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  • 数理最適化技術 CROSS LDSL
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    佐藤 達広

    株式会社日立製作所 Lumada Data Science Lab.

    シニア・データサイエンス・エキスパート

    「Lumada Data Science Lab.」(以下、LDSL)を「CROSS LDSL」の視点から紐解いていくインタビューシリーズ。今回話を聞いたのは、花王様の店頭支援巡回計画の自動化にデータサイエンティストとして貢献した佐藤達広です。年間数万時間かかっていた業務を半減させた数理最適化技術や環境問題への応用について語ってもらいました。

    「地球にやさしい数理最適化技術。ムリ・ムダ・ムラをなくし、社会の効率化を支援する」

    数万時間の手作業を数理最適化技術で半減

    ―― 2021年7月に発表された花王様との協創プロジェクトについて教えてください。

    このプロジェクトは事業部とLDSLとが連携して進めました。花王様には販売店の売場づくりなどの支援を行う約2000名のマーチャンダイザーの方がいらっしゃり、店舗の巡回計画を手作業で作るのに年間数万時間を要していました。その業務をAIで効率化したいという課題がありました。

    マーチャンダイザーの方々は商品を扱っている店舗を日々訪問して、販売に関する打合せなどを行っています。そのための巡回計画を作る上で、店舗側からの時間帯指定や作業内容、店舗間の移動方法など様々な制約があります。最適な巡回計画を手作業で作成することは非常に手間がかかります。

    そこで、日立のLumadaソリューションである「Hitachi AI Technology/計画最適化サービス」を導入することで、かかっていた時間の半減が見込め、業務の効率化、活動生産性の向上を実現できました。

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    ―― 数理最適化技術を使ったプロジェクトの流れを教えてください。

    花王様とのプロジェクトに限らず、お客さまとの間で理解していることを共有することから始めます。花王様の例でいうと、巡回計画を立てるに当たって、具体的にどういった業務があって、そのためにどのような計画を作らなければいけないのかを最初に明確にしておかなければいけません。そうしないと、お客さまの期待にそぐわないものを作ってしまいます。

    お客さまの業務を理解するフェーズが計画最適化のプロジェクトでは非常に大事で、プロジェクトの2割から3割の時間をそこに割いています。専門用語などわからないことが必ずあるので、過去のプロジェクトの知見を活かしたヒアリングテンプレートをカスタマイズしながら丁寧に聞くことを心がけています。

    業務理解のフェーズは重要なので、私のようなデータサイエンスティストも入ります。計画最適化の一般的な話でいうと、日立にいるUXデザインの専門家とも連携しながらお客さまの理想像をヒアリングし、AIを使うことによってどのように実現するのか計画を描いていきます。

    ―― 業務理解の次のフェーズを教えてください。

    業務理解の次はお客さまからいただいたデータを理解していきます。花王様のプロジェクトでいうと、計画作成の履歴データなどをお預かりして分析をすることによって、計画の全体的な傾向や特徴を洗い出していきます。

    なぜそのようなことをやるのかというと、ヒアリングでわかったことと実際の計画には解離があるからです。業務理解とデータ理解を組み合わせないと、お客さまのおっしゃっている制約条件がどのような意味を持っているかを特定することが難しくなってしまいます。

    例えば、休憩時間といった制約条件が実際に現場でどの程度守られているのかは、ヒアリングの言葉だけではわかりません。データ分析をすることで、実は制約条件からはみ出しているケースがあることが可視化できます。業務理解とデータ理解をハイブリッドさせていかないと、本当にお客さまが作りたい計画が見えてこないのでここも大事なフェーズです。

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    ―― その次はプログラミングですね。

    ここからデータサイエンスの本流である、計画最適化のアルゴリズムを作ります。データを入力すると、マーチャンタイザーの方々の巡回計画が自動的に作成されるプログラムを書いていきます。

    ここで大事なことは評価です。分析した結果をお客さまに報告し、フィードバックを踏まえて改良していきます。そうすると、当初は気づかなった制約条件が見えてくることもあります。このフェーズはプロジェクト全体の後半部分で、根気よく進めていきます。

    ―― プロジェクトを進める上で難しかった点はどのようなところでしょうか?

