将来の業務変化対応と効率化追求のため、水先業務管理システムを
SOA基盤上に構築し“サービス”として提供。
「安全・確実・適正な水先」を支える日立オープンミドルウェア
愛知県の「伊勢三河湾水先区水先人会」では、水先人のスケジュール管理など、水先業務を統合的に管理する「Pilot CO-Management System(以下、PICOM(ピコム))」を構築。
開発を担当した株式会社JSOL(以下、JSOL)は、機能の変更と追加を加えながら、変化に対応し長期間にわたって使い続けていくシステムを作る手段として、SOAを基盤としたシステム構築を提案。基盤には、今までの実績と高い信頼性を評価して、日立のSOAプラットフォーム「Cosminexus(コズミネクサス)」を採用。
さらに、帳票ツール「uCosminexus EUR(ユーコズミネクサス イーユーアール)」やノンストップデータベース「HiRDB(ハイアールディービー)」など、オープンミドルウェアからハードウェアまで、日立製品で統一することで、システム全体の可用性・信頼性をより高めている。
伊勢三河湾水先区水先人会
会長
新田征志郎氏
伊勢三河湾水先区水先人会
理事
山内良介氏
多数の船舶が行き交う港などにおいて、 船舶が安全に航行できるように、外航船や 内航船の船長を補佐するのが水先人である。
「伊勢三河湾水先区水先人会では120名 の水先人が、年間約2万9,000隻の安全航行 をサポート。自動車の輸出など中部地域の経 済・貿易の円滑な流れを、縁の下の力持ち となって支えています」と新田氏は語る。
安全航行を支えるうえで重要なのが、配乗 業務だ。水先人は、資格や経験年数によって、 補佐できる船の種類が異なる。船が入出航 (港)する順番や航路に応じて、正確に効率 よく水先人を割り当てるのが配乗業務である。
「船舶も水先人も24時間365日動いており、 配乗業務も24時間交代勤務で対応していま す。しかしこれまでは、配乗業務には大変な 熟練が要求され、水先人会事務局のベテラ ン担当者に業務負荷が集中していました」と 山内氏は語る。
伊勢三河湾水先区水先人会
監事
堀田邦雄氏
2007年に水先法が改正され、伊良湖三河 湾と伊勢湾の2つの水先区が合併した。
「管理する水域、船舶、水先人が一気に大 規模化し、配乗業務も複雑になり、システムを 根本から作り変えることになりました。システム を刷新する以上は、『安全・確実・適正な水 先』という我々のコアコンピタンスを再認識し たうえで、これをより高いレベルで実現できる システムを目指しました」と堀田氏は説明する。
新システムに求められた要件は、「配乗業務 の効率化」と「カスタマーサービスの向上」だ。
「水先業務に精通しているJSOLへ2つの 要件を説明したところ、従来のクライアント/ サーバ・システムからWebシステムへの移行 を提案されました」(堀田氏)。
Webシステムへ移行することで、水先人は パソコンや携帯電話で、最新の配乗情報を いつでも確認できる。
水先人会事務局や代理店などで利用する
嚮導申請登録画面(上)と、水先人会事務局で
入力を行う配乗入力画面(下)。
また、カスタマーである船主の業務を行う 代理店も配乗情報を見られるようにしたり、 嚮導(きょうどう)依頼情報を直接入力できるようにする など、カスタマーサービスの向上や事務作業 の効率化にもWebシステムは有効だ。
さらにJSOLは、SOA基盤でのシステム構築 を提案した。機能または業務をサービスの単位 で作成し、システムの見える化や機能や業務 の独立性を確保するのだ。これにより、法改正 や業務内容変更への迅速な対応を可能にし、 機能の変更と追加を加えながら長期間にわ たって使い続けていくシステムが実現できる。
「電源タップへどんどんコンセントを差し込ん でいく感覚で、新機能を足していくことができる のがSOAの本質。システムをゼロから作り直す ことなく、長期間にわたって利用することができ ます。また、今回構築した新システムのPICOM では、インターネット接続によって、そのサービス が利用可能なので、全国どこの水先人会から でも利用できます。他の水先人会でも合併や システムの作り変えが進んでいますから、利用 範囲が広がれば、システムがより洗練され、コス トメリットにも期待できるでしょう」(堀田氏)。
株式会社JSOL
名古屋支社兼
第一SI本部
プロジェクト
マネージャ
橋本卓弥氏
開発を担当したJSOLは、サービスの実行、 一連の業務としてサービスを統合するSOA 基盤として日立のSOAプラットフォーム 「Cosminexus」を採用した。
「JSOLにはCosminexusを利用したシステ ム開発の実績があり、その信頼性を高く評価 していました」と橋本氏は語る。実際に開発か ら本番稼働後の運用まで順調であるという。
