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Chief Lumada Business Officer 対談シリーズ

日立がめざす社会インフラDX
コミュニティのインフラ構築からサーキュラーエコノミーへ

2022年3月11日

日立がめざす社会インフラDX コミュニティのインフラ構築からサーキュラーエコノミーへ

日立製作所(以下、日立)の水・環境ビジネスユニット(BU)は、水循環サイクルの構築を起点に、データを活用しながら、地域全体のサーキュラーエコノミーの実現をめざしている。それを支えるのが、OTとIT、プロダクトを組み合わせたトータルソリューションを提供してきた日立の水総合サービスプロバイダとしての実績とノウハウだ。そのほか、ゼロカーボンシティに向けた水素バリューチェーンの実現やAI(人工知能)を活用したインフラの維持・高度化など、レジリエントな社会に向けた取り組みを「Lumada(ルマーダ)」で加速している。これらの取り組みについて、水・環境ビジネスユニットChief Lumada Business Officerの石井 敦とLumada Innovation Evangelist(ルマーダ・イノベーション・エバンジェリスト)の澤 円が対話した。

「きれいな水」を提供するための日立の水道事業DX

株式会社 日立製作所 水・環境ビジネスユニット Chief Lumada Business Officer 兼 水事業部 社会システム本部 本部長 兼 環境事業部 担当本部長 兼 インダストリー事業統括本部 Lumada事業推進室副室長 石井 敦

株式会社 日立製作所 水・環境ビジネスユニット Chief Lumada Business Officer 兼 水事業部 社会システム本部 本部長 兼 環境事業部 担当本部長 兼 インダストリー事業統括本部 Lumada事業推進室副室長 石井 敦

―日立の水・環境BUは、水総合サービスプロバイダとして「きれいな水」を提供する事業と、産業系のお客さまの設備に対し「クリーンな環境」を提供する事業を柱としています。まずは日立の水事業の課題と取り組みについてお聞かせください。

石井:日立は水の事業については約1世紀にわたって取り組んでいて、主に浄水場や下水処理場に納入する電気設備や水処理設備やポンプなどの機械設備を通して、「きれいな水」をつくることに貢献してきました。国内の上下水道事業だけでなく、パプアニューギニアの下水処理設備の整備やモルディブの海水淡水化装置を使った水道水の提供など、世界の水環境の整備に貢献しています。

20年ほど前に比べて、東京や大阪の水はおいしくなったと言われていますが、そこには、オゾンを使って水を浄化し、臭いを取るといったわれわれの技術が生きています。いまや、東京都の水道水はミネラルウォータに引けを取らない「おいしさ」になっているんですよ。ときどき水道の水が茶色く濁っていることもありますが、多くの場合は水を運ぶ水道管の問題です。

澤:水道管の老朽化が問題だと。

石井:古い水道管からの大規模漏水が全国各地で増えていて問題になっています。

澤:そもそも管とか線とか、長いものを安全に使い、メンテナンスをしていくのは非常にやっかいですよね。私自身、長年、IT企業でデータセンターに関わる仕事のなかで苦労していたのが海底ケーブルの保守です。長いものの保守をすべてマニュアル・オペレーションでやるのは非効率です。

石井:おっしゃるとおりです。そこでいま、われわれは「漏水検知サービス」を開発し、実証を行っています。マンホールの下にある水道管の弁に、自社で開発した超高感度振動センサーを取り付け、漏水の有無を判定するというものです。大変精度良く漏水を検知できるという評価を得ています。

澤:今後ますます重要になるサービスでしょう。建物や道路を壊さなくてもセンサーで漏水がわかるのはいいですね。

石井:現状は、漏水調査会社の専門の方が、夜中に道を歩きながら音を頼りに漏水しているところがないかどうかを調べています。われわれのサービスを使えば、疑わしいところだけをピンポイントで確認できるようになり、効率化につながります。

澤:ビジネスにおいてよくないのが、「運用でカバー」というキーワードなんですね。つまり、人に依存するということ。いくらプロフェッショナルでも、ミスをする可能性はゼロではありません。そこはやはりテクノロジーをうまく使っていく必要があります。センサーから得たデータというのはすぐに電子データとして利活用できますし、そうしたデータをLumada上で別のデータにつなげてさまざまな分析ができるのも魅力です。
こうした新しい取り組みは、お客さまにすんなり受け入れられているのですか。

