Chief Lumada Business Officer 対談シリーズ
2022年4月8日
日立ハイテクは、「見る・測る・分析する」をコア技術に、半導体検査装置、生化学自動分析・免疫検査装置などの分野で、長年、世界シェアトップクラスを誇る製品も有しながら、光学技術による先端のテクノロジーを武器に、医療や材料開発などさまざまな分野で事業を展開している。高い技術力と専門商社として培ってきたグローバルビジネスの方向性をはじめ、「Lumada(ルマーダ)」を活用したデジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組み、スマートファクトリーや日立グループを支えるAI活用の事例などについて、日立ハイテク Chief Lumada Business Officerの三浦 英俊とLumada Innovation Evangelistの澤 円が対話した。
―日立ハイテクの成り立ちをお聞かせください。
三浦:当社は2001年に、日立製作所の半導体製造装置の事業と分析機器の計測事業という、最先端クラスの電子線・光学技術の開発・製造部隊と、これらの装置の販売をしていた商社が合体してできた会社です。商社機能を備えていることからグローバルなフロント力にたけているのが特色で、現在、海外25か国に拠点を構え、地域密着型で事業を展開しています。
澤:実際にグローバルなネットワークを持つのは大きな武器ですね。開発・製造の部隊と商社とでは、DNAがかなり違うように思いますが、当初からシナジーを発揮したのですか。
三浦:初めは葛藤があったようにも聞きますが、いまはさまざまなシナジーを生んでいます。それぞれの地域の肌感覚を持つ人が多数存在し、リアルにつながっているというのは大きな強みです。
澤:日立ハイテクの技術を、「見る・測る・分析する」という分かりやすい言葉で表現しているところがとてもいいなと思ったのですが、具体的にはどのような技術なのですか?
三浦:光学技術をベースにさまざまな物質の特性を測ることに加え、人間の認知能力をはるかに超えて、ナノスケールで原子の配列を見るといった電子顕微鏡などの技術がコアになっています。つまり、「サイエンスの目」と考えてもらって良いと思います。こうした技術は、将来世界がどう変わろうとも確実に必要とされる技術であり、これを磨き続け、とがらせることがとても重要だと考えています。
「見る・測る・分析する」×デジタル技術で課題を解決
三浦:一方で、「最先端のサイエンスの目」を社会につなげていくためには、デジタル技術が不可欠です。近年では、デジタル技術を駆使した最先端クラスのモノづくりも手がけています。その象徴が、2021年3月から稼働しているIoTを活用した最新鋭のスマートファクトリー「マリンサイト」(茨城県ひたちなか市)です。ここは半導体製造・解析装置を設計・開発・製造する工場で、設計から試作、検証、製造、配送、保守というバリューチェーンのデータを連携しながら、最適解を見つける取り組みをしています。また、エコサイトとして、再生可能エネルギーの利用と太陽光パネルの設置によってCO2の排出をゼロにするとともに、リアルタイムのモニタリングによって電力使用量を極力抑える取り組みをしています。
エコという観点では、リチウムイオン電池のライフサイクル・マネジメントにも注力しています。自動車業界や鉄道業界とのおつきあいを通じて、今後、リチウムイオン電池のリサイクルがきわめて重要な課題になるだろうと予想し、数年前からスタートした事業です。これからは、欧州の環境規制に即した取り組みも必須になります。そこでわれわれが開発したのが、リチウムイオン電池の劣化高速診断システムです。データ利活用により、リチウムイオンの状況をトレースし、リサイクル、リユースにつなげています。
一方、リチウムイオン電池の製造過程では、金属片などの異物が混入すると発火などの危険性があることから、その検出がきわめて重要になりますが、製造ラインでは当社のX線異物解析装置が活躍しています。つまり当社は、リチウムイオン電池の製造から再利用まで、バリューチェーンのそれぞれの領域で役立つ技術を手がけている。だからこそ業界全体を俯瞰(ふかん)して見ることができるし、新たな課題の発見へつなげることができるというわけです。
澤:お客さまとの協創を通じて課題が見えてくるわけですね。米国ポートランドにも拠点を構えていますね。
三浦:ローカルでのサポート体制を充実させるため、そしてスピーディーにリアルな課題を解決していくために、お客さまの近くで開発を進める必要があります。その一環として設立したのが、米国オレゴン州ヒルズボロ市の半導体エンジニアリング新拠点「Hitachi Center of Excellence in Portland」で、まさに協創の場となっています。
澤:ローカルにコミュニティを持ちながらも、1つの企業体として皆でビジョンをしっかり共有しながら、緩やかにつながっているということですね。まさにいま主流のコミュニティ化であり、新しい組織のあり方を体現していると感じます。
