メインフレームで培った業務ノウハウの結晶を
COBOLをベースにオープンシステムに完全移行
運用管理コストの削減や社内システム間の連携強化などを目的に、基幹システムをメインフレームからオープンシステムへ移行する企業が増えています。しかし長年の業務ノウハウの蓄積ともいえるシステム資産を、品質や操作性を維持しながら移行する作業は決して容易ではありません。 丸紅株式会社では、メインフレームMP5600で稼働していた財務システムのオープン化にあたり、日立オープンミドルウェア製品群をフル活用して、オープンプラットフォームへ完全移行することに成功。 業務ノウハウの継承と、低コストで柔軟性の高いシステム基盤の構築をともに実現しました。
さまざまな分野で活躍する丸紅
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日本を代表する総合商社として、国内13拠点、海外72か国121か所の事業所・現地法人をベースに、幅広い業種に対応したグローバルビジネスを展開している丸紅株式会社(以下、丸紅)。変化の激しい経営環境の中、丸紅は経営システムのさらなる強化とともに、事業領域の拡大、商社機能の高度化・多様化、戦略分野への積極投資など、同社グループ全体の持続的な成長を成し遂げるため、2006年度から2か年計画の新・中期経営計画“G”PLANをスタートさせました。そこでは持続的な成長(Growth)と未来の栄光(Glory)という2つの“G”を目指したアグレッシブな挑戦が行われています。
こうしたダイナミックで柔軟な経営戦略をIT面からも支援するため、丸紅ではシステムの維持・保守にコストと手間のかかるレガシーシステムのオープン化に早くから着手。1990年代のIT基盤再構築に続き、2005年には基幹システムの一翼として、最後までメインフレーム上で稼働していた「財務システム」のオープン化に取り組みました。
この間の経緯を、情報企画部長である白石 寿太郎氏は、次のように振り返ります。
「当社では1999年からSAP® R/3®をベースとした新基幹システム・『MAIN-21』を国内本支社、海外現地法人、国内外事業会社に世界展開してきましたが、最後まで残っていたのがMP5600(OS:VOS3)で稼働していた財務系の基幹システムでした。このシステムは1980年代初頭から使い続けてきたもので、外国為替や入出金決済などの主力業務を担っており、まさに“現場力”のエッセンスが蓄積されたシステムでした。性能面でも特に不満はありませんでしたが、運用費用がかさむことに加え、当社独自のプログラム言語である“丸紅CORAL”(カタカナで記述する手続き型言語)を扱える技術者の減少によりシステムの保守・維持が困難になってきたこと、さらにオープン系のMAIN-21とのシームレスな連携が求められていたことなどから、IT環境の変化に強い、柔軟なプラットフォームへの移行に踏み切ることにしたわけです」
丸紅株式会社
情報企画部長
白石 寿太郎 氏
丸紅株式会社
財務部
財務システム課長(当時)
菅野 良巳氏
当初はプログラムの全面再構築や、流通パッケージをベースとしたシステム構築も考えたということですが、「IT環境の変化に比べれば、ビジネスの根幹に関わる業務ロジックは、そう急激には変化しないものです。私たちは、先輩たちが知恵を絞り工夫を重ねて、営々と築き上げてきた知的財産である業務ノウハウをきちんと活かし、丸紅の文化として継承したい、と考えました」と力を込める白石氏。
財務部 財務システム課長であった菅野良巳氏も、「国内出納/外国為替の情報系・決済系のすべてを網羅する財務システムは、丸紅本社だけではなくグループ会社でも利用されているのでユーザー数が多く、影響範囲も非常に広いものでした。そのため、現場の業務フローや操作性の変更は最小限にとどめたかったのです」と続けます。
IT投資の最適化が強く求められる現在、環境変化に即応できる新システムをミニマムな時間とコストで実現するため、既存資産の価値を再評価し、それを新たな基盤上でも有効活用するマイグレーションの手法に注目が集まっているのは、近年の市場動向からも明らかです。
そこで選択されたのが、日立が2004年秋に提案した「COBOLをベースとしたオープン化移行ソリューション」でした。 これは、既存のプログラム資産をCOBOL2002にコンバージョンしながら、XMAP3による画面設計、SEWB+を活用したリソース管理などを経てオープン化を果たし、最新のオープンプラットフォーム上でシステムの継続的な機能向上を目指すというものでした。 さらに、オンラインシステムの実行基盤として採用した分散トランザクションマネージャOpenTP1により負荷分散や多重度制御を行い、オープンミッションクリティカルシステムで多くの実績を持つHiRDB、Cosminexusを活用することでメインフレームと同等の性能や信頼性を継承することに取り組んだのです。