    計画最適化のプロジェクト全般に言えることですが、決められた期間内にお客さまの希望をどこまで反映するかの見極めが重要です。今後の課題にするのか、そのプロジェクトで解決するのかをお客さまと相談しながら調整していきます。

    ―― あらためて、数理最適化、計画最適化技術を使う意義について教えてください。

    人が労力を費やしている定型的な業務を機械に任せることで時間が生まれます。その時間をクリエイティブな仕事に回せるようになることをメリットとしてお客さまに伝えています。

    花王様も店頭支援巡回計画の策定を自動化できたことによって生まれた時間を創造的な提案活動にあてて、活動生産性の向上を目指されています。働き方改革の観点でも有意義な取り組みだったと考えています。

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    「ムリ・ムラ・ムラをなくし、カーボンニュートラルに貢献」

    ―― 数理最適化の技術は年々発展しているようですね。

    進化が目覚ましく、ある文献によれば1991年から25年ぐらいで計算の速度が4500億倍になったとされています。数理最適化は限られたリソースを様々な制約条件を満足させながら目標を達成すための技術で、どのような役割で使うかが大事なことだと考えています。

    AIといえば機械学習というイメージを持っている方も多いと思います。機械学習は現状を分析したり、故障がいつ起きるかを予想することなどに使いますが、数理最適化は現状認識や予測をした上で、何をすべきか、行動するための判断をするための技術です。どちらも重要な技術ですが、お客さまが最終的にしたいことをズバッと解決する役割を担っているのが数理最適化と言えます。

    ―― 数理最適化技術はどのような社会課題の解決にマッチしていますか?

    世の中には“ムリ・ムダ・ムラ”があふれています。それが原因で、目的が達成できずにいることが多数あります。数理最適化技術を適用することで解決できる課題は無数にあると考えています。

    分野として重要なのはやはり環境問題です。日立は2030年度までにCO2排出量を実質ゼロにすると宣言しており、数理最適化技術も貢献できると考えています。CO2削減は以前から世界的な課題として認識されてきたかと思いますが、収益には貢献しにくく、対策にコストがかかるだけだと考えられていて盛り上がりに欠けている印象がありました。

    しかし、今は一人ひとりの環境意識も高まり、法律や規制、ビジネスの面でもどんどんカーボンニュートラルにシフトしています。CO2削減には多くのやり方がありますが、ムリ・ムダ・ムラをなくしていくことが基本なので、数理最適化が果たせる役割は今後も大きくなると考えています。

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    ―― 環境問題への対応を念頭においた相談は増えていますか?

    数年前と比べると、日立に対して環境問題の側面から相談をしてくださるお客さまが増えてきたと実感しています。製品の設計や製造、物流などあらゆる面で環境を意識したようなソリューションを考える機会が増えているのは事実です。

    ―― 花王様のプロジェクトも見方を変えると、効率化によって移動距離が減るなどCO2削減に貢献しているとも言えそうです。

    効率的に巡回できるようになると、車のガソリン使用量が減るので、CO2削減に直結しますね。お客さまのニーズや課題、優先順位にもよりますが、ムリ・ムダ・ムラをなくした先には環境面でのプラスが生まれることが今後はより意識されていくと思います。

    ―― 今後、実現していきたいことを教えてください。

    "地球にやさしい数理最適化技術"を広めたいです。数理最適技術でムリ・ムダ・ムラができるだけ少ない世界を実現したいです。

    今、個人的には「事業企画」「お客さま案件」「AI技術のより深い開発」「社内外への技術広報・人材育成」という大きく4つのことに取り組んでいます。全方位的に仕事をさせていただいていますが、いずれは一番自分の力を活かせる、やりがいを感じられるところにフォーカスしていきたいです。そして、環境問題を意識しながら、ムリ・ムダ・ムラをなくしてお客さまが叶えたいことに対応できるようにしていきたいですね。

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