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第2回:HCIへの期待とベンダーの選定基準

HCIの導入前の想定とのギャップ

  第1回のコラム では、HCI(ハイパーコンバージドインフラ)の急速な普及状況や導入効果、将来展望を概観した。HCIの導入によって、仮想化環境向けITインフラの運用管理を効率化すると共に、パフォーマンスやリソースの利用効率の向上を実現できる。加えて、ITインフラの柔軟性も向上している。こうしたHCIの特性が評価され、今後は仮想化環境を中心にHCIの利用範囲が拡大する見込みである。

  とはいえ、HCIの導入で必ずしも想定通りの効果が得られているわけではない。IDCがHCIを利用中の回答者159人に対して導入前の想定とのギャップを調査した結果、ギャップを感じた回答者は、運用管理の一元化が31.4%、運用管理の効率化が27.0%、導入時間の短縮が26.4%、利用効率の向上が26.4%であった。これは、現時点ではHCI単体では仮想マシン、ストレージそしてコモディティハードウェアの統合に留まるケースが多く、HCIを導入した範囲においては効率化が図れても、実際の導入に当たっては、既存環境からの移行支援や構築サービス、導入後のサポート体制、運用管理の自動化なども含めて検討しておかなければ、ITインフラ全体で見るとHCIの導入効果を最大限に享受できない場合もあるためであるとIDCは考える。

HCIの機能強化に対する期待

  それでは、ユーザーはHCIに対して、どのような機能強化を期待しているのであろうか。IDCがHCIを利用中または利用を計画/検討中の回答者608人から得られた結果を見ると、「パフォーマンスの向上」「運用管理の効率化の可視化」「ネットワーク管理機能の充実」「ネットワーク機器との統合の強化」「データベースへの対応」「HCIの管理機能の向上」「ハイブリッドクラウドの管理機能の強化」の順となった(Figure 3)。

  「パフォーマンスの向上」や「データベースへの対応」は、導入対象システムや導入規模の拡大、そして重要度の高いワークロードでの利用の増加を見据えたものであるとIDCは考える。また、「ネットワーク管理機能の充実」や「ネットワーク機器との統合の強化」には、コンピュートとストレージに加え、ネットワークも含めてデータセンターの主要な構成要素をHCIで一元的に管理したいという期待の表れとみられる。

  管理機能の向上に関しては、「HCIの管理機能の向上」のみならず、「ハイブリッドクラウドの管理機能の強化」、すなわちパブリッククラウドも含めたITインフラ全体を一元的に運用管理できる機能をHCIに実装することが期待されている。多くのユーザーでオンプレミスITインフラに加え、複数のパブリッククラウドを使い分けることが一般化しつつある。こうした散在するITインフラをHCIで一元的に管理することへのニーズが高いと言える。そして、HCIの導入を進めやすくし、その導入効果を評価するためにも「運用管理の効率化の可視化」を提供する機能が望まれている。HCIには、仮想化基盤の部分的な最適化に留まらず、将来的にはITインフラ全体に渡って運用管理の最適化を担う役割が求められていると言えよう。

FIGURE 3

HCIの機能強化への期待

HCIの機能強化への期待

Notes:
『2018年 国内ハイパーコンバージドインフラストラクチャ利用動向調査(IDC #JPJ42921818、2018年5月発行)』からの引用
複数回答。HCIを利用中または利用を計画/検討中の回答者(n = 608)。上位10項目
 
Source: IDC Japan, March 2019

HCIのベンダー選定基準

  それでは、HCIのベンダーを選定する基準をどのように考えているのであろうか。IDCがHCIを利用中または利用を計画/検討中の回答者608人を対象にHCIのベンダー選定基準を尋ねた結果を見ると、「導入コスト/TCOの低さ」「HCIの実績/事例の豊富さ」「ベンダーサポートの品質」「HCIにおける明確なロードマップ」「ソリューションの成熟度」が上位を占めた(Figure 4)。

  ベンダー選定に当たっては、コストの観点のみならず、実績の豊富さやサポート品質、そして成熟したソリューションであることといった安定稼働に資する項目が重視されている。ベンダーがHCIの導入実績を多く有し、HCIの導入や既存環境からの円滑な移行を支援できると共に、導入後の安定稼働や効率的な運用管理をサポートできる体制も併せ持っていることが重視されていると言えよう。さらに、HCIに関する明確なロードマップも重視されており、将来に渡ってITインフラの安定稼働を支援できるベンダーが求められていることが分かる。

FIGURE 4

HCIのベンダー選定基準

HCIのベンダー選定基準

Notes:
『2018年 国内ハイパーコンバージドインフラストラクチャ利用動向調査(IDC #JPJ42921818、2018年5月発行)』からの引用
複数回答。HCIを利用中または利用を計画/検討中の回答者(n = 608)。上位10項目
 
Source: IDC Japan, March 2019

結論

  HCIには、ITインフラの効率性や柔軟性を高め、パブリッククラウドのような使い勝手をオンプレミスITインフラにおいても実現することで、DX(デジタルトランスフォーメーション)時代に対応したITインフラへと変革を加速するソリューションとしての期待が高い。また、多くのベンダーがHCIのロードマップにハイブリッドクラウドの実現を掲げており、その方向に製品強化が進めば、パブリッククラウドの管理やパブリッククラウドとの連携も容易になり、HCIがオンプレミスITインフラの効率性や柔軟性を向上させるだけでなく、ITインフラ管理の中核的な役割を担う可能性もある。

  とはいえ、現実的には多くのケースでは既存の仮想化環境から段階的にHCIへの移行を進めることになる。したがって、単にHCIを導入するだけでは、HCIの導入効果は導入した範囲のITインフラの最適化に留まり、即座にITインフラ全体の効率性や柔軟性が向上するわけではない。また、今後もすべての用途をHCIに統合できるとは限らず、性能や可用性などの点で高い要求水準がある場合などは従来型の製品を用いた環境も並存することになる。DX関連のワークロードを中心に複数のパブリッククラウドも含めてITインフラを使い分けるケースも一般化するであろう。HCIの導入に当たっては、HCIの最適なユースケースや従来型のITインフラとの使い分けの提案、既存の運用管理プロセスとの並存も考慮した運用コストの最適化、既存環境からの移行や導入後の安定稼働を支援できるサポート体制や信頼性などを基準に、ITインフラ全体の最適化を総合的に支援できるベンダーを選定し、ITインフラの変革を進めることが重要になるとIDCは考える。