日立のオープンミドルウェア製品群を活用し
インタフェース・プロセス・情報という3層の統合を実現。
先進的な学生・教職員用ポータルの構築に成功
名古屋工業大学では、システム連携の共通基盤として「新情報基盤システム」を構築し、2007年4月1日から運用を開始した。 新情報基盤システムは、ICカード認証を用いる堅牢な統一認証基盤を確立したうえで、日立の統合システム構築基盤「Cosminexus(コズミネクサス)」のポータル「uCosminexus(ユーコズミネクサス)Portal Framework」によるインタフェース統合、「電子フォームワークフロー」によるプロセス統合、情報資産管理基盤「DataStageR(データステージ)」による情報統合を実現。SOA的なアプローチによって、バックエンドで動く複数システムの存在を利用者に感じさせることなく、使い勝手の良い学生・教職員用ポータルシステムの構築に成功した。
名古屋工業大学
大学院情報工学専攻
教授
情報基盤センター
センター長
工学博士
松尾 啓志 氏
「ひとづくり、ものづくり、未来づくり」を教育理念として掲げ、技術イノベーションと産業振興を牽引するにふさわしい有為な人材の育成に取り組んでいる名古屋工業大学。時代の新たな要請に応えていくため、長い伝統の上に新風を吹き込む努力を続けている。
そのひとつの現われが2003年にスタートした中期計画である。この中期計画の中で、「事務処理の電子化」、「適切な情報管理」、「学生が学びやすいIT環境づくり」という目標を明示。これらの目標を達成するために、まずは、さまざまなシステムの共通基盤となる「新情報基盤システム」を構築することになった。
「事務処理をシステム化するにも、ペーパーレスを推進するにも、学生にタイムリーな情報を提供するにも、ベースになるのは認証基盤です。そこで、PKI認証と連携して機能するシングルサインオンの環境を作り、教職員および学生が自分のICカードでログインする全学統一認証基盤を作りました。さらに、シングルサインオンによって利用できる複数のアプリケーションを使いやすくするために、学生用ポータルと教職員用ポータルを構築したのです」と松尾氏は全体像を語る。
名古屋工業大学
大学院情報工学専攻
教授
工学博士
内匠 逸 氏
新情報基盤システムは、2006年10月に開発をスタートし、半年後の2007年4月1日から全学での運用が始まった。
システム全体は複数システムの複雑な連携で成り立っているが、利用者に見えるのは、ポータルという統一インタフェースだけである。ポータルシステムの構築には、日立の統合システム構築基盤「Cosminexus」のポータル「uCosminexus Portal Framework」が採用された。
教職員用ポータルには、メールボックス、スケジューラ、施設予約情報、電子掲示板、自分がかかわっている業務ワークフローの進行状況、新着情報など、個人にカスタマイズされた情報が表示され、必要な情報を即時に把握できるのである。なお、教職員用ポータルに表示されるスケジューラ、電子掲示板、メールなどのグループウェア機能は、日立のコラボレーションポータル「Groupmax Collaboration(グループマックスコラボレーション)」で構築した。一方、学生用ポータルには、携帯電話からも利用できる掲示板情報のほか、図書館情報、出欠管理システムの情報、Webメールの送受信状況などが表示され、英語学習支援システムなど外部システムとのリンクも張られている。
「最も理想的な形でポータル連携ができているのが図書館システムです。本の予約はもちろんのこと、借りた本の返却期限が迫ればポータル画面にカラー文字で表示されます。図書館システムに入ってさらにくわしい検索をするときもシングルサインオンでいいのです」と内匠氏は語る。
名古屋工業大学
情報基盤センター
技術専門職員
貝谷 邦夫 氏
教職員用ポータルからのシングルサインオンが確立されている業務ワークフローについて特筆しておきたい。同大学では、業務改善の一環として、旅費精算や物品購入など10種類近い業務を、日立の電子フォームワークフローを使って学内で開発した。
「単なる承認回覧ではなく、財務会計システムと連携しなければならないため、基幹システムとの連携機能が充実している日立の電子フォームワークフローを採用しました。また、電子フォームでこれまでの帳票をそのまま画面に表示させることができたため、初めてのワークフローも比較的スムーズに利用者に受け入れてもらえました」とワークフロー開発を担当した貝谷氏は説明する。
業務ワークフローの利用がスタートしてまだ3ヵ月だが、すでに合計1万もの案件で利用されていることからも、導入が成功している状況がううかがえ、今後、他の業務への適用拡大も予定している。なお、ワークフローシステムをはじめ、シングルサインオン後のシステムを正しいアクセス権限のもとで的確に動かすために、情報資産管理基盤「DataStage」を用いた。
「DataStageは、複数のデータベースからデータを統合するETLツールです。これを使って、学生と教職員を合わせた7,000名以上にのぼる全員の属性情報を、信頼できるデータとして一元管理する全学統一データベースを構築しました。この全学統一データベースとワークフローシステムを連携させることで、正しい権限に基づく的確なワークフロー運用を行うことができるのです」と内匠氏は言う。
名古屋工業大学の新情報基盤システムを整理すると、統一認証基盤を全体のベースにしたうえで、ポータルおよびグループウェアによる「インタフェース統合」、業務ワークフローによる「プロセス統合」、ETLツールで複数データベースを連携させての「情報統合」という3層の統合を実現していることがわかる。この3つの統合こそは、日立が考えるSOAのアプローチの基本形である。
「SOAはシステムの理想形ではありますが、その実現には、クリアしなければならない課題も色々あります。しかし、利用者が個別のシステムを意識しないで利用でき、サービスが前面に見えるシステムを作れたということでは、広義のSOAにはなっていると思います」と松尾氏は語る。
新情報基盤システムでの「SOA的なアプローチ」が成功したからこそ、情報の流れが一元化でき、組織の流動的な動きにも即応できるようになり、財務会計システムと連動する業務ワークフローを活用しての業務効率アップも達成できたのだといえるだろう。
同大学は今後、利用者の使い勝手を向上させるために、さらに多様なシステムを新情報基盤システムへ組み込んでいく計画である。
「国立大学は、これからは法人であり、たくさんの業務を低コストでこなさなければならないのですから、システムの基本的なあり方を変えていかなければなりません。目指すところは、柔軟な『サービス・オリエンテッド・組織アーキテクチャ』であり、新情報基盤システムは、これら変革を支える必要があります」と松尾氏は続ける。
「インタフェース」、「プロセス」、「情報」というという3層の統合を果たし、将来のシステム変革にも柔軟に対応できる基盤を手に入れた名古屋工業大学。今後も日立のオープンミドルウェア製品群にかかる期待は大きい。
USER PROFILE
国立大学法人名古屋工業大学
[所在地] 愛知県名古屋市昭和区御器所町
[創立] 1905年
[学部] 工学部
[学生数] 約6,500名
[教職員数] 約600名(教授、准教授、助教、職員合計)
名古屋高等工業学校を前身とする歴史ある大学。世界のものづくりの中心地である中京地区の工学リーダーとして、世界の工科系大学と連携しながら、異分野との融合による新たな科学技術創成に取り組む。学部卒業生の6割が大学院へ進学。