Chief Lumada Business Officer 対談シリーズ
2023年3月 日経ビジネス電子版 SPECIAL掲載
様々な業種・業界でDXが進展する中、アジャイル開発の推進や、基幹システムのモダナイズの課題、さらにクラウドなどの運用複雑化などに悩む企業が増えている。こうした課題を付加価値の高いデジタルエンジニアリングやマネージドサービスの提供によって支援しているのが日立製作所(以下、日立)のサービス&プラットフォーム ビジネスユニット(以下、BU)である。日立は顧客に対し、どのような価値創造を提供できるのか。サービス&プラットフォームBUのChief Lumada Business Officerを務める石井 武夫と、日立のLumada Innovation Evangelistである澤 円が語り合った。
―コロナ禍で社会やビジネスの環境が大きく変わりました。企業はデータドリブンな経営に向け、自社の業務変革や、次のビジネスモデルを生み出すDXに注力しており、トライアルを重ね進展させています。一方で、DXを進めるためには、現在の主要なビジネス、収益を支えている多くの業務基盤、基幹システムのモダナイズが必要とされています。こうした中、日立のサービス&プラットフォームBUは、どのようなスタンスで事業を推進されているのでしょうか。
石井:社会イノベーションを推進する日立のデジタル戦略は、お客様と直接接点を持つ金融・社会などのフロントビジネス、各業種のDXをソリューションやサービスでサポートするITサービス、そしてDXに必要な手法や最新のデジタルテクノロジーを提供するサービス&プラットフォームという3つの層が緊密に連携しながら進める体制となっています。その中で我々サービス&プラットフォームBUは、様々な業種・分野のお客様に向き合う営業やSEがくみ上げた、DXやクラウドに対する多様な課題やニーズを、フラットな立場からITプラットフォーム、ソリューション、サービスに落とし込み、幅広い業種のお客様にスケールし提供しています。
澤:日立のデジタル戦略を横断的な視点で見られるサービス&プラットフォームBUの存在は非常に重要です。私も以前日本マイクロソフトで、お客様のIT戦略を社内横断で支援するマイクロソフトテクノロジーセンターを率いていました。センターの運営をしていく中で、フロントの視点でお客様ニーズをダイレクトに受け止めることが、必ずしも最適な解決策にはつながらないことを理解していました。例えば、かつて自動車王ヘンリー・フォードは「もし顧客に、彼らの望むものを聞いていたら、彼らは“もっと速い馬車が欲しい”と答えていただろう」と言いました。自動車が普及する前の世界では、移動手段といえば馬車だったんですね。つまり、ヘンリー・フォードは、お客様のニーズを一度、抽象度高くまとめ上げ、どのようなテクノロジーが最も効果的にアプローチできるのかを考えデザインしていくことで、自動車の量産という解決策を考え付きました。このスタンスがとても重要だと思っています。
石井:澤さんが話したように、複数のお客様ニーズから“ここが共通の価値を生む要素ではないか”と考えていくのが我々のポジションです。例えば、あるお客様に対して価値を生み出したエッセンス、共通要素をほかのお客様にも提供できるかたちにまとめ上げます。そうすることで、よりスピーディーかつ広範囲にお客様のDXの課題解決を支援できます。
こうした観点が重要になってきた背景には、従来の基幹システムのような高品質と安定性を重視したシステムを扱うモード1*と共に、開発・改善のスピードや使いやすさなどを重視するDX志向のモード2*も取り入れていく必要性が急速に高まってきたことがあると思います。ミッションクリティカルなシステムを安定稼働させながら、一方では柔軟でスピーディーなアジャイル開発やDevOpsで新規ビジネスを開発しなければ、市場で勝てない――そう考え始めたお客様の変化です。こうした要望に、継続的かつ迅速に新たな価値を生み出す仕掛けが求められているのです。
澤:石井さんのおっしゃる通り、DXに関しては、「スピード感」が重要です。従来のウォーターフォール型が全てダメとは言いませんが、例えば1年分の予算を計上してから開発しても、実装のころには時代が進んでいることも有り得ます。現在のシステムは"入れておしまい”の完成品ではなく、常に手を加えて育て、システムをアップデートし、市場からの要望に対応し続けていくことが重要です。