石井:水事業というのは、他の業界に比べると関係者が少なくDXの基盤づくりを進めやすい環境にあります。とはいえ、新しいサービスを納得してお使いいただくためには、やはり事前に効果を実感していただかなければなりません。他社の漏水検知のサービスと比較しても、負けない自信はあります。

漏水検知システムの概要
漏水検知システムの概要

水素の活用で、地域に根ざした「ゼロカーボンシティ」をめざす

―「クリーンな環境」を提供する事業としては、どのような取り組みをしているのでしょうか。

石井:ここ数年は環境問題を背景に、再生可能エネルギーや水素エネルギーなどを活用し、カーボンニュートラルに向けた取り組みを加速しているところです。水素については、再生可能エネルギーの余剰電力を使って水素をつくり、従来の燃料と混焼させるハイブリッドの発電設備をパートナーと一緒に開発して検証を行っています。すでに、宮城県富谷市、みやぎ生活協同組合(仙台市)、丸紅などパートナーと協力して、廃食油と水素を混ぜ、燃料として使うディーゼルエンジン発電機の実証を、富谷市で行いました。

株式会社 日立製作所 サービス&プラットフォームビジネスユニット Lumada Innovation Evangelist 株式会社 圓窓 代表取締役 澤 円

株式会社 日立製作所 サービス&プラットフォームビジネスユニット Lumada Innovation Evangelist 株式会社 圓窓 代表取締役 澤 円

澤:全面的に化石燃料から置き換わらないのは、何が障壁となっているのですか?

石井:現状はコストの面が大きいと思います。技術が普及し、量産効果によって価格が下がるとともに、エコな電力を使いたいという社会の機運が高まって、消費者行動が変容すれば、提供側の意識も変わってくるでしょう。

もう一つ、再生可能エネルギーの問題点として、供給できる電力量が不安定だということが挙げられます。当然、余剰電力の量も増減するため、製造できる水素の量も不安定になります。さらに、高圧で水素を輸送する際は、特定の資格を持った人が必要になるなど、輸送に関しては、安全性と経済性の両面から工夫が必要です。今後の水素貯蔵・輸送方法としてアンモニアなどの物質に変換する方法が研究開発されていますが、まだまだ課題は多いと感じています。

そうしたなか、われわれは社外のパートナーとともに、金属に水素を吸蔵させて、加熱や減圧で水素を取り出せる「水素吸蔵合金カセット」を用いて配送する実証を行っています。水素吸蔵合金は1メガパスカル未満の圧力で水素充填(じゅうてん)・放出が可能であり、非危険物です。これにより、再生可能エネルギーの余剰電力や廃食油、あるいはこれまで肥料にしかならなかった食品残渣(ざんさ)などを有効活用して、コストをかけずに水素をつくり、安心・安全かつ簡便に持ち運べるようになります。

澤:人間にとって絶対に変えることができないものは、「時間と空間」です。人間は物理的に時間を短くすることも、距離を短くすることもできない。しかし、テクノロジーはそれを仮想的に変えることができる。ところが、スエズ運河のタンカー座礁で明らかになったように、既存のテクノロジーだけで距離や時間を縮めるのは不十分だということです。やはり必要に応じて局地的に処理できるようなサイクルの構築が必要ですね。

石井:国内でも、人口減少に伴う過疎化が深刻な問題となっています。日本全体を一つのグリッドで管理し、メンテナンスをするというのはもはや限界に来ています。澤さんがおっしゃるように、グリッドから切り離されても使えるような技術と、地産地消のエコシステムをつくっていく必要がありますね。そこに、われわれが手がける水素のバリューチェーンが活用できると思っています。こうした技術があれば、インフラ網が整備されていない発展途上国に持っていったり、災害時に活用したりすることもできるでしょう。

