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Chief Lumada Business Officer 対談シリーズ

都市を支えるビルに、新たな価値を
IT×OT×プロダクトの強みを活かし課題に応える

2022年3月25日

都市を支えるビルに、新たな価値を IT×OT×プロダクトの強みを活かし課題に応える

働き方改革やニューノーマルへの対応、カーボンニュートラルへの取り組みなど、ビルが直面する課題は大きく変化している。長い歴史を持つ昇降機からビルサービスへと事業を拡大してきたビルシステムビジネスユニットは、蓄積してきた経験とデータ、デジタル技術の活用によって新たな価値を創出し、ビルを取り巻く課題に応えている。その取り組みにおいてLumadaはどのような効果を上げているのか。デジタル技術の活用はビルシステムにどのような価値をもたらすのか。日立製作所 ビルシステムビジネスユニット CDO 兼 Chief Lumada Business Officer 兼 IT本部長で日立ビルシステム取締役を務める小玉 剛久と日立製作所 Lumada Innovation Hub Senior Principalの加治 慶光の対話を通じて明らかにしていく。

蓄積したデータから予兆診断を可能に

株式会社 日立製作所 ビルシステムビジネスユニット CDO 兼 Chief Lumada Business Officer 兼 IT本部長 株式会社日立ビルシステム 取締役/IT本部長 小玉 剛久

株式会社 日立製作所 ビルシステムビジネスユニット CDO 兼 Chief Lumada Business Officer 兼 IT本部長 株式会社日立ビルシステム 取締役/IT本部長 小玉 剛久

―昇降機分野におけるデータ活用についてお聞かせください。

小玉:日立の昇降機ビジネスの歴史は古く、研究開発に着手したのは1920年代、エレベーター第1号機の納入は1932年にさかのぼります。以来、高速化・高性能化に取り組みながら1950年代には海外に進出し、国内外でシェアを拡大してきました。

納入台数が増えると、故障対応や保守点検などの保全サービスの高度化や効率化が課題となってきます。そこで昇降機の遠隔監視に着目し、1987年にまず「故障監視」を開始しました。故障の発生を遠隔で把握して事後保全を迅速化するサービスです。そして年々蓄積される故障事象のデータを活用し、1994年に「予兆診断」のサービス提供を開始しました。これが現在まで続くエレベーターの遠隔知的診断システム「ヘリオス」です。

加治:故障に関するデータを活用することにより、事後保全や計画保全だけでなく、予兆保全、CBM(Condition Based Maintenance)が可能になったのですね。30年以上前から遠隔監視に取り組んでこられたというのは、かなり先駆的と言えるのではないでしょうか。

小玉:はい、遠隔での予兆保全は業界に先駆けて実現しました。ただ予兆診断も最初のころは的中率が低く、現場のフィールドエンジニアからの改善要望も多かったようです。そのため研究部門、設計部門、品質検査部門、データ分析部門などが協力、試行錯誤を重ねた結果、最新のヘリオスではかなり高い確率で故障の予兆をつかめるようになりました。

加治:IoTという概念やLumadaという言葉ができる前から、機器からデータを集めて分析・活用するシステムを実現されてきたのですね。

デジタル技術により「見える、つながる、動かせる」

株式会社 日立製作所 サービス&プラットフォームビジネスユニット Lumada Innovation Hub Senior Principal 株式会社シナモン取締役会長 兼チーフ・サステナブル・デベロプメント・オフィサー 加治 慶光

株式会社 日立製作所 サービス&プラットフォームビジネスユニット Lumada Innovation Hub Senior Principal 株式会社シナモン取締役会長 兼チーフ・サステナブル・デベロプメント・オフィサー 加治 慶光

―Lumadaで昇降機ビジネスはどう進化していますか。

小玉:これまでは昇降機のデータ収集から分析までを当社が独自に行ってきましたが、Lumadaのデジタル技術やツールの活用、他事業部門との連携が広がったことで新たなサービスやソリューションが実現しています。例えば、2019年より提供開始したビル設備管理のダッシュボード「BUILLINK(ビルリンク)」では、ビルオーナーやビル管理者が、エレベーターの稼働状況や保全状況などをPCやスマートフォン上で確認、操作することを可能にしました。「見える、つながる、動かせる」をコンセプトに、広域災害時の復旧状況の確認や、エレベーターの休止・再開などの運行制御、天井ファンのオン/オフ、乗りかご内の液晶インジケーターに表示する情報の設定変更操作、保全レポート閲覧などの多彩なサービスメニューを提供し、ビル管理業務の効率化や利用者の安全・安心・快適の実現に貢献しています。

また今後、エレベーター以外のビル設備の稼働状況も見られるようなサービス拡充を予定しています。

加治:エレベータープロダクトと保全サービスの両方を提供しているからこそ実現できるサービスだと思います。近年は都市防災が社会課題の1つとなっていますが、災害時の迅速な対応も可能になりそうですね。

小玉:例えば近くの河川の氾濫が発生する前に、管理者が遠隔で操作してエレベーターを上階に退避させ、冠水による故障を防ぐ対策を取ることも可能です。

加治:災害後の復旧にも、Lumadaのデジタル技術を活用した保全サービスが役立つ可能性はあるのでしょうか。

小玉:そうですね。災害が起きた地域に他地域のフィールドエンジニアが支援に入る場合など、初めての場所でも迅速に動けるよう、お客さまのビルの位置やビルへの入り方などをスマートフォンで確認できるシステムを構築しています。

また、経験の少ないエンジニアでも音や振動などから故障箇所をすばやく判別できる故障診断ツールをメンテナンス用のタブレット端末に搭載しています。このツールは30年以上にわたって蓄積してきた90万件以上の故障に関するデータに基づいたもので、故障時だけでなく災害時の早期復旧にも役立つと考えています。

