株式会社ノークリサーチ
2011年3月11日に発生した東日本大震災は企業の災害対策への意識にも大きな影響を及ぼした。
昨今では「事業継続の観点から、中堅・中小企業においてもクラウドの活用が進むのではないか?」という見解を耳にすることも多い。しかし、その一方で「次にいつ来るかもわからない地震より、直近の電力不足の方が深刻だ。」という意見もある。
そこで今回は東日本大震災を受け、中堅・中小企業がIT活用において優先的に取り組むべき事柄は何なのか?を調査結果を元に考えていくことにする。
以下のグラフは年商500億円未満の中堅・中小企業に対して、「東日本大震災を踏まえて新たに実施/検討または関心のあるIT投資項目」を尋ねた結果の一部である。調査時期は2011年5月後半、政府が15%の消費電力削減要請を正式に発表した時期にあたる。
この結果を見ると、「社内の業務システムをデータセンタやクラウド事業者へ預ける」や「遠隔地に業務システムの複製を作成する(いわゆる「ディザスタリカバリ」)といった項目よりも「サーバなどに免震装置や電源装置を備えて対障害性を高める」や「データを逐次バックアップする」が高い回答率を示している。つまり、『業務システムを社外へ移設せず、手元にある状態のままで可能な対策を実施したい』という意識がうかがえる。
これには東日本大震災での実体験が大きく関係している。
震災発生後に発生した広範囲に渡る交通網の麻痺により、首都圏近郊のビジネスマンの多くは帰宅困難な状態となった。地震発生が金曜日であったことが幸いしたが、そうでなければ翌日以降の出勤にも大きな支障をきたした可能性が高い。
こうした経験から中堅・中小企業の多くは『仮にサーバを外部に預けても、社員の移動手段が断たれれば結局は業務が停止してしまう』という現実を体感することになった。大企業ではパンデミック対策や在宅勤務の推進といった観点で、以前からリモートで業務を行う仕組みへの取り組みを進めている例も多々ある。しかし、社員数がそれほど多くない中堅・中小企業にとっては、得られる効果と費用のバランスを考えると負担が大きい。つまり、今回の震災を通じて、中堅・中小企業は事業継続の敷居の高さをあらためて実感することとなったのである。
そうはいっても何も対策をしないわけにもいかない。そこで念頭に上るのが、サーバの対障害性を向上させたり、バックアップを行ったりといった業務システムの構成を大きく変えずに実施できる対策というわけである。
ここでもう少し視点を広げてみよう。
東日本大震災がもたらしたものは地震による直接的な被害だけではない。むしろ、その後に実施された計画停電は中堅・中小企業にも多大な影響を及ぼすこととなった。この計画停電は今後のIT投資に与える影響と密接な関係にある。
以下のグラフは年商500億円未満の中堅・中小企業に対し、「東日本大震災が2011年5月以降のIT投資に与える影響」を尋ねた結果である。通常、こうした調査結果は年商/業種といった企業属性を軸にして集計/分析を行う。だが、今回最も顕著な有意差が表れたのが、以下のグラフで採用している「電力会社の管轄」という軸である。
全体としては「影響はほとんどなく、震災前のIT投資をそのまま継続する」という回答が最も多くを占める。だが、計画停電による影響が大きかった東京電力管内では「IT投資項目の大幅な見直し」ないしは「IT投資項目の幾つかに変更が生じる」という回答が30%弱に達している。さらに、「影響はあるものの、震災前のIT投資をそのまま継続する」という回答(上記グラフの緑色の帯に当たる部分)の理由を尋ねたものが以下のグラフである。
すると、「計画停電や節電対策の必要性を踏まえてから判断したい」が半数近くを占めている。つまり、中堅・中小企業の多くは次に来るかも知れない地震への対策よりも、電力不足への対策を重要視していることがこれらのグラフからも読み取れる。
ここで、年商500億円未満の中堅・中小企業に対して、「東日本大震災を踏まえて新たに実施/検討または関心のあるIT投資項目」を尋ねた結果の一部をもう一度見てみよう。
実は冒頭に掲載したグラフには電力不足に関連した選択肢を意図的に抜いてあった。電力不足に関するIT投資項目(赤色の帯)を加えたグラフを見ると、業務システムを社外へ移転する取り組みと比べて節電に関連した項目への関心の高さがうかがえる。
ここで中堅・中小企業が考えるべきなのは「節電対策はいつまで実施する必要があるのか?」ということだ。『この夏さえ乗り切れば大丈夫』ということであれば、一時的な対策で十分と考える企業も少なくないだろう。
上のグラフに挙げた「社外へ委託することなく、停電が極力発生しない自社の他オフィスへ業務システムを移転する」はその一例だ。都内23区は原則として計画停電の対象外となっている。そこで、23区外にあったサーバを一時的に23区内の営業所へ運び込むといった対策を講じるわけだ。
だが、電力不足の懸念は首都圏だけでなく、関西圏など他の地域にも広がりを見せつつある。節電対策は東京電力管内だけでなく、全国の企業が留意すべき事項になってきたといえるだろう。
とはいえ、「それほど節電をしなくても電力供給は足りているのではないか?」といった議論があるのも事実だ。そこで忘れてはならないのは電力供給だけではなく、電気料金の視点である。原発関連被害への補償問題や再生可能エネルギー促進法案の行方によっては電気料金が値上げされる可能性も否定できない。そうなると中長期的な視点で節電対策を考える必要が生じることになる。
そうなればIT活用の観点ではサーバを省電力型に切り替える、あるいはデータセンタやクラウド事業者に預けるといった選択肢も出てくるだろう。だが、原発事故の復旧や政策の混迷は月単位で状況が変化している。上記に挙げた節電施策にかかる費用は決して安価ではない。そのため、いつ取り組むべきか?の判断が極めて難しい状況であるのも事実だ。
そうした中、節電対策に関連して中堅・中小企業が現時点で取り組みを検討すべき項目としては「PCの節電対策」が挙げられる。OSの設定や簡易な無償ツールによって、PCを節電モードに切り替えるといった取り組みを実践している方も少なくないだろう。
今夏に限ったことであれば、そうした手作業による対策で乗り切ることも可能だ。しかし、定期点検に入ったまま再稼働しない原発がさらに増え、電力不足がさらに悪化したまま冬場を迎えると状況は変わってくる。冬場の電力ピークは夏場とは異なるため、設定変更などの対応が必要になるかも知れない。先に述べたように電力料金が値上げされる可能性もある。そうなると、複数のPC設定を自動的かつ強制的に変更する仕組みが求められてくる。
だが、全てのPCを入れ替える必要はない。昨今のPC運用管理ソフトウェアにはPCの設定変更を行う機能が備わっている。それを活用すれば、比較的少ないコストで節電効果を上げることができる。また、PC操作ログ監視といった情報漏洩防止に関連する機能も備えるため、平常時におけるセキュリティ対策強化という面でも有効な施策といえる。
こうしたPC運用管理ソフトウェアの一例が日立製作所の「Hitachi IT Operations Director(新規ウィンドウを開く)」だ。
PC運用管理ソフトウェアはライセンス管理や不正アプリケーションの利用防止といった「ITのためのIT」として捉えられることが多い。Hitachi IT Operations Directorであれば、PCの省電力設定の状況や消費電力(理論値)をグラフで確認できるため、継続的に節電対策に取り組める。
電気料金は日頃気付きにくいが、積算すると無視できない金額となるコストである。そうしたコストを削減し、本来の経営改善策のための原資を捻出するためにもPC運用管理の活用を検討してみる価値があるだろう。