水循環サイクルを起点に、サーキュラーエコノミーの実現へ

―日立は、Lumadaを活用したDXによって、サステナブルな社会の実現をいかにして推進していくのでしょうか。

石井:まず水の分野で、運転データや点検データを利活用できるDX基盤をつくり、最終的には無人で運転ができるようなシステムの構築をめざしています。それを道路や河川、防災などの分野に展開していきたい。そうなれば、市町村などの自治体の単位で、われわれが提供する基盤上にさまざまなデータを集約できるようになります。

これをさらに進めて、データを利活用しながら、サーキュラーエコノミーを推進していきます。たとえば、フロンなどの有害物も適正に回収しながら家電品を分解・選別し原料を再資源化したり、MRI(核磁気共鳴画像装置)の中から貴重なレアアース磁石を取り出して製品に再利用したりするといった資源循環も進めています。水・環境BUのグループ会社や他のBU、社外のパートナーとも連携を進め、資源循環の輪を大きく広げていきたいと考えています。

水事業に関していえば、平常時は、すでに無人化、自動化というのはかなりできるようになってきています。ただ、災害など突発的な事象が起こると、どうしても人が判断する必要があります。それをどうクリアするのかというのが今後の課題です。もっとも、それをAI(人工知能)に置き換えるとなると社会的に受容されないという別の問題もあります。

澤:少子高齢化は待ったなしの状況ですから、自動化できるところはどんどん自動化して、人間は別のクリエイティブな仕事をする、という考えにシフトしていかなければなりませんね。

石井:どの業界でも、熟練の職員が高齢化していなくなるなかで、若手へのノウハウの継承が問題となっていますが、システムのなかにナレッジを入れて伝承していくというのは確実な方法だと思います。

澤:AIは中身がブラックボックスで使いたくないなんて声もありますが、技術そのものを理解する必要はなくて、なぜそれが必要なのかを知ることが重要です。AIはあくまでも人を助けるものであって、音楽と同じように人類が豊かになるために人間が書いたコードですからね。

水・環境分野のOTを起点にコミュニティのインフラ構築からサーキュラーエコノミー型社会の実現へ向けて
水・環境分野のOTを起点にコミュニティのインフラ構築から
サーキュラーエコノミー型社会の実現へ向けて

「OT×IT×プロダクト」の強みを武器にDXを加速

石井:AIに関して、現在われわれは、「港湾AIターミナル」という、ターミナルオペレーター業務を支援する取り組みをお客さまとの協創で始めています。ターミナルオペレーター業務とは、港に到着した船からコンテナをヤードに降ろし、陸運業者に引き渡すまでの一連の業務のことですが、たくさん積み上げられたコンテナの中から必要なコンテナを見つけ出し、場合によっては上のコンテナをどかしながら引き渡すのは容易ではありません。トラックがターミナルに入場してから、コンテナを積み、退場するまでの時間を「ターンタイム」といいますが、この作業の効率性を示す指標をいかに短くするのか、というのがターミナルオペレーターの課題となっています。そこでわれわれは、これまで取り組んできたAI開発実績を基に複雑な要件を考慮したAIを活用して、コンテナを効率良く積むとともに、コンテナの傷や穴を画像解析で検出する取り組みを進めています。

澤:AIが得意な分野ですね。AIを使えば格段に効率も良くなるでしょうし、見落としも減りますね。

石井:こうした課題というのは、現場を知らなければ絵に描いた餅で終わってしまう。そうした意味で日立がユニークなのは、ITだけでなく、制御盤や水処理設備、つまりプロダクトを製造し、お客さまに代わって運転もする、つまりオペレーション(OT)も手がけるという、OT×IT×プロダクトを実践している点にあります。

澤:僕が日立に入ることを決めたのも、アセットに広がりがあり、それらの組み合わせによって持続可能な社会の実現に貢献できるというところに魅力を感じたからです。本気でOTもITもやっている企業はそれほど多くない。まさにそれが日立の武器ですね。

石井:LumadaにおいてもOTのノウハウを取り込んでいるところが肝で、お客さまとの協創を通じて検証しながらナレッジを蓄積しています。これからも、こうした強みを武器に差別化を図りながら、しっかりと水環境ビジネスを伸ばしていきます。


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