日立製作所 研究開発グループ
東京社会イノベーション協創センタ
親松昌幸
日立製作所 研究開発グループ 東京社会イノベーション協創センタ
親松昌幸
「ブロックチェーンはこの先、あらゆる産業分野の既存のビジネスを変革していくでしょう。しかしブロックチェーンとは技術的には、取引台帳を参加者が共有することで資産の安全な移転を実現するデータベースの一種であり、ブロックチェーン自体がビジネスに何かの価値を提供できるわけではありません。
すなわちブロックチェーンによるビジネス変革をめざす時、ブロックチェーンでビジネスのどんなデータを扱い、誰と共有するのかが鍵になってくるわけですが、まず、このユースケースのアイデア出しで壁に当たるお客さまが少なくありません」と親松昌幸は語る。
ここは、日立の研究開発グループにある「協創の森」(東京・国分寺)。親松は、その中に2018年に設置された「BC Square」において日々、さまざまな分野のお客さまのブロックチェーンのビジネス実装をサポートしている。
「BC Squareは、ブロックチェーンの価値に基づくユースケースの創出から価値検証までを迅速に行うためのグローバル協創環境です。ユースケースアイデアを生み出す方法論や検証環境のためのフレームワークなどを用意し、従来約3か月かかっていたユースケース創出からPoCまでの期間を3分の1(約1か月)に短縮しています」。
暗号資産(仮想通貨)の基盤技術であるブロックチェーンは、取引業務ならば同様に利用できると思われがちだ。しかし、もちろんそうではない。
ブロックチェーンには5つの技術的な特徴がある。それは「分散」、「P2P」、「対等性」、「不変」、「耐障害性」だ。これらの特徴を価値に変換できるビジネスでなければ、ブロックチェーンのユースケースとして適切ではない。
「既存の技術で対応できるビジネスにわざわざブロックチェーンを導入するのは大きなロスコストですし、ビジネスを劣化させてしまうリスクもあります。ブロックチェーンの特徴を価値に変えられるのはどんなビジネスなのか、見極めることはきわめて重要な作業ですが、技術に馴染みがないと難易度の高い作業になります。
そこで私たちはお客さまのユースケース創出を加速するために、“ブロックチェーンパターンブック”を開発しました。これはブロックチェーンに適したビジネスユースケースを11個のパターンに整理したものです」。
日立は、社内のブロックチェーン技術者、有識者、デザイナー、さらに金融、産業、公共をはじめとする各事業分野のエキスパートを有している。彼らが一堂に会して、この先ブロックチェーンはどんな業種のどんなビジネスでその価値を発揮するのか徹底的にアイデアを出し合い、200を超えるユースケースを創出した。
次にそれぞれのユースケースを分解し、抽象化し、近接するものを包括するなど類型化を行い11パターンにまで整理したのだ。それがブロックチェーンパターンブックだ。
「パターンブックは、ユースケース創出の切り札です。『ブロックチェーンの技術的特徴は…』など難しいことは考えずに、直観的にアイデアを生み出すことができるツールとして機能しています」。
各パターンには異業種間の連携がビジュアルに表現されていて、ワークショップでは「新しい連携によって、こんなサービスが実現できそうだ」などのひらめきが活発に生まれているという。
「パターンブックは、これまでにない新しいビジネスの可能性への気付きを、数多くのお客さまに提供しています」と親松は語る。
「パターンブックでアイデアを得ても、それはまだ絵に描いた餅にすぎません。果たして目的とする効果は得られるのか、技術的に実現可能なのか、プロトタイプを構築し検証する必要があります」。
そのためにBC Squareには価値検証のための環境が用意されており、ユースケース創出からPoCへシームレスにプロジェクトを進行できる。
例えば、そのひとつがBusinessOrigami®だ。複数の組織が複雑に関与するブロックチェーンでは、事業としての実現性の検証が不可欠になる。
「各ステークホルダーの役割や関係、情報の流れと価値の流れをビジュアルに整理できる“BusinessOrigami®”というツールを使ってディスカッションを行います。ワークショップで創出したユースケースを具体化するとともに、ビジネスとして成立するのか検証します」。
「またBC Squareでは、検証環境を迅速に構築するために“リファレンスモデル”のラインアップ化を進めています」。 リファレンスモデルとは、B2Bビジネスで利用される代表的なブロックチェーンフレームワークであるHyperledger Fabricをすぐに使えるようテンプレート化したものだ。そしてリファレンスモデルはパターンブックと連動する。
すなわちパターンブックのユースケースごとに、Hyperledger Fabricの数々の機能を取捨選択してテンプレート化し、例えば6番のパターンのユースケースならリファレンスモデルの6番を適用することで迅速に検証環境の構築が図れるようになるという。
ユースケースのアイデア創出とPoCのステップをシームレスにするBC Squareは、お客さまのブロックチェーンプロジェクトに大きく寄与する、と親松は言う。
「アイデアの創出と価値検証のステップは、実運用まで何度も繰り返されます。どんなに優れたユースケースでも、プロトタイプによる検証結果によりエンハンスすべき部分が必ず出てきます。そして、その課題を解決するアイデア創出が必要になり、再度検証を行う。するとまた課題が顕在化し…と、このサイクルを繰り返してユースケースはその精度を高め、実サービスへ近づきます。
変化が速い時代、提供価値の高いサービスを1日でも早くリリースすることは大きなアドバンテージです。お客さまのアイデア創出と価値検証のステップを高速に回すことができるBC Squareをぜひご活用いただきたいと思います」。
日立の研究開発グループには「協創の森」という研究開発拠点がある。そこは、世界中からお客さまやパートナーを招き、SDGs*2やSociety5.0 の実現に向け、オープンな協創による新たなイノベーション創生を加速するための拠点だ。そしてBC Squareも、この「協創の森」に設けられている。
「私たちがめざすのは、ブロックチェーンによる社会イノベーションを加速し、より豊かな未来づくりに貢献すること。そのために、ここBC Squareにさまざまな業種のお客さま、またスタートアップのお客さまなどをお招きして、一緒に新しいユースケースを考える場をつくりたいと考えています」。
日立だけではできないことがたくさんある。イノベーションに向けた新しいブロックチェーンのエコシステムの形成へ、BC Squareがハブとしての役割を果たしていきたいと、親松は語る。
「ブロックチェーンパターンブックによるユースケース創出から価値検証までを1日で体験できるプログラムも用意しています。ぜひお気軽に足をお運びいただけたらと思います」。