加治:昇降機はいまや都市の重要インフラの1つであり、災害時においては一刻も早い復旧が求められます。そのカギとなるデータの活用、デジタル技術の活用がLumadaによって広がる意義は大きいですね。

小玉:デジタル技術の活用という意味では、VR(Virtual Reality)やAR(Augmented Reality)を人財育成に応用しています。フィールドエンジニアの研修センターでは、2019年からVRゴーグルを利用した昇降路内への転落事故の疑似体験によって危険行動を防ぐ研修を行っているほか、実機の映像にARで注意ポイントを表示し、学習する仕組みも開発しています。

ハード・ソフト両面でビルの価値を高める

―近年注目される「スマートビル」への取り組みはいかがですか。

小玉:働き方改革やリモートワークの広がりなどを受けてオフィスビルを取り巻く環境は大きく変化し、ハード・ソフト両面からの価値向上が求められています。カーボンニュートラルへの取り組みも急がれる中で、IoTなどのデジタル技術の活用によって利用者の快適性を高めつつ、ビル全体の効率的な管理とエネルギー利用の最適化を実現するスマートビルへの期待が高まっています。

そうした動きを見据え、ビルシステムビジネスユニットではビルの設備とサービス両面の価値向上をめざす「ビル共通プラットフォームソリューション」を構築しています。このプラットフォームは「BuilMirai(ビルミライ)」と「BuilPass(ビルパス)」と呼ぶソリューションで構成されます。BuilMiraiでは、IoT技術でビル内のさまざまな設備からデータを集め、各設備の稼働状況や電力使用状況、人流などを可視化・分析し、スマートなビル運営やビル内のエネルギーの最適化などを行うことができます。BuilPassは、ビルの入退管理や施設予約のほか、就業者の利便性を高める情報提供、イノベーション・交流の促進などの機能をスマートフォンのアプリで提供するもので、ビルの価値向上に貢献します。

加治:これは先ほどのBUILLINKのスコープをさらに拡大し、ビル全体の運営やビルの利用者までを対象にしたサービスを提供するということですね。

小玉:そうですね。プラットフォームという位置づけですから、Lumadaを活用して日立グループ内のさまざまな技術やサービスと連携できることが強みです。例えば、BuilMiraiと連携させるセキュリティインシデント監視機能には、社会ビジネスユニットがパブリックセーフティの分野で鍛え上げた画像解析ソリューションを活用しています。また、高度なEMS(Energy Management System)が必要な場合には、工場や商業施設などで利用されている産業・流通ビジネスユニットの統合エネルギー・設備マネジメントサービス「EMilia(エミリア)」と連携させることができます。BuilPassは、Lumadaの就業者サービスプラットフォーム上のソリューションで、課金・決済情報と連携させることが可能です。将来は、指静脈認証を利用した決済システムの導入なども考えられ、さまざまな連携によってお客さまのニーズにより迅速に応えていきたいと考えています。

加治:ビルを利用する側としては、エレベーターがきちんとメンテナンスされ安心して利用できることはもちろん、待ち時間短縮なども期待したいところです。

小玉:それについては、ビルの中の人流データをAIで解析する人流予測型のエレベーター運行管理システム「FI-700」を開発し、混雑時の平均待ち時間を従来比で最大20%低減可能*にしています。コロナ禍(か)で待ち時間は全体的に短くなっているようですが、人流データの分析でビル内の部分的な混雑を避けるように人を誘導するシステムと連携させるなど、ニューノーマルに対応したさまざまな応用も可能です。

*
将来予測知能群管理エレベーターシステム「FI-600」との比較。15階床の建物で分速150mのエレベーター6台の運行管理を行う条件において。

ビル共通プラットフォームソリューションのコンセプト
ビル共通プラットフォームソリューションのコンセプト

データ連携をビルから街へ

―ビルシステムにおけるデジタルトランスフォーメーション(DX)への期待をお聞かせください。

加治:岸田政権はデジタル田園都市国家構想を打ち出しています。ビジネスや生活のインフラであるビルのDXが進むことは、デジタル社会の実現に向けた重要なポイントの1つでしょう。さらに、Lumadaのプラットフォームを利用してデータの連携をビルから街へ、他のモビリティへと広げ、より広い範囲で最適化を図ることによってカーボンニュートラルや人々のウェルビーイングに貢献できる可能性も高まります。

私は神奈川県スーパーシティ推進担当顧問、鎌倉市スマートシティ推進参与を務めており、多くのステークホルダーが存在するスマートシティには、多様な人や組織をつなぐ仕掛けが必要であることを実感しています。日立はLumadaアライアンスプログラムを通じてオープンイノベーションを推進していますが、そうしたことができるのも日立だからこそだと思いますし、ビルシステムを中心にスマートシティまでDXを拡大していくことに対する期待は大きいでしょう。

小玉:われわれとしても、そこをめざしています。カーボンニュートラルに関しても、エレベーターはもともとビル全体の消費電力の3%程度しか使用しない省エネルギーな乗り物ですが、さらなる低炭素化を図るとともに、BuilMiraiを基盤としてZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)への取り組みにも力を入れています。LumadaのITに、われわれの経験と知見、豊富なデータに裏打ちされたOTとプロダクトを掛け合わせ、水平展開や他部門との連携も進めることで、ビルシステムを起点とした社会イノベーションに貢献していきます。

加治:IT×OT×プロダクトが日立の強さの源泉であると考えると、ビルシステム事業はそれが集約されたモデル事業であるという見方もできますね。

今後もさらにLumadaの活用を広げてモデルとなるユースケースを増やし、ビルシステム事業が長年蓄積してきたデータや経験、ノウハウを活かして社会課題に応えていくことを期待しています。


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