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2008年2月6日
発振周波数28GHzでオフセット周波数1MHzにおいて
位相雑音性能マイナス113dBc/Hzを達成
株式会社日立製作所(執行役社長:古川 一夫/以下、日立)は、次世代の通信技術として注目されている数ギガビット/秒級のミリ波高速無線伝送システム向けに、このたび、低コストのCMOS*1デバイスを用いた発振器*2を試作しました。試作した発振器(中心発振周波数28ギガヘルツ)の性能を測定した
ところ、高周波信号の位相が不安定になる位相雑音(オフセット周波数*3:1MHz)が、マイナス113dBc/Hzと、世界最高レベルの低雑音性能であることを確認しました。これは、CMOSデバイスを構成するMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)の動作を制御する、「電圧振幅再分配技術」の開発により実現したものです。
ミリ波高速無線伝送システムで使用される60GHz帯は、7〜9GHzという非常に幅広い帯域を、無線局の免許なしに利用できる周波数として、国際的に認められています。この帯域を有効利用することで、データの圧縮・伸張を行わずに映像等を無線で送信することが可能になるため、実用化に向けた研究開発が進められています。今回、CMOSデバイスを用いた発振器でミリ波帯通信の低位相雑音化が実現できたことで、今後、ミリ波高速無線伝送システムの低コスト化と、通信距離の拡大により、情報家電製品などへの応用が期待できます。
なお、本成果は、総務省の国家プロジェクト「ミリ波帯無線装置の低コストの小型ワンチップ化モジュールの研究開発」の一環により、達成したものです。
数ギガビット/秒級の高速無線伝送技術は、壁掛けが可能な超薄型テレビとチューナー間での非圧縮かつ高精細での画像信号の伝送を可能にしたほか、大容量記録装置とパソコン間での高速無線伝送や、高速大容量の無線LANシステムの構築を実現する通信技術として注目されるなど、その需要が高まりつつあります。近年、その無線伝送の手段として、周波数帯域が広く、データの圧縮・伸張をせずに映像データを送信できるミリ波周波数帯域を用いた高速無線伝送システムが注目されています。
これまで、ミリ波帯周波数で動作する高周波回路には、ガリウムヒ素を代表とする高価な化合物半導体デバイスが用いられていましたが、半導体微細化技術の向上により、低コストで製作可能なCMOSデバイスでも、動作周波数の性能向上を図ることが可能になりました。しかし、化合物半導体に比べて電気信号の減衰が大きいシリコン基板を用いるCMOSデバイスを、無線伝送用の高周波信号を形成する発振器に用いた場合、その信号の位相が不安定となる「位相雑音」が増大するという課題がありました。発振器の位相雑音は、無線伝送システムの通信距離を決定する重要な要素のため、ミリ波高速無線伝送システムの適用を拡大するためには、発振器の位相雑音を抑えることが必須となっていました。
このような背景から、日立は、微細CMOSプロセスを用いて、位相雑音の低い電圧制御発振器を実現する「電圧振幅再分配技術」を開発しました。
今回開発した「電圧振幅再分配技術」の特徴は、以下の通りです。
「電圧振幅再分配技術」は、発振器を構成するMOSFETのゲート端子とドレイン端子に、FET(電界
効果トランジスタ)が最適な動作状態になるように、電圧振幅値を個別に分配する技術です。一般に、発振器の位相雑音を低減するためには、(1)共振器のQ値*4を高めること、(2)出力端子におけるS/N比(Signal to Noise Ratio)*5 を高くすること、(3)発振波形に現れる歪みをおさえることが有効であると考えられています。
しかし、出力端子におけるS/N比を詳細に解析したところ、S/N比を改善するための設定値は、出力電力ではなく、FETのゲート端子における電圧振幅の大きさ(出力電流の大きさ)であることを確認しました。また、ドレイン端子の電圧振幅の大きさは、出力のS/N比には直接的に影響しないため、振幅を小さくしても位相雑音に悪影響を与えないことを発見しました。
これらの発見をもとに、電圧振幅再分配技術を用いてドレイン端子の電圧振幅を小さくすることで、線形領域*6動作を抑制しました。これにより、Q値の低下と発振波形の歪みを抑えることが可能になりました。同時にゲート端子の電圧振幅を大きくすることで、S/N比の改善も行いました。これらの技術の適用により、従来の電圧制御発振器に見られた位相雑音の劣化要因を解消し、位相雑音の低減が可能となりました。
指定した発振周波数において、ゲート端子とドレイン端子に電圧振幅値を個別に分配することが可能な共振器回路を開発しました。通常、発振器用の共振器は、1インダクタ(コイル)と1キャパシタ(コンデンサ)からなる一端子対回路で構成されますが、今回開発した試作機では、ドレイン端子とゲート端子に個別の電圧振幅を設定するため、2インダクタと2キャパシタで構成される二端子対回路としました。
今回、「電圧振幅再分配技術」の有効性を実証するために、130nmCMOSプロセスを用いた回路を
試作しました。その結果、20GHz以上の周波数を発振できる発振器の中で、世界最高となる位相雑音性能マイナス113dBc/Hz(オフセット周波数1MHz)を実測評価で確認しました。また、発振器の総合性能評価を表すFOM(Figures of Merit)*7も、世界最高となるマイナス187.4dBc/Hzを実現しました。なお、消費電力は発振器のコア部で12mWであることを確認しました。
60GHz帯の周波数利用に関しては、現在、国際標準化が進められており、今後、各家庭に60GHz帯の高速無線伝送システムを使用した様々な情報家電製品が登場してくると予想されます。今回試作した28GHz帯の共振器は、周波数を二倍にすることができる逓倍器を追加することで、容易に60GHz帯のアプリケーションに採用することが可能です。
今回開発した技術は、ミリ波高速無線伝送システムの通信距離の増大と、省電力化が同時に実現可能なことから、今後のシステム性能の向上に寄与する技術と期待されます。
なお、本技術は、2008年2月3日から米国サンフランシスコで開催されている「国際固体素子回路会議(ISSCC:International Solid-State Circuits Conference)」にて、2月6日(現地時間)に発表します。
株式会社日立製作所 中央研究所 企画室 [担当:木下]
〒185-8601 東京都国分寺市東恋ヶ窪一丁目280番地
TEL : 042-327-7777 (直通)
以上