丸紅株式会社
情報企画部
部長代理 基幹システム課長
菅藤 透 氏
2005年2月、財務部と情報企画部の指揮のもと、同社のシステム開発を手がける丸紅情報システムズ株式会社と日立が共同で取り組んだ財務システム・オープン化プロジェクトがスタート。 現状の機能をそのまま活かすプログラムはストレートコンバージョン、新機能を加える場合は、インタフェースも含めてブラッシュアップするという2つの方法で作業が進められました。
「まず最初に行ったのは既存システム資産の棚卸しでした。 約3,700本あったプログラムを精査し、必要なものとそうでないものに資産整理をすることが、移行作業を効率化し、その後の保守性も高めると考えたからです。これにより、老朽化したり制度変更で使われなくなったものなど、約2割のプログラムを削減できました」 と語るのは、情報企画部 部長代理 基幹システム課長の菅藤 透氏。
次なるステップとして日立は、段階的なオープン化移行ソリューションを提案。
まず、旧財務システムの丸紅CORALをホストCOBOL85へ変換することでオープン化の土台を作りました。
続いて、移行対象に変換プログラムを適用し、業務ロジックを極力修正しない形でCOBOL85をCOBOL2002へとコンバージョン。あわせてホスト上のXMAP2をWindows画面のXMAP3へ変換、データベースもADMからHiRDBへフォーマット変換しながらスムーズに移行し、さらにJCL(Job Control Language)やジョブネットについてもツール変換や再定義によって問題なく移行することができました(図)。
これにより、新財務システムでは、OpenTP1とHiRDBの組み合わせによる信頼性の高いDB/DC機能の提供などもあわせて、メインフレーム時代と同様の画面操作性を、日立のUNIXサーバ「EP8000(OS:AIX)」と連動したWindows画面で実現。
Cosminexusの適用により、将来を見据えた高信頼のJava™環境も実現しながら、全世界に250〜300万人近くいるといわれているCOBOLプログラマーの経験やスキルを、今後もオープンシステム上での新規プログラムの開発や保守に活かせるフレキシブルな環境へと移行することに成功しました。
(図)COBOLをベースとした段階的オープン化移行ソリューション概要
「日立さんに特にご苦労いただいたのは、独自のカナ言語である“丸紅CORAL”を、いかに読みやすい国際標準のCOBOLに変換していくか、という点でした。プログラム開発に携わった人ならご存じのように、プログラムは書くことよりも、後から読む人がいかに正確にそのシステムロジックを理解できるかが、継続的なメンテナンスや品質の優劣を大きく左右します。そのため今回は、COBOLの細かな文法や構文の変換方式などについて、保守性の観点から時間をかけたチューニングをしていただきました。これはメインフレーマーとしての長い歴史と実績を持ち、かつオープンシステムの最新技術とノウハウも持つ日立さんでなければできなかった作業だったと感謝しています」(白石氏)。
菅野氏も、「稼働前に最終的な成果物を検証しましたが、日立さんにやっていただいたストレートコンバージョンのプログラムは変換ミスがきわめて少なく、最終テスト・導入過程におけるユーザーの負担がかなり軽減されて助かりました。また業務フローや操作性の点でも、従来からのユーザーに違和感を与えることなく、新システムへのスムーズな移行が実現できました」と笑顔を見せます。さらに菅藤氏も、「プラットフォームを変えながら、現状の機能をそのままキープするというのは、実はかなり難しいこと。そこをきちんとやっていただけたことを評価したいですね」と言葉をつなげます。
2006年11月から本番稼働を開始した新財務システムは、高い処理性能を発揮するエンタープライズサーバEP8000により、メインフレームと同等のオンライン/バッチ性能を実現。同一筐体に収められたAP/DBサーバは現用系と待機系のクラスタ構成とされたほか、業務系のWebサーバも、ロードバランサと本番機2台を用いた負荷分散+クラスタ構成となっており、ミッションクリティカルシステムとしての信頼性と可用性を高いレベルで維持しています。