また、ミドルウェアからハードウェアまで、一括 で揃えられる日立の総合力と、国内ベンダー ならではのサポートに対する期待も大きかった。
「サポートは期待以上に手厚いものでした。 問い合わせに対しても、その日の内に回答 があり、素早く対応してくれました」(橋本氏)。
SOA基盤以外でも日立製品を導入。ハード ウェアには、日立アドバンストサーバ「HA8000」 を採用。約30種類の帳票開発には、コスト パフォーマンスが優れていた帳票ツール 「uCosminexus EUR」を活用。データベース には、ノンストップデータベース「HiRDB」を 用いて、システム全体の親和性を高めた。
また、Webシステムでありながら、クライア ント/サーバ・システムに匹敵するハイレスポ ンスとユーザビリティを実現するために、RIA 構築ツールとして「Nexaweb」および、日立 システムアンドサービスが開発したフレームワー ク「Extended Struts for Nexaweb」を採用。 JSOLと日立システムアンドサービス、日立 製作所の3社が一体となって、誰もが使い やすいシステムの開発に尽力した。
伊勢三河湾水先区水先人会
事務総括
仲田 徹氏
伊勢三河湾水先区水先人会
課長代理
水野淳司氏
2009年4月、新システムは本番稼働を開始。
「Cosminexusを採用したことによる最大 の効果は、可用性が高まり、予定外のサービ スストップが発生しなくなったこと。加えて、 ミドルウェアからハードウェアまで、日立製品 で統一したことで、システム全体の親和性が 高まり、24時間365日の安定稼働を要求さ れるシステムの信頼性を、より高めることが できました」(橋本氏)。
今までの人のスキルに頼ったものであった 配乗業務が、新システムでは、機能の追加や 見える化、組み合わせにより、かなりのレベ ルまでシステム化され、高い熟練度を必要 としなくなった。
「配乗業務の標準化・平準化が大きく前進 したことで、今後は経費削減効果も出てくる でしょう」と仲田氏は語る。
水先人にとっても、リアルタイムな配乗情報 を確認できるようになったという成果は大きい。
「船の入航(港)が遅れたり、出航(港)が 中止になるなどの変更を、リアルタイムに知る ことができて心強い」(山内氏)。
「これから水先人会に加わってくる若い人 も使いやすいと思ってくれるような、先進的 なシステムを作ることができました」(水野氏)。
改正水先法では一律料金を廃するなど、 水先業務を取り巻く環境は変動期にある。
「水先人によって、提供する仕事の中身も 料金も異なるという新時代へ突入しつつあり ます。配乗業務も報酬管理も、さらに複雑化 していくなかで、ステップバイステップでシス テムも進化させていきたい」(新田氏)。
CosminexusのSOA基盤上に構築した PICOMは、可用性・信頼性の向上に成功し つつ、これから先の環境変化にも柔軟に対応 していくことができるのである。
PICOMサービスは、インターネットで全国どこからでも利用可能。
USER PROFILE
伊勢三河湾水先区水先人会
[所在地] 愛知県半田市11号地1番5
1953年に、名古屋水先人を引退した工匠幸三
氏が、地元港運業界の依頼を受けて、衣浦港
で水先類似行為をスタート。その後、船舶の増
加と法整備が徐々に進み、1977年、伊良湖三
河湾水先区が制定され、「伊良湖三河湾水先
区水先人会」が誕生した。2007年、改正水先
法が施行されて、伊良湖三河湾と伊勢湾の水
先区が合併するとともに、水先人会は公益法
人となった。
PARTNER PROFILE
株式会社JSOL
[東京本社] 東京都中央区晴海2-5-24 晴海センタービル
[大阪本社] 大阪市西区土佐堀2-2-4
[名古屋支社] 名古屋市中区丸の内2-18-25
[設立] 2006年7月
[資本金] 50億円
[従業員数] 1,300名(2009年1月現在)
株式会社日本総合研究所から会社分割で設
立されたシステムインテグレータ。幅広い業種
および公共分野へ、ITコンサルティングからシス
テム構築・運用まで一貫したサービスを提供。
PARTNER PROFILE
株式会社日立システムアンドサービス
[本社] 東京都港区港南2-18-1 JR品川イーストビル
[設立] 1978年9月21日
[資本金] 41億9,000万円
[従業員数] 5,215名(連結、2009年3月末現在)
システムインテグレーションおよびシステムサー
ビスを主力事業とするシステムインテグレータ。
コンサルティングからシステムの企画・設計、開
発、保守・運用に至るトータルソリューションを
ワンストップで提供。