本対談・撮影は、新型コロナウイルス感染症対策によりオンラインで実施しました。
澤:Lumadaについても、グローバルに共有、実践されているのでしょうか。
三浦:そうですね。Lumadaというキーワードのもと、組織の枠を超えてつながることができるし、成功事例も失敗事例も共有できる場となっています。Lumadaは、データやツールを引き出せるIoTプラットフォームとしての役割を担うだけでなく、実際にお客さまとの協創によって生み出された多数のユースケース(導入事例)を備えていて、日立グループの皆の知恵、人の営みが詰まっています。つまり、Lumadaというのは、IoTプラットフォームというよりも、“as a field”というべきものであり、合意形成のための場となっているんですね。
澤:僕はLumadaってスピリット(魂)だと思っているんですね。共通の話題にするための旗印であり、まさに協創の場です。
三浦:いまや日本を基点にすることなく、アジアとアメリカ、アメリカとヨーロッパといったように、コミュニティが横につながるといった動きも出てきています。Lumadaという旗印のもと、ネットワークが活性化されるというのは非常にいいですね。
澤:コミュニティの存続において一番大事なのは、合意と定着です。そうすることで皆が安心して参加できるようになる。そのためのメカニズムがLumadaというわけです。
三浦:2021年度は、Lumadaの海外拠点従業員向けのオリエンテーションを実施するとともに、イントラ情報の共有ページの英語化なども進めました。Lumadaへの理解を深めることで、デジタルビジネスに果敢に挑戦する機運を全社で高めています。もっとも、その解釈は国、地域ごとにさまざまで、それぞれのコミュニティで咀嚼(そしゃく)して使ってもらえたらいい。そのためにも、各国市場におけるニーズや独自の商習慣、ルールなどには常に感度を高くして対応するようにしています。
―日立ハイテクの技術や取り組みは、日立グループ全体ではどのように活用されているのでしょうか。
三浦:ある意味、日立ハイテクはLumadaそのものといえるかもしれません。つまり、グループ全体では、お客さまも業界も、扱っている商品も違っていて、多様なビジネスをしているわけですが、その中でわれわれは、さまざまなビジネスユニットと組んで、ハブとなって縦横無尽にグループの海を泳ぎながら皆をつなげる役割を担っています。
また当社は、日立グループが全社的に取り組んでいるカーボンニュートラルをはじめ、多岐にわたる事業に資する多様な先端技術を持ち合わせています。その1つが、マテリアルズ・インフォマティクスと呼ばれる技術で、膨大な材料データと機械学習などのAI(人工知能)を使って新素材開発や医薬品の開発などに貢献しています。なかでも、私が社長を務める日立ハイテクソリューションズでは、化合物に特化した「化合物ディスカバリー」というAIを独自に開発し、お客さまの課題解決に役立てています。このシステムを活用することで、化合物の探索時間を圧倒的に短縮できるのです。いわば、時間の限界へのチャレンジですね。
時間へのチャレンジという意味では、われわれが日立製作所のときから半世紀にわたって開発してきた生化学自動分析装置においても、血液検体検査の時間短縮に注力してきた歴史があります。これをさらに突き詰めていくことで、将来的には自分の血液をリアルタイムにモニタリングして行動変容につなげてヘルスケアに役立てる、といったことができるようになるかもしれません。
澤:私は、デジタルの本質は、時間と空間という絶対に変えることのできない制約を、仮想的に解放できることにあると主張しているのですが、まさにその最前線を担っているわけですね。SF映画で描かれてきた未来のテクノロジーが現実になりつつあるわけで、今後、ますます面白くなりそうですね。
一方で、やはり人の幸せにおいてリアルな体験は非常に重要であり、それをテクノロジーでどう実現するのかというのが、最大の課題だと思っています。
三浦:おっしゃるように、豊かな時間と空間、リアルな体験をどう実現するかというのが、これからのビジネスの勝負におけるポイントになってくるでしょう。
先述したように日立ハイテクの先端技術は、どのように時代が変化しようとも普遍的に求められるものであり、それこそがわれわれのアイデンティティです。これからも世界中の人々のQoLやウェルビーイングに貢献できるよう、先端技術を磨き、LumadaでDXを加速していきたいと思います。
所在地:茨城県ひたちなか市新光町
敷地面積:約125,000m²
延床面積:約50,000m²
構造:鉄骨造 地上6階建
総投資額:約300億円
概要:タブレットやスマートフォンなどの需要増加や、EVや自動運転など自動車関連向けの半導体デバイスの需要拡大といった市場環境の中、半導体製造装置を中心とした主力製品の生産能力拡充と、多様な製品ラインアップを実現する開発環境の構築を目的として竣工された半導体製造装置および解析装置の設計・開発・製造を担う新工場
下記のフォームからお問い合わせください。