株式会社ノークリサーチ
中堅企業は、最近特に注目されている企業群で、ハード・ソフトメーカやベンダなどで集中的に拡販の「ターゲットゾーン」となっている。しかし、当の中堅企業の多くが「戦略的なIT活用」から程遠いのが現状だ。その要因は何かを知るためにも、まず自社のIT環境の課題・問題点を見直すことから始めるべきだ。
「中堅企業」がキーワードになった感のあるIT市場で、実はこのゾーンが「IT活用の停滞ゾーン」となっていることを忘れてはいけない。特に「旧態依然」とした体質で、「課題・問題点」が多いIT実態が鮮明となっている。一方では、社内のネットワークインフラ(ハード面)は整備されているのに、「戦略的なIT」の活用がまだ十分とは決して言えない。本コラムは、中堅企業のIT導入実態の分析からスタートして、「今日的なIT課題」を解決するべくソリューション、アプリケーションをタイムリーにご紹介していく。つまりタイトルにあるように、中堅企業が企業戦略的にIT活用するための「方法=肝」を明確にするのが目的だ。コラムの第1回目は、「中堅企業のIT環境(基幹システム)の実態調査結果」を取り上げる。06年に実施した中堅企業のIT実態調査を分析してみると、3つの大きな課題・問題点が明確になっている。
−「オフコン」「メインフレーム」などの「古い」システムを使用している企業が約半数−
かつての中堅企業の基幹システムはほとんどがオフコンであったことは、周知の事実だが、現在ではどうなっているだろうか。06年という最新の調査においても未だに「約半数がオフコンや汎用機などのシステム」を利用しているという結果になった。その割合は「PCサーバ」が49.5%でもっとも多いが、次いで「オフコン」が32.9%、「メインフレーム」が16.1%であった(図1)。つまり「オフコン」「メインフレーム」などのいわゆる「独自OSシステム=レガシー」の合計は49.0%となり、中堅企業の約5割がレガシーな基幹システムを使っている。
レガシーシステムは、ユーザ企業の業務特性に合うようフルカスタマイズされているのが最大の特徴で、そのためユーザの満足度は高い。「レガシーとはいえ十分使えるシステム」という理由で、オープンへの移行に多くの企業が躊躇したために、その結果レガシーシステムを使い続けている企業が未だに多く残っている。
−約6割が開発をベンダ委託。自社で開発できる人材・スキルに乏しい−
もはや中堅企業で、「IT部門」は独立した存在となっているのが常態だ。約7割が「ITの専任管理部門」がある。しかし「システム開発」については、「購入先(メーカ、SIer、販売店など=以下ベンダ)に委託」が57.3%と約6割が委託している。しかもベンダに対するシステムサポート評価は「満足している」が50%を超えた(図2)。
中堅企業の多くは、開発はベンダ委託で「運用」を「IT部門」が行っている。つまりシステム開発は、ベンダに「お任せする」のが中堅企業のスタイルだ。課題@で指摘した「レガシーシステム」を「満足している」ことは決して良い状況とは言えない。
−「付き合いのあるベンダ」からの提案に依存−
当然ベンダの選定では「現在使用しているシステム」は継続して同じベンダからという基準になる。なぜなら「満足して」いるからだ。「現在・過去の付き合い」からという選定基準が48.8%と最も高い。また導入プロセスは、「IT部門が推進者で、購入の意思決定は経営者・役員が行う」という声が圧倒的に多く、67.1%を占めた。反対に「経営者・役員が推進者・決定者となる」というところは10.5%と少ない(図3)。
つまり中堅企業のIT導入の流れは、経営陣がIT部門に「機種やベンダ選定」などは任せるが、「お金や目的については経営者」が決める。これでは単なる「IT部門としての機能」しか果たさないのは当然だ。「ITを戦略的に」というキーワードに対して、IT部門が対応するのは事実上難しい。
これまで中堅企業のIT実態の課題・問題点を述べてきたが、このような課題を解決していくため、IT部門は何をするべきなのか。
IT部門がまずやるべきことは、「IT資産の把握」「IT活用の把握」そして「ITシステムの戦略活用の推進」だ。そのために、まず初めにすべきは目立つレガシーシステムのリプレースだ。レガシーな基幹システムは、もはやシュリンクする運命にあるために、いち早くオープンシステムに切り替える。戦略的IT活用を見据え、新システムの導入を「投資」という観点で再検討しなくてはいけない。
ベンダとの付き合い方も考え直すべきだ。おざなりにしか提案しない、あるいはほとんど没交渉な既存システムのベンダなどは見直し、「今日的な要求要素である戦略的なシステムを提案できるベンダ」を見つけ、付き合うことが必要だ。その目利きがIT部門に求められるのは当然だ。
またIT部門自らも、ベンダに対して、「丸投げ」のような開発委託ではなく、同等なレベルでの「IT会話」が成立する程度のリテラシを高める必要がある。
今後、IT部門が主導的立場で、自社の経営陣や、現場ユーザと密なコミュニケーションをとることにより、これまでの単なる「IT担当部門」としての役割から、企業戦略的な意味での「社内IT戦略部門」としての機能へと「変貌」することが期待される。そうなることで、ベンダからの提案に対しても、独自の価値判断基準を持てるのだ。そのためには経営陣も、「ITを経営に役立たせる」ために、IT部門と協調していくことは言うまでもない。
今回は、基幹システムを取り巻く中堅企業のIT環境についての課題・問題点を述べたが、次回からはこの現状を踏まえて、「戦略的IT活用の具体策」に歩を進めたい。2回目はネットワークコンピューティングの要のツールである「運用管理の導入実態」をご紹介する。実に興味深い内容なのでご期待頂きたい。
調査概要
ノークリサーチは毎年定点で中堅・中小企業に対してIT導入実態調査を行っている。本コラム内で使用している調査結果のデータについては、2006年に弊社で実施した調査は、調査対象を年商50億円〜300億円未満の中堅企業に限定し、中堅企業の基幹システムの現状について聴取したものである(有効回答数=664)。