もう1つDXに欠かせないのが「運用の自動化」ですね。日本ではよく“運用でカバー”という悪魔の言葉が使われますが、特定の作業が属人化すると業務やシステムのリスクとコストが一気に跳ね上がります。そうさせないためにはシステム全体を見渡して、属人化する恐れのある部分を可能な限り排除する。これがDXのベースラインになります。
―企業には、「DXをどう計画していけば良いか分からない」という悩みが多くあります。また「新しいサービスを素早く立ち上げたいが、うまくいかない」「構築したシステムの運用・管理に投入できる人的リソースがない」といった声も聞こえてきます。具体的に、どのような戦略と想いでサービスを展開しているのでしょうか。
石井:DX全般に関わる課題をトータルに解決していくため、日立は「お客様の経営課題を理解」し、「IT・OT・プロダクトで解決方法を創出」し、それを実装した「システムを構築」し、「運用・保守も担いながら次なる課題へ」という価値創造のサイクルを回しながら、お客様のDX推進を継続的に支援しています。
顧客のDXの成長サイクルと日立の支援
企画段階の「デジタルエンジニアリング」、ソリューション実装する「システムインテグレーション」、
デジタルサービス基盤となる機器や設備の「コネクテッドプロダクト」、
ソリューションの運用・保守を行う「マネージドサービス」の4象限で構成される
澤:いまお話しされたサイクルを回す具体例の1つが、「Hitachi IoT Platform for industry クラウドサービス」ですね。
石井:その通りです。これは製造業や社会インフラ分野を中心とするお客様向けに、DXの構想策定から、データドリブン経営に不可欠なデータ利活用基盤の設計・構築、セキュアなデータマネジメント運用までをワンストップで支援するサービスです。
もともとはサントリー食品インターナショナル様との協創で構築したデジタルツインのトレーサビリティシステムにおける、工場内のデータ収集・加工を自動化するIoT基盤をベースとしたものです。そして幅広い業種のお客様が必要とする機能を選択可能なかたちで提供するフルマネージドのクラウドサービスとなっています。日立が実際の協創案件で培ったユースケースをベースとしているため、たとえ全く違う業種のお客様でも、課題解決に役立つ共通要件が合致すれば容易にカスタマイズして適用することができます。これにより、従来ならPoCから始めて本番稼働まで2年ほどかかっていたプロジェクトも、半分ほどに短縮できる効果があります。
澤:日立は今、Lumadaで培ってきたデータ利活用の技術とノウハウを使って、特定の業種や業界に特化したサービスをパッケージ化したインダストリークラウドの提供をめざしています。その第一弾となるのが、この「Hitachi IoT Platform for industry クラウドサービス」という位置づけですね。
Hitachi IoT Platform for industry クラウドサービス
企業経営に不可欠なデータの収集・蓄積・管理、継続的な活用までのデータマネジメントを推進する
基本機能をサービスプラットフォーム化し、フルマネージドなクラウドサービスとして提供。
日立が協創案件で培ってきた数多くのユースケースから、DX戦略や業務構想の策定を支援する
―データマネジメントやクラウド活用のナレッジを横展開していくわけですね。それ以外にも、顧客課題を解決するための施策があれば、教えてください。
石井:お客様が継続的にDXを推進するためにはまず、お客様の経営課題を理解してDX計画を立案したり、ITインフラをモダナイズするためのグランドデザインを描いたりしていくことが重要です。このコンサルおよびデザイン思考のデジタルエンジニアリングを担うのが、2021年に日立の一員となったGlobalLogicです。
世界で400社以上のお客様企業を擁する同社は、個々の企業の将来像を可視化するエクスペリエンスデザイン、それを最新テクノロジーを駆使して実現する高度なソフトウエアエンジニアリング、システム導入後のデータ収集・分析を行うコンテンツエンジニアリングという3つの特長を持っています。お客様はGlobalLogicとの協創で、潜在的な課題の抽出からDXへの第一歩となるIT基盤のモダナイズ、クラウド移行などをスムーズに行うことができるようになります。
