron application without radiation shield | Koga Tomoyuki, Watanabe Hiroyuki, Tanaka Hideki, Wakuda Tsuyoshi, Yamamoto Akira*1 |
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IEEE TRANSACTIONS ON APPLIED SUPERCONDUCTIVITY | Development of Prototype MgB2 Superconducting Solenoid Magnet for High-Efficiency Klystron Applications | Hiroyuki Watanabe , Tomoyuki Koga, Hideki Tanaka , Tsuyoshi Wakuda, Akira Yamamoto*1, Shinichiro Michizono*2, Igor Syratchev*3, Gerard Mcmonagle*3, Nuria Catalan Lasheras*3, Sergio Calatroni*3 |
日本加速器学会 | J-PARCミュオン科学実験施設D-Line用超伝導輸送ソレノイドの設計・製作 | 田中靖之、仙波智行、中島翔太郎、萩原好晃、木戸修一、佐々木憲一*4、下村浩一郎*4、河村成肇*4、ストラッサーパトリック*4、槙田康博*4、大畠洋克*4、黒澤宣之*4、三宅康博*4 |
日立評論 Vol.79 No.2 (1997-2) | 土屋清澄、山口潔、桜畠広明、清藤雅宏、松本孝三 | |
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日立評論 Vol.89 No.02 192-193 | 千田豊、渡辺隆、阿部充志、吉成孝文、古閑庄一郎 | |
日立評論 Vol.90 No.02 170-171 | 木戸修一、枡本孝、山内恒彦、仙波智行、萩原好晃 |