株式会社ノークリサーチ
地球温暖化の危機が叫ばれ、1997年の京都議定書採択から早くも10年以上の歳月が流れた。その間各国が様々な施策を試みたが、依然として地球全体の平均気温は上昇の一途を辿っている。
そうした状況の中、今年2008年7月には地球環境問題をメインテーマに据えた北海道洞爺湖サミットが開催され、環境保護の機運がますます高まってきている。
地球温暖化防止のためには温室効果ガスであるCO2の削減が有効な対策となる。CO2排出を抑制するためには省エネ、特に消費電力の低減が欠かせない。 ところが、IT活用の普及に伴ってIT関連機器が消費する電力量は近年著しい増加を示している。このままでは本来省エネの有効手段となるはずのITが逆にエネルギーを大量消費する原因にもなりかねない。
こうした背景を受けて、環境保護や省エネとITとの関わりを見つめ直し、環境保護と両立したIT活用を目指そうという動きが「グリーンIT」である。本コラムでは今回を含めた三回の連載でこのグリーンITについて取り上げていく。
「グリーンIT」というと、昨今のニュースではデータセンタ事業者向けの省電力ソリューションやハードウェアメーカによる省電力機器の開発などといった活動が目に付くことが多い。これだけを見ると、グリーンITは一部のIT関連大手企業だけに関係するトピックのように思える。 だが、実際にはIT業界に限らず、事業規模や業種を問わず広く一般の企業全体に深く関わるトピックなのである。
2008年は京都議定書で採択されたCO2削減目標達成約束期間の最初の年である。(京都議定書では2008年〜2012年を約束期間と定めている) また、2008年7月には北海道洞爺湖サミットが開催される。こうした背景を踏まえて、日本政府は2008年から環境保護のための各種法制度強化を推し進めてきている。
以下の表をご覧いただきたい。これは環境省が発表した2006年度の「温室効果ガス排出量速報値」である。2005年と2006年時点での各分野のCO2排出量及び京都議定書規定における基準年(1990年)からの変動比率が丸カッコ内に記述されている。これを見ると「業務その他部門」と「家庭部門」において基準年からの増加変動量が大きいことがわかる。つまり、これら二分野についてはCO2排出削減施策が十分でないということになる。この「業務その他部門」におけるCO2削減の中で特に注力すべきなのがIT関連機器による消費電力削減である。
京都議定書基準年 [シェア] |
2005年度値 (基準年比) |
2006年度値 (基準年比) |
|
---|---|---|---|
産業部門(工場等) | 482[42.1%] | 452(-6.1%) | 455(-5.6%) |
運輸部門(自動車・船舶等) | 217[19.0%] | 257(+18.1%) | 254(+17.0%) |
業務その他部門 (商業・サービス・事業所等) |
164[14.4%] | 239(+45.4%) | 233(+41.7%) |
家庭部門 | 127[11.1%] | 174(+36.4%) | 166(+30.4%) |
エネルギー転換部門 (発電所等) |
67.9[5.9%] | 79.0(+16.5%) | 75.5(+11.3%) |
エネルギー起源小計 | 1059[92.6%] | 1201(+13.4%) | 1184(+11.8%) |
工業プロセス | 62.3[5.9%] | 53.9(-13.5%) | 54.1(-13.2%) |
廃棄物(焼却等) | 22.7[2.0%] | 36.7(+61.7%) | 36.9(+62.7%) |
燃料からの漏出 | 0.04[0.0%] | 0.04(+2.7%) | 0.04(-2.0%) |
非エネルギー起源小計 | 85.1[7.4%] | 90.7(+6.6%) | 91.1(+7.1%) |
総合計 | 1144[100%] | 1292(+12.9%) | 1275(+11.4%) |
実際、以下のグラフが示すようにIT関連機器の総消費電力は急激に増加してきている。 経済産業省の試算によれば、IT関連機器の総消費電力は2006年時点で470億kW/h(毎時470億キロワット)、2025年にはその5倍になる2400億kW/h(毎時2400億キロワット)にも達する。 したがって、京都議定書の削減目標を達成するためにはIT関連機器の消費電力削減が非常に重要なポイントとなるのである。
図. 経済産業省によるIT 関連機器の総消費電力量試算
だからといってコストを掛けてまで自社内のIT 関連機器の消費電力対策をしようと考え る経営者はおそらくいないであろう。京都議定書における削減目標達成の是非が個々の企 業経営に対して何らかの強制力を持つものではないからである。
しかし、実際には京都議定書と連動して各種の法制度が改正されている点を見過ごして はならない。その最たる例が2009 年4 月から施行される予定の「省エネルギー法改正案」 である。省エネルギー法とはある一定以上のエネルギーを消費していると見なされる企業 や事業所に対して、エネルギー消費状況の届出や省エネへの取り組みを義務付ける法律で ある。この「一定以上のエネルギーを消費していると見なされる」際の基準が改正案では 下記のように大きく変更されている。
対象 | 年単位でのエネルギー合計使用量が原油換算で1500 キロリットル以上の 工場または事業所 |
---|---|
内容 |
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対象 | 年単位での全事業所におけるエネルギー合計使用量が原油換算で 1500 キロリットル以上の企業(フランチャイズチェーン店も対象) |
---|---|
内容 | 改正前と同様 |
つまり、従来は一つの事業所や工場単位で個別適用されていた判断基準が企業全体の合 計値へと変わったことになる。個々の事業所や向上の使用量が小さくても、それらを合計 した値が基準を超えていれば同法規制の適用対象となる。これによって中堅・中小企業に おいても新たに対象となる企業が少なくないものと予想される。このようにグリーンIT は 中堅・中小企業においても無視できないトピックとなってきているのである。
グリーンIT が重要であることがわかったところで、あらためて「グリーンIT とは何か?」 について詳しくみていくことにする。
グリーンIT には大きく分けて二つの意味付けがある。 一つは環境保護や省エネのためにIT を活用すること、つまり「IT によるグリーン」である。 もう一つはIT 関連機器自身の消費電力を抑えることで環境保護や省エネを促進しようとす る「IT 自身のグリーン」である。これらを整理すると以下のようになる。
具体例)
今日、グリーンITといった場合にはこの「ITによるグリーン」と「IT自身のグリーン」の二つが混在して用いられているので、情報収集の際にはどちらのことを指しているのかを常に注意しておくことが重要である。先に述べたように昨今の法制度改正によって一般企業に対しても消費電力削減は義務化する傾向にある。そうした状況下では各企業が「IT自身のグリーン」の対策について理解しておくことが肝要となる。したがって本連載では主に「中堅・中小企業におけるIT自身のグリーン」に特にフォーカスしていくことにする。(具体的には上記の中の※1や※2に該当する部分となる。)
次回は大手企業や各団体のグリーンITへの取り組みを整理した上で、中堅・中小企業にとっての現実的かつ実践的なグリーンITへの取り組み案について詳しく述べることにする。
日立製作所や各団体の動きを踏まえた上で、中堅・中小企業にとって現実味のある実践可能な対策について紹介する
グリーンITと他のIT技術との関連及び今後の展望について紹介する