電子カルテをはじめ38台の物理サーバをHCIに集約
信頼性・可用性の向上と運用・コストの低減を両立
多様なシステムが活用される医療現場では、物理サーバの乱立による運用負荷増大や、増え続けるデータ量への対応、システムトラブル時の迅速な復旧などが大きな課題となっている。そこで奈良市西部エリアの地域医療を担う医療法人 康仁会 西の京病院(以下、西の京病院)は、電子カルテシステムのインフラ更新に合わせ、「日立ハイパーコンバージドインフラストラクチャソリューション for Microsoft Storage Spaces Direct(以下、日立HCIソリューション for S2D)」を導入。医療用システムで必須となる可用性と信頼性の向上、運用管理負荷およびコストの低減をトータルに実現した。
病院長 吉岡 伸夫 氏
世界遺産「薬師寺」からほど近い場所に位置する西の京病院。同院は、奈良市の西部地域で尽力する総合医療機関だ。「当院は設立当初より、一人ひとりの患者さまを一生涯かけて見守ることのできる“面倒見のいい総合医療施設”としてのあり方を追求してきました」と病院長を務める吉岡 伸夫氏は語る。
医療から介護、在宅ケアまでの生涯医療をめざす姿を指しており、療養病棟の充実やリハビリ施設の整備、介護老人保健施設の併設など、病のその先までをケアできる環境づくりが実践されている。
同院は地域の医療機関との連携を密にする一方、専門性の確立にも尽力し、奈良県下で病院施設として最大の「透析センター」としての役割も担っている。
「当院ではグループ施設全体で、患者さま一人ひとりの健康状態を電子カルテという形で共有しています。電子カルテは医療の生命線ともいえるシステム。そのデータ保護とインフラの安定稼働には力を注いできました」と吉岡氏は語る。
情報システム課 主任 前田 優二 氏
西の京病院が採用しているのは、ソフトウェア・サービス(以下、SSI)の電子カルテシステム「新版e-カルテ」である。そのインフラ基盤には長年、日立のサーバが活用されてきたが、ハードウェアリプレースを機に、他の部門システムも含めた仮想基盤への集約が行われることになった。その理由を、情報システム課 主任 前田優二氏は次のように説明する。
「当院では電子カルテや放射線、生理検査、内視鏡、調剤、透析、給食、グループウェアなどの部門システムを、それぞれ別の物理サーバ、計38台で稼働させていました。そのためサーバ室の設置スペースが無くなってきたこと、定期的なメンテナンスや障害対応の負担などが大きいことなどが課題となっていました。今回、電子カルテシステムのサーバ保守期限が迫り、ディスク容量も限界に近づいていたためリプレースを検討していましたが、将来的なことを考えると、サーバの設置スペースや管理負担を減らし、ディスクやノードの拡張が容易な仮想基盤への移行がベストではないかと判断したのです」
また、電子カルテシステムでは万一の障害時に備えて待機系サーバが用意されていたが、不安材料もあったという。
「これまでサーバに関するトラブルは発生していませんが、他の医療機関の事例を見ると、故障から待機系への切り替えまでに2時間ほどかかるということだったので、もう少し迅速に復旧できないかと考えていました」(前田氏)
さらに、部門システムの物理サーバはマルチベンダーで構成されているため、トラブル対応が院内では解決できない場合は、各メーカーに個別に相談・要請しなければならず、その手間も解消したい課題の1つだったという。
そこで前田氏が目を付けたのが、ハイパー コンバージド インフラストラクチャ(HCI)だった。
「今後も様々なシステムが増える可能性があるため、新しいインフラには業務を止めずにノードやディスクを必要に応じて拡張できること、また電子カルテを筆頭に、ほとんどがミッションクリティカルなシステムで構成されているため、障害時にも迅速に稼働を継続できる冗長性、複数の仮想サーバを一元管理できるシンプルな運用性を求めていました。そうした条件にフィットする仮想基盤がHCIだったのです」(前田氏)
HCIは基本的にx86サーバのみで構成され、各社独自のSDS(Software Defined Storage)技術を使うことで、外部ストレージやSAN(Storage Area Network)スイッチを排除し、各サーバ(ノード)の内蔵ディスクを1つのストレージプールとして利用する。これにより事前検証の必要がない信頼性の高いシステムを短期間で導入できるほか、運用負荷を大幅に軽減しながら、サーバを追加するだけでCPUやメモリ、ディスクのリソースを容易に拡張することが可能となる。
とはいえ、一言でHCIといっても多様な選択肢がある。前田氏は各ベンダーが提供するHCIシステムの特長や導入コストを入念に調査。7社からの提案を総合的に判断した結果、日立製作所と日立システムズが一体化して提供する「日立HCIソリューション for S2D」を採用した。
「電子カルテで使っているSSIの製品がWindows Serverで稼働していたことから、親和性の高いWindows系のHCIに絞り込みました。最終的に2社のソリューションが候補に残りましたが、日立HCIソリューションは、SSIの電子カルテとの連携で、既にほかの病院への導入実績があったこと、また以前から導入していた日立サーバの信頼性に加え、日立システムズの提案内容やサポートも決め手になりました」と、前田氏は語る。
また、日立HCIソリューション for S2Dが備えるコストメリットも大きな決定要因になった。
