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核融合の取り組み

核融合とは

究極の脱炭素エネルギー源である核融合エネルギーは、CO2・高レベル放射線廃棄物フリーであり、運転時に機器の故障などが発生した場合には核融合反応が停止するため、本質的に安全なベースロード電源となり得ると考えられています。さらに、燃料においては海水中から普遍的に得られるため、世界中の電力システムに導入可能で、エネルギー安全保障を実現することが期待されています。太陽活動の源である核融合反応においては、一億℃以上の水素同位体である重水素(D)と三重水素(T)の原子核同士が、互いに反発する力に打ち勝って融合し、生成物である中性子(n)、ヘリウム(He)から莫大な熱エネルギーの回収が可能です(1グラムの燃料から発生するエネルギーは、石油8トン分のエネルギーに相当)。
核融合反応が持続的に発生するための条件として核融合三重積を一定以上達成する必要があり、下記に示すような種々の核融合実験機器が設計・開発されています。当社は様々な核融合炉実験機器の設計開発をサポートするとともに、原型炉設計合同特別チームに参画し、核融合炉の早期実現に向けた活動を行っています。
・トカマク:トロイダルコイルとプラズマ電流が生み出す磁場でプラズマ閉じ込め。
・ヘリカル:二重らせん状のコイルが生み出すらせん状の磁場を定常的に発生。長時間運転に強み。

核融合反応で発電するために必要な温度・密度・閉じ込め時間の積(例えば温度1億℃、密度100兆個/cm3、閉じ込め時間1秒)

核融合の取り組みの歴史

新エネルギー源の有力な候補の一つとして研究が進められている核融合実験装置、その国家プロジェクトとして推進される研究開発に当社が参加してから、既に半世紀近くになります。
当社は1970年代から本格的に核融合装置の製作に関わり、発電機を基盤とする電磁石技術や並行して蓄積した装置技術(電磁場、真空、制御)、および超伝導技術を基に、各研究所・大学の指導の下、多数の研究開発用実験装置を製作・納入してきました。

核融合事業の製品情報

ITER(イーター:核融合実験炉)

ITERは、エネルギー問題と環境問題の根本的な解決が期待できる「核融合エネルギー」の科学技術的成立性を実証するために、世界7極が参画し、フランスに建設されています。当社は、ITER用加熱電流駆動用中性粒子ビーム入射装置(NBI)に先駆けてイタリアで建設が進められている1MV超高圧電源試験施設の主要機器を製作するなど、ITER計画に貢献しています。


直流発生器現地据付完了


イタリアに建設中の試験設備(NBTF)
上:直流フィルター付近
下:1MV絶縁変圧器

2017年 第65回 電気科学技術奨励賞受賞
「ITER-NBI向け-1MV直流超高電圧整流器の開発」

当社は、ITERのプラズマ加熱と電流駆動のために必要なNBI用の超高電圧電源設備を、量子科学技術研究開発機構(QST)と開発しています。


中性粒子入射装置試験施設(NBTF)用超高電圧電源 【日本担当部分(赤枠)】

「ITER-NBI実機 - 伝送ライン変位吸収構造の開発」

ITER用のNBI向け伝送ラインでは、地震時に発生するITER建屋と伝送ラインとの変位の差を吸収する構造が重要課題となっています。当社は、伸縮継手、積層ゴム、すべり支承を組み合わせた相対変位吸収構造を開発し、耐震解析によってコンセプト成立の見通しを得ることができました。


ITER建屋と伝送ラインの全体図


相対変位吸収のコンセプト

「ITER-ダイバータ - 外側垂直ターゲットの製作」

ITER本体の炉内機器において最も高い熱負荷を受ける機器がダイバータであり、高耐熱・高精度が要求される重要機器です。当社では、ダイバータカセットのうち、日本担当分である外部垂直ターゲットの製作に取り組んでいます。


提供:量子科学技術研究開発機構

中性粒子ビーム入射装置(NBI)の開発

中性粒子ビーム入射装置(NBI)は、核融合実験装置内のプラズマに高速の中性粒子を入射することによって、プラズマを加熱するための装置です。当社のNBI開発は、1977年にJT-60用NBIの詳細設計に参画したことに始まります。1985年にはHeliotron-E用に、その後のNBIで標準的に使用される多くのシステムを採用したNBIユニット(図1)を納入し、さらに当時としては世界最大のJT-60用NBIのビームライン14機(図2、図3)を納入しました。1990年以降は次期大型装置用に要求される高エネルギー・高パワー・高効率化に対応するため、負イオン源や直流高電圧技術の開発に努め、1995年にJT-60U用のNBI(図3、図4)、1998年と2000年に大型ヘリカル装置(LHD)用のNBI (図5)を納入するなど、約30年以上にわたり、開発、製作を継続しています。


図1 Heliotron-E用NBIの外観
(Photo courtesy of Kyoto Univ.)