「財務システムは全社の基幹システムであり、『資金決済』を扱うものですから万が一のミスも許されません。丸紅グループ全体にわたるユーザー、多くのお取引先へご迷惑をおかけしないために、システムダウンのリスクだけはできる限り避けたいと考えました」と、菅野氏は強固なシステム構成の背景を説明します。
また、新財務システムのもう1つの大きな特長は、エンドユーザー部門の業務形態に合わせてコンバージョン形態をカスタマイズし、それぞれに適切なユーザーインタフェースと情報連携を実現したことです。
白石氏によれば、財務システムのリソースを活用する場合、現在の丸紅システムでは大きく3つの入り口があるとのこと。
「1つは今回リニューアルしたEP8000のクライアント端末、次に営業の一般ユーザーが多く使うイントラネットのWebシステム、さらに丸紅グループ全体のIT基盤となったSAP® R/3®からのアクセスです。実はそれぞれのユーザーで、データ活用の目的や操作方法に大きな違いがあるのです」
そこで、バックオフィスとして機能する財務部のユーザーには、メインフレーム時代と同様にブラインドタッチで使えるキーボード主体のCUI( Character-based User Interface)が提供される一方で、時々刻々と変化する為替情報や営業情報などの活用頻度が高いフロントエンドのWebシステムでは、マウスを使ったGUI(Graphical User Interface)によるリアルタイムな情報提供を実現。さらにMAIN-21(SAP® R/3® )の画面からも「財務関連業務」という新メニューから財務システムとのシームレスな業務連携が図れるようになり、グループ内で財務業務のワンストップサービスを提供する環境が整いました。
ここでも、C/SシステムとWebシステム双方に対応したXMAP3をはじめとする日立オープンミドルウェアが、新システムの付加価値の高い機能と業務連携を強力にサポートしていることは言うまでもありません。
オープン化によるコスト削減も着実に効果を生み出しています。「ソフトウェアの減価償却が終わった際には、運用コストをメインフレーム時代と比べて7割減、つまり30%の費用に抑えられると試算しています。システム間連携が進んだことでペーパーレスや業務効率の向上も進んでいますし、今後のシステム改編にはCOBOLやJava™で対応できるため、開発要員も含めたITリソースの調達も非常に楽になるでしょう」(白石氏)。
さらに、「今回のシステムは、丸紅全社の内部統制対応のお手本をめざして開発してきた経緯があります」と、もう1つの側面を語り始める白石氏。「いわゆる内部統制には『プロセス統制』と『IT全般統制』がありますが、プロセス統制の部分では、資産整理とコンバージョン作業を通じて業務の見直しと可視化を図り、必要とされるリスクコントロールを実装することができました。IT全般統制の部分でも、アクセスコントロールやプログラムの変更管理などで、どこからも文句の付けようがない仕掛けを実装したと自負しています」
いわゆる「暗黙知」から「形式知」への変換、レディ・トゥ・ゴーで柔軟に変更できるシステム環境の整備が、内部統制と効果的にリンクした今回のオープン化プロジェクト。今後は、これらのノウハウを他のシステムにも適用しながら、財務システムの機能追加やブラッシュアップを積極的に図っていきたいと語る菅野氏。日立はその持続的な成長(Growth)と未来の栄光(Glory)に向けた挑戦を、これからも信頼性の高いハードウェアとオープンミドルウェアによって力強くサポートしてまいります。
金融・為替トレーディングルームでも
日立製品が数多く使われている
ユーザーの問い合わせに対応するサポートセンタ
財務部オフィスでは、FLORAパソコンから財務システムへの入力作業が行われている。
メインフレーム時代と変わらない画面と操作性を継承しているため、システム移行教育も最小限で済んだと評価されている
USER PROFILE
丸紅株式会社
[本社] 東京都千代田区大手町1丁目4番2号
[創業] 1858年5月
[代表者] 代表取締役社長 勝俣 宣夫
[資本金] 262,686百万円
[従業員数] 3,677名
(上記のほか、海外店・海外現地法人の現地社員1,646名)
総合商社として、食料、繊維、機械、金属・エネルギー資源、化学品、紙パルプなどの輸出入(外国間取引を含む)および国内取引から、資源開発、電力事業、建設・不動産業務、金融ビジネスまで広範な分野での商品取扱・事業運営をグローバルに展開。