「止められない」業務基盤をどう刷新する
レガシーシステムからオープン系システムへの移行 こくみん共済coop事例で解説
レガシーシステムの維持コストや運用の手間に悩む企業は珍しくない。業務への影響を考慮すると新システムへの移行は容易ではないからだ。こくみん共済coopはこの課題をどう解決したのか。求められた技術要件や課題、成果を解説する。
こくみん共済coopは1957年の創設以降、共済事業を幅広く展開しながら成長してきた。膨大な数の契約情報の管理や、共済金支払いに伴う各種処理は、事務センターに設置したホストコンピューターで管理する。当然ながら、その運用には高い安定性が求められる。
「共済事業という社会的に非常に重要なミッションを負うシステムですから、絶対に停止させるわけにはいきませんし、うっかりミスも許されません。また組合員の皆さまの個人情報を大量に預かるシステムでもあるので、セキュリティ対策にも万全を期しています」(全労済システムズ 運用本部 運用一部 運用統括課 職域・媒体管理係 城 秀忠氏)
こくみん共済coopは、過去に自治労共済や全労済をはじめとする幾つかの共済が経営統合を果たすことで発展を遂げてきた。情報システムもかつては自治労共済と全労済とで別々のホストコンピューターを運用していた。
このうち自治労共済が運用していたホストコンピューターは、JCL(ジョブ制御言語)を使って各種バッチジョブを制御していた。ネットワーク接続された各県支部のサーバー上のバッチファイルをホストコンピューターから起動することで、県支部データの集信や配信、データベース更新を実施していた。
当時からジョブ制御の自動化ツールをホストコンピューターに導入してはいたものの、完全な自動化は実現できなかった。そのため、夜間バッチの処理順の制御やエラー時の回復のために、オペレーターが夜通しホストコンピューターの前に張り付いて、ジョブの実行状況を監視しなければならないといった、運用上の負担を抱えていた。
2008年、自治労共済のホストコンピューターをオープン系のクライアントサーバーシステムに移行することが決まった。これによりシステム導入費用を抑える他、夜間バッチの監視オペレーターの業務を廃して無人オペレーションとすることで、運用コストの削減も図ることになった。そのためには、従来ホストコンピューターで実施していたバッチ制御に加えて、さらに高度な自動化の仕組みをクライアントサーバーシステムに実装する必要があった。
そこで新たに導入したのが、ジョブ管理/スケジューリングソフトウェア製品として国内でトップクラスのシェアを持つ統合システム運用管理「JP1」の、ジョブ管理製品「JP1/Automatic Job Management System 2」(以下、JP1/AJS2)だった。
「夜間オペレーションを無人化するには、自動化の機能にたけたジョブ管理製品が必要でした。共済加入・契約内容や住所の変更など契約のイベントが発生するタイミングは組合によりまちまちなので、契約関連の処理を実行するジョブのスケジューリングもおのずと複雑になります。そうした複雑なジョブネット(複数のジョブの集まり)をシンプルに設計、運用できる必要があり、こうした要件を満たす製品を探した結果、JP1/AJS2が該当し、導入された経緯があります」(城氏)
複雑な業務フローを容易に開発(出典:日立製作所の提供資料)
全労済システムズにとって、自治労共済のシステムにおけるJP1の導入、運用は初めての経験だったため、JP1の導入や運用に豊富な実績を持つTISソリューションリンクの支援を仰ぐことにした。
「もともとTISソリューションリンクには当社業務支援に深く携わっていただいており、今回のオープン系システムへの移行に伴うジョブ管理の新規開発についてもご相談させていただいたところ、JP1のエキスパートの方に来ていただき、技術的に困難な部分もしっかり対応してもらえたので大変助かりました」と城氏は語る。
その後、全労済システムズはTISソリューションリンクの協力を得てJP1/AJS2を「JP1/Automatic Job Management System 3」(以下、JP1/AJS3)にアップデートした。現在は、JP1/AJS3でジョブを管理している。