図2 正イオン源を搭載したNBIの外観(JT-60)
(Photo courtesy of QST)


図3 T-NBI(JT-60)及びN-NBI(JT-60U)の外観
(Photo courtesy of QST)


図4 N-NBIのビームラインの外観(JT-60U)
(Photo courtesy of QST)


図5 LHD用NBI2号機及び3号機の外観
(Photo courtesy of NIFS)


当社NBIの入射パワー遍歴(設計時)

Pilot GAMMA PDX-SC用超伝導コイル

筑波大学プラズマ研究センターでは、核融合原型炉開発に向けたアクションプラン「3.ダイバータ - ダイバータ級定常高密度プラズマ実験装置の開発と実験」の一環として、先進的ダイバータプラズマ研究装置であるPilot GAMMA PDX-SCの建設を行っています。当社はその基幹となる2対の大型超伝導コイルを設計・製作しました。本コイルの開口部直径は約900mmであり、冷凍機を使用する伝導冷却方式としては、当社最大級の超伝導コイルです。

Superconducting Wire Type Monolithic, NbTi / Cu
Number of Turns 5,854 turns
Rated Current 236.3 A
Central Magnetic Field 1.5 T
Stored Energy 1.4 MJ
Diameter of Warm Bore 0.9 m
Total Weight 1.9 t


1.5 Tesla - Φ900 bore magnet


Pilot GAMMA PDX SC 全景
Photo courtesy of Plasma Research
Center,Univ.Tsukuba.


ファーストプラズマ点火
Photo courtesy of Plasma Research
Center,Univ.Tsukuba.

核融合原型炉における誤差磁場補正方法の検討

核融合原型炉開発に向けたアクションプラン「1.超伝導コイル - SC概念基本設計」の一環として、量子科学技術研究開発機構(QST)と共に、核融合原型炉における超伝導コイル由来の誤差磁場および、成立する補正磁場コイルの仕様を検討し、超伝導コイルに求められる製作精度を評価しました。結果として、超伝導コイルに求められる製作精度を、核融合実験炉(ITER)の超伝導コイルと比べて2〜4倍に緩和可能な見通しを得ることができました。

@ JT-60SA同様、指標BTMEIで誤差磁場評価※1

TMEI: Three Mode Error Index
※1
 G. Matsunaga et al., Fusion Eng. Des. 98-99, 1113-1117 (2015).

A 各補正磁場コイルの電流値決定には必要電流値を低減可能な正則化法を適用

B 5000通りの誤差付きコイル群を生成しその内の95%をBTMEI≦0.1 mTまで低減可能な補正磁場コイル形状を決定


制作誤差付き TFC


制作誤差付き PFC
※各誤差は100倍に強調


本検討で決定した補正磁場コイル形状

13T-SCM

核融合科学研究所(NIFS)の高磁場マグネット試験設備向けに、3層のNb3Sn(ニオブサンスズ)コイルと3層のNbTi(ニオブチタン)コイルから構成される超伝導コイルを納入しました。本コイルは最大13テスラの磁場を発生し、高磁場中におけるコイル形状の導体性能試験を可能にします。


Photo courtesy of NIFS


13Tesla - Φ700 bore magnet
(Upgrade to 15T - Φ600 under consideration)


NIFS 高磁場マグネット試験設備概略

TFインサート・コイル

量子科学技術研究開発機構(QST)では、核融合実験炉(ITER)のトロイダル磁場(TF)コイルにおける運転条件を模擬し、ITERでの使用が計画されているTF導体の性能評価を実施しています。当社は、TF導体を用いたソレノイド状のTFインサートコイルを製作し、納入しました。


TF インサートコイルの製作※1


TF Insert Coil※2
courtesy of QST


TF 導体の構成

※1
H.Ozeki et al., IEEE Trans. Appl. Supercond. vol.25, no.3 (2015)
※2
H.Ozeki et al., IEEE Trans. Appl. Supercond. vol.26, no.4 (2016)

LHD(Large Helical Device: 大型ヘリカル装置)

LHDは、日本独自のアイデアに基づいた、特徴的ならせん状の超伝導コイルを用いて核融合プラズマを閉じ込める装置です。当社は、全体組立メーカーとして建設に参画し、1998年の運転開始以降、コイル冷却システムや閉構造ダイバータ、タングステンダイバータ試験体などの真空容器内機器の追設も実施してきました。今後も、安定した運転保守や高性能化のための装置改造を通じて、実験運転を支援しています。


LHDの極低温部組立


プラズマ真空容器の内部
(写真提供:核融合科学研究所)


ベルジャー吊り込み


超伝導ヘリカルコイル現地巻線


大型ヘリカル装置(LHD)
Photo courtesy of NIFS


タングステンダイバータ試験体


閉構造ダイバータ

関連情報

学会発表

     
日本原子力学会 ITER 中性粒子入射加熱装置向け伝送ラインの相対変位吸収構造の開発 十河直也、宮副照久、柚木美羽、鈴木隆之、柏木美恵子*1、戸張博之*1、 小島有志*1、市川雅浩*1、大下英次*1、柴田直樹*1
プラズマ・核融合学会 Pilot GAMMA PDX SC 用超伝導コイルの製造 今村寿郎、沖津茂樹、古閑康則、木戸修一、南龍太郎*2、假家強*2、坂本瑞樹*2
プラズマ・核融合学会 原型炉における超伝導コイル由来の誤差磁場及び補正コイル必要電流値の評価 冨樫央、木戸修一、古閑康則、阿部充志、村田幸弘、日渡良爾*1、宇藤裕康*1、松永剛*1、原型炉設計合同特別チーム*1
*1
QST / 量子科学技術研究開発機構
*2
Plasma Research Center,Univ.Tsukuba / 筑波大学プラズマ研究センター

日立評論

     
日立評論 Vol.81 No.2 (1992-2) 本島修、浅野克彦、上出泰生、森山國夫