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成約率の向上をKPIにAIが適切な提案活動をアドバイス

【課題】
5万人の営業職員へのアドバイスに新たな視点を盛り込みたかった
【解決】
Hitachi AI Technology/Hを活用し、ビッグデータから成約率向上と相関性の高いアドバイスを自動生成
【効果】
経験やスキルに依存しないコンサルティング力の強化に貢献

お客さま開拓の視点をAIで高度化

 1,000万人を超える契約者数、約72兆円の総資産をもつ日本生命保険相互会社(以下、日本生命)は、全世界の生命保険会社の中でも高い地位を誇るメガカンパニーです。同社はIT活用でも先進的な取り組みを進めており、2012年4月には約5万人の営業職員が活用する携帯端末「REVO」を導入。お客さまや世帯の情報、既契約情報、営業職員による訪問や手続きなどの履歴を1画面に集約・表示することで、効率的かつ生産性の高い営業活動を支援しています。そして2015年3月には同端末に、お客さまの保険加入の検討段階に合わせ、適切な提案活動が行えるメッセージを配信する「訪問準備システム」が搭載されました。

 「訪問準備システムは、約1,000万人分のお客さま情報を統計分析することで、約500に細分化したセグメントごとの加入傾向やニーズを抽出し、個々のお客さまに合わせた2,000種類ほどのメッセージを表示します。営業経験の浅い職員でもアドバイスに従って適切な提案が実施できるため、営業レベルの標準化と底上げを図ることができます」と説明するのは、商品開発部 営業開発G 課長補佐の井上 晴雄氏です。しかし、導入から1年以上が経過し、さらなる分析の高度化が必要と感じ始めたと井上氏は語ります。

 「社内でAI*1をはじめ先進的な技術の活用を積極的に検討していくなかで、営業現場の知見やノウハウ以外にも、膨大なデータの中から今まで誰も気づかなかった新たな視点が発見できるのではないかという期待が生じてきました。また、メッセージは基本的に、商品開発部のスタッフが人手で作成しています。このため、営業経験のある上級職やベテラン職員からヒアリングした内容を分析データと照らし合わせて解釈し、テキストに落とし込む作業は多くの時間と労力がかかっていました。そこでこれらの課題を解決する手段としてAI活用による分析の高度化を検討したのです」と井上氏は続けます。

*1
Artificial Intelligence

AT/Hによる新たな仮説の導出と運用の効率化

 数あるAIの中から訪問準備システムに採用されたのは、Hitachi AI Technology/H(以下、AT/H)でした。その理由を井上氏は「AT/Hは、目的となるKPI*2を設定すれば、膨大なデータから相関の高い要因を自動的に発見してくれます。新たな仮説を導き出すという意味で、われわれの目的に合致したAIだと判断しました。また、実際にAT/Hを導入し、従来と比較して一度に分析できるデータ量が格段に増えましたし、要因が絞り込まれているので、今後はメッセージに落とし込む作業の効率化も見込めそうです」と説明します。

 日立が開発したAT/Hは、大量の数値データの中から規則性を見つけ、データを自動で区分けしてペアリングし、KPIと相関の高い特徴量(説明変数)を生成することができます。一般の分析ツールが分析者の仮説やノウハウに基づいて実施するのに対し、AT/Hは自動的に特徴量を生成するため、人の勘に頼らない新しい仮説を導き出せるのが特長です。

*2
Key Performance Indicator

成約率向上に影響する要因を複数パターンで発見

[写真]丸尾 勇太 氏、井上 晴雄 氏

 訪問準備システムの本格導入に先駆け、2016年12月からスタートした実証実験では、約1,000万人のお客さまデータと、未契約のお客さまデータを合わせた約4,000万件のデータの一部をAT/Hに投入。「保険の成約率向上」をKPIに定め、それに影響する要因や営業行動は何かを検証する作業を繰り返しました。また日立の提案で、既存のデータ項目だけでなく、訪問時期や経過年月といった新たな分析軸も交えた相関性