TISソリューションリンクの種村光一氏(産業・公共ビジネス第1本部 産業ビジネス第1部 課長)は次のように話す。「当社はもともとJP1のSIを専門に扱う部隊を有しており、全労済システムズ様から相談いただいた『他システムのジョブ管理の仕組みをJP1に移管する』という案件はまさに当社が得意とするところでした」
TISソリューションリンクの種村光一氏
実際にJP1でジョブ管理の仕組みを開発する過程においては、もともとホストコンピューターで稼働していたジョブ管理の仕組みと、JP1/AJS3の仕様との差分を埋める必要があった。
「こくみん共済coopの業務になるべく影響を与えないために、もともとのジョブ管理の仕組みを極力そのままJP1/AJS3で再現することをめざしました。しかし仕様の差異があるため簡単には再現できないものもあり、JP1の機能を複数組み合わせたり、JP1になかった仕組みを新たに開発したりして、従来と同等のジョブ管理の仕組みをオープン系システムで実現しました」(種村氏)
こうして完成したJP1/AJS3のジョブ管理の仕組みは、運用開始当初こそ影響が軽微な問題が幾つか発生したものの、TISソリューションリンクの支援を得ることで速やかに解決し、その後現在に至るまで極めて安定して稼働しているという。
「TISソリューションリンクの支援により、期待していた以上のものができました。その結果、夜間オペレーションの無人化を実現できましたし、それに付随するトラブルも発生していません。JP1/AJS3を導入して視認性が高まったことで、ジョブの実行状況を把握しやすくなり、トラブル時のリカバリに要する時間も大幅に短縮できました」(城氏)
業務の予定と実績を可視化(出典:日立製作所の提供資料)
JP1/AJS3のログ取得機能を活用し、各ジョブの実行時間を容易に計測・分析できるようにもなった。この仕組みを利用し、処理に時間を要するジョブを特定することでジョブの適切なスケジューリングが可能になり、時間のかかるジョブによる業務へのネガティブな影響を抑えられるようにもなった。
さらに、JP1/AJS3とメールソフトウェアを連携させ、JP1/AJS3のアラート発生時に担当者にメールを配信する仕組みを実装したことで、ジョブのトラブルや予期せぬ停止などに即座に対応できるようにもなった。
このようにホストコンピューターのオープン化を機にJP1/AJS3を導入したことで、ジョブ管理業務の効率化と品質向上を同時に達成できた。その後自治労共済は2011年に全労済との経営統合を果たし、システム面でも両者がもともと運用してきた基幹システムの統合を図った。この過程においても、JP1/AJS3が役に立ったという。
「全労済がもともと運用していたホストコンピューターと、自治労共済のオープン系システムを連携させる必要があったのですが、両者の間でデータを確実にやりとりするためにJP1/AJS3のジョブスケジューリング機能が役立ちました。現在では、旧自治労共済以外のジョブもJP1/AJS3で管理するようになっています」(城氏)
業務に応じたきめ細かいスケジューリング(出典:日立製作所の提供資料)
このように、こくみん共済coopの業務を遂行する上で、今やJP1はなくてはならない存在になっている。2008年に利用を開始してから、業務に影響するようなトラブルもなく現在に至っている。これには成熟したツールもさることながら、そのノウハウやユースケースを熟知したベンダーが欠かせなかった。
全労済システムズでは今後も引き続きJP1を有効活用してシステムの安定稼働を図っていくとしているが、さらなる利便性の向上のためにJP1のこれからの進化に期待していると城氏は語る。
「これからもJP1を末永く利用していきたいと考えていますので、バージョンアップをさらに簡単にできる仕組みや、さらに少人数で運用できるような自動化機能の進化をぜひ期待したいと思います」(城氏)
TISソリューションリンク種村光一氏(左)、全労済システムズ城秀忠氏