次に、その解決策を実際のシステムに実装するシステムインテグレーション(SI)が必要です。DXに欠かせない基幹システムのマイグレーションやクラウドシフトなどのモダナイズがこの領域となります。お客様が自社だけで新しいIT基盤を立ち上げ、構築・運用していくには大きなコスト・リソースが割かれます。そこで日立はオンプレミスとクラウドを適材適所に活用し、お客様の運用・管理の負荷を抑えたハイブリッドクラウドも提供します。こうしたSIを確実に行っていくには、ミッションクリティカル領域での豊富な実績とノウハウが欠かせません。長年モード1の世界で高い信頼を獲得してきた日立のケイパビリティと、モード2に欠かせないマイクロサービスの豊富な部品群を揃えるGlobalLogicとのシナジーで、お客様に最適なシステムを高い品質でスピーディーに構築していきます。
澤:日立とGlobalLogicのアセットを組み合わせて提供できるのは非常に画期的なこと。日立が様々な分野で培ってきたリアリティあふれる現場力と実績、そしてGlobalLogicが持つ世界最先端のデジタルなテクノロジーやノウハウが融合するということですから。
石井:さらに日立は、DXの基盤となるシステム全体の運用・保守も含めてサービス化してお客様に提供することができます。ハイブリッドクラウドをマネージドサービスとして活用することで、お客様は運用の煩雑さから解放され、俊敏性と信頼性も両立させ、これまで運用に割いていたリソースを本業に活用できます。ここでは、企業内データセンターも含めたハイブリッドクラウド環境での透過的で高信頼なデータ連携を行う「EverFlex from Hitachi」を活用します。さらにグローバルでは、多様なクラウドプラットフォーム上でお客様システムの運用・保守・評価を行う日立ヴァンタラがアプリケーションレベルでのシステムの安定稼働や自動化、継続的な改善を支援していきます。日立ヴァンタラは昨年、お客様のITオペレーションの刷新やモダナイゼーションを支援するクラウド・エンジニアリング拠点「Hitachi Application Reliability Center(HARC)」を米国およびインドに開設しました。こうしたアセットも活用して、お客様システムに対するさらなる運用コストの削減、リスク低減を支援していきます。
ハイブリッドクラウドソリューションEverFlex from Hitachi
基幹システムのモダナイゼーションを支援するため、サービス型のクラウドソリューションと
多彩なデジタルITインフラソリューションを組み合わせ、顧客ビジネスに適切なハイブリッドクラウドを構築。
DX推進に欠かせないデジタルITインフラを提供する
澤:日立をDXパートナーとしていただくことで、お客様はDXの企画・推進、システム運用に関わる煩雑な作業から解放され、経営基盤強化や新規事業開発に専念していただくことができる。これがDXの課題解決をすべての領域で支援する日立、そしてLumadaの強みです。日立がほかのベンダーと大きく違うのはここではないでしょうか。既存のシステムをクラウドへ“引っ越す”作業だけでなく、引っ越した後の“新しい暮らし”まで提案できます。お客様の必要なコンポーネントやサービスは何か、どうしたら“暮らし”をさらに改善できるのか。そういったあらゆる事象の相談相手となり、実現するための伴走者となるのが日立です。その時に重要なキーワードとなるのがLumadaであり、他の企業の成功事例を横展開できるインダストリークラウドというわけです。
―今後、サービス&プラットフォームBUでは、お客様にどのような価値を提供していくお考えでしょうか。
石井:日立の大きな強みは、ミッションクリティカルな領域で長年にわたって数多くのお客様の信頼を獲得してきたことだと思います。そこにグローバルで実績を持つグループ企業のケイパビリティも融合させ、基幹システムの安定稼働とDXの推進、双方の力を兼ね備えたDXパートナーとして認識、お付き合いいただければ本当に嬉しいですね。お客様に寄り添う伴走者として継続的に価値を創出していくのが我々の使命です。
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