「一般的にHCIを動かすためのライセンスソフトには、かなり高額な費用がかかります。しかしMicrosoftのS2DとHyper-Vで構成するHCIに関しては、Windows Server 2019 Datacenterのライセンスでカバーできるため、追加費用が発生しません。HCI導入時の大きなコスト低減につながる点も高く評価しました」(前田氏)
日立HCIソリューション for S2Dは、Windows OS、Microsoft Azureといったクラウドとの親和性が高いMicrosoftネイティブのHCIソリューションである。ハイパーバイザにHyper-V、SDSにWindows Server 2019 Datacenter標準搭載のStorage Spaces Direct(S2D)を使うことで、スケールアップやスケールアウトが柔軟に行えるHCIを最適なコストで実現する。
さらに日立製作所は、最適なパフォーマンスと信頼性を確保したHCI構成を、あらかじめユーザー要件に合わせて構築した状態で提供する。物理環境上で稼働している既存のWindowsシステムも、P2V(Physical to Virtual)ツールにより、手間なくS2DのHCI環境に移行できる。
複数台のサーバを全体で1台のサーバとして動作させ、いずれかのサーバに障害が発生してもほかのサーバが処理を引き継ぎ、システム停止を防ぐWSFC(Windows Server Failover Cluster)にも対応。高い冗長性と信頼性を確保する。
HCIを構成するコンポーネントやアプリケーションにまたがった複合問題も、各サポートチームが連携し、迅速な解決をワンストップで対応。リモートでの24時間監視体制により、あらゆるトラブルに迅速に対処する。
2021年6月にキックオフしたHCI導入プロジェクトでは、日立システムズの技術者で構成されたチームが、前田氏と共に既存システムからの移行計画を策定。38台の物理サーバのうち、電子カルテを始め、ハードウェアリプレースが近づいている部門システム20台をまずHCIに集約することとした。
「古い部門システムでは前任者からの引き継ぎ資料が残っていないケースもあり、ディレクトリ構成を洗い直して移行方法を決めたり、1台構成だったActiveDirectoryサーバをメインとサブの2台構成にしたりなど、様々な要望もくみ取っていただきながら、HCI構成を組んでいただきました」と、前田氏は振り返る。
日立製作所と日立システムズはSSIと連携しながら、基盤構築からシステム移行、アプリケーションテストまでをスピーディーに実施。部門システムの一部を同年9月、電子カルテシステムを10月に本稼働させ、移行プロジェクトの第1フェーズがカットオーバーした。
新基盤は2ノードのS2Dでハイブリッド構成を組み、ディスク容量は今後7年間の運用を見越した50TBが用意された。このHCI環境に今後、残り18台の部門サーバが保守期限切れやハードウェアのリプレースのタイミングで順次追加されていくこととなる。
「すべての作業がトラブルなく進行し、実質3カ月という短期間でHCIを導入できたのは日立グループのおかげです」と前田氏は評価する。
HCI基盤への移行により、システムの集約化が一気に進んだ。まずは20台の物理サーバがHCIに移行した。残り18台分のリソースも既に同じ基盤内に確保されているため、最終的には物理サーバは4台となりサーバ室のラック占有スペースが大幅に削減できる。電気料金は最終的に70%削減できる見通しだ。
「将来、新規にシステムを立ち上げる際も物理サーバを用意する必要がないので、コストはさらに低減していくと思います。以前は38台ものサーバやネットワーク機器の状態を、それぞれ機器のLEDランプで目視確認していましたが、今ではフェールオーバー クラスター マネージャー画面で一元的に監視できるようになったのも嬉しいポイントです」(前田氏)
WSFCによるHAクラスタ構成で冗長性と信頼性も向上。ハードウェアに万一障害が発生しても、最新のデータを維持しながら最少のダウンタイムで継続運用できるようになった。
これまでシステムごとに行っていたバックアップも、Arcserve UDPを利用して仮想サーバ単位で実行する仕組みに変えたことで耐障害性が高まり、より安定的な医療サービスの提供が可能になった。
さらに、物理サーバから仮想基盤への移行により、グループウェアなど一部のシステムでレスポンスが速くなり、ユーザーの操作性や快適性が向上する効果も出ている。
「将来を見越し、スペック的にも余裕を持ったHCI基盤を構築したことで、日々の業務を安心して行えるようになりました。加えて感心したのは、オリジナルで作成していただいた丁寧な運用マニュアルです。仮想サーバの構築、P2V移行、バックアップ環境の構築などについて、画面遷移1つごとに手順が書いてあるので本当に助かります。このマニュアルさえあれば誰でも容易に業務が理解でき、一定のスキルが身に付くので、引き継ぎする際も安心です」と前田氏は語る。
今後も西の京病院は、日立HCIソリューション for S2Dを軸に、院内のデジタル化とリソース集約を加速させ、地域医療による医療・介護の発展と利用者サービスの向上に寄与していく考えだ。
日立HCIソリューション for S2Dによる新基盤は、2ノードのハイブリッド構成で、ディスク容量は50TBを確保。電子カルテシステムはHA構成により、トラブル時にも迅速に切り替えが行われる。今後は残り18台の部門サーバも統合される予定。