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東急電鉄と日立の協創で、
「ユーザー視点のサービス開発」を

2018-03-16

東京急行電鉄株式会社(以下、東急電鉄)は、2016年10月から、鉄道利用者向けの新しい情報提供サービスを開始しました。それが、駅の混雑状況などを画像で配信する「駅視-vision(エキシビジョン)」*1 です。日立の人流分析技術をベースにしたこのサービスは、各駅のリアルタイムな人の動静を伝えることで、乗車時間の調整や迂回ルート選択などの判断に役立ててもらうことを狙いとしています。サービス誕生の経緯と、今後めざすものについて聞いてみました。

*1
駅視 -visionは東京急行電鉄(株)の登録商標です

スマートフォンを見れば向かう駅の混雑状況がわかる

終業ベルがなる夕方17時。会社を出ようとすると、最寄り駅で開催されているイベントの終了時間と重なっていることがわかった。気になってスマートフォンの画面を見ると、確かに今、駅は人でごった返している。このまま向かっても、すんなり電車には乗れなさそうだ。

それなら、近くにあるお店でちょっと買い物をしていこう。18時に再度確認すると、混雑は多少落ち着いていた。人混みに揉まれることなく、スムーズに乗車。掘り出しもののバッグも買うことができたし、少し得した気分だ――。

これは、東急線沿線に住むあるビジネスパーソンの帰宅風景です。駅の混雑状況を確認して回避・迂回策を検討する――。これを可能にしたのが、東急電鉄が提供する情報配信サービス「駅視-vision(エキシビジョン)」です。

東急電鉄は東急東横線、東急田園都市線を中心に年間11億人超の人員輸送を支える首都圏屈指の鉄道会社です。2022年の創業100周年を見据え、「選ばれる沿線」であり続けるためにさまざまな施策に取り組んでいます。そんな同社は、2015年4月に、より一層利用者の視点にたったサービス強化を図るための部署として計画課を新設。駅視-visionも、この課が主導して実現したサービスの1つです。

既設の駅構内カメラの映像を活用し、混雑状況などの画像をスマートフォンやタブレットに配信。これにより、駅を訪れる前に、手元で状況を把握し、ルートや時間の変更などを可能にする。

このサービスは、利用者と路線のさらなる利便性・安全性向上に役立つものとして注目されています。


※ 日立の「人流可視化ソリューション」が 2017年度グッドデザイン賞を受賞
※ 株式会社 日立製作所にて意匠登録済み

カメラの元画像を加工するのではなく、無人の背景画像の上にアイコンを重ねて表示するため、元画像が漏えい・公開される心配がない。アイコンは動きや向きが上半身だけで分かるような工夫が施されている。

色分けした人型アイコンでプライバシーと見やすさを両立

これまでも同社は、東急線アプリやデジタルサイネージによる情報提供サービスをはじめ、ユーザーの利便性向上を図るさまざまな施策を展開してきました。しかし、駅の“今の状況”を伝える仕組みはなかったため、「駅に着いたら混雑していて電車に乗れなかった」といった利用者の声には応えることができていなかったといいます。

「そこで着目したのが、全駅で約3,000ある駅構内カメラです。これを使えば、お客さまの要望に応えられるのではないか。そこから検討が始まりました」と同社の矢澤 史郎氏は言います。

しかし、カメラの映像をそのまま配信はできません。プライバシー保護の観点で問題があるからです。そこで同社は、複数のITベンダーに相談し、「モザイク処理」「混雑状況の塗り絵表示」「人物の動静を判定したアイコン表示」という3つのアプローチで、サービス化を試みたといいます。

「画像を使うサービスということもあり、最も安心して使えるものがどれかについては、お客さま自身に評価していただこうと考えました。そこで私たちは、ベータ版を使った実証実験を6カ月間実施。お客さまセンターへのご意見やSNS、アンケートなどで感想を徹底的に集めました」(矢澤氏)。同時に、画面のわかりやすさや見やすさといったサービスそのものについても声を収集。こうして総合的に最も評価を得た「人物の動静を判定したアイコン表示」の手法を採用したといいます(図)。

この方式を提案したのが日立です。「人流分析技術」に基づく画像データ加工によって、リアルタイムでのアイコン表示を実現する。技術者とデザイナーがチームで開発に当たることで、機能と使いやすさを両立できることが日立の強みですが、これが東急電鉄のニーズに応えた格好となりました。

具体的には、動いている人/止まっている人をシステムが自動で認識し、無人の背景画像上に人型アイコンの画像を生成します。「この方式であれば、プライバシーを完全に保護でき、見た目にもわかりやすい仕組みが実現できると感じました」と同社の青戸 大介氏は話します。

また、動いている/止まっているだけでなく、アイコンの肩の形や姿勢を調整することで、「動いている方向」までを識別できるようにしました。駅の場合、人がどちらに向かっているかが混雑の重要な判断材料になるからです。さらに、移動速度や滞留状況を基に「混雑度レベル」を表示するゲージも追加。これにより、発生している混雑が「普通」なのか「異常」なのかもわかるようにしました。いずれも、日立からの提案を受け、密なコミュニケーションを通じて改善を続けた結果、生まれた機能だといいます。

2018年度中に全駅に展開 今後はAIの適用も視野に

こうしてサービス化された駅視-visionは現在、東急線のうち74駅の状況を配信しています。また沿線をカバーするケーブルテレビ会社とも提携し、テレビ向けの配信サービスも開始。スマートデバイスがなくても状況を確認できる仕組みも実現しています。

東急線アプリのダウンロード数は約50万件。アクセスログを解析した結果、輸送遅延などが発生すると、アクセス数が約10倍に跳ね上がることがわかりました。多くの利用者が駅視-visionを確認していることもその一因といえるでしょう。「遅延は、当社にとって不都合ともいえる情報です。しかし、事実をありのまま伝えることがお客さまのメリットになるのであれば、積極的に開示すべき。それがお客さまとの長期的な信頼関係を築くことにつながると考えています」と矢澤氏は強調します。

駅視-visionは、2018年度中の東急線全駅*2 での配信をめざしています。また将来的には、駅/時間ごとのデータをAIで分析し、イベント日程や天候、他社線の運行状況などを加味した“混雑予報”をサービス化することも視野に入れているといいます。

「選ばれる沿線」であり続けるため、必要なことを考え抜いた結果、具現化された駅視-vision。日立との協創のもと、新サービスの創出に向けた同社の挑戦はこれからも続いていきます。

*2
こどもの国線、世田谷線を除く

矢澤 史郎 氏
東京急行電鉄株式会社
鉄道事業本部
電気部 計画課 課長

青戸 大介 氏
東京急行電鉄株式会社
鉄道事業本部
電気部 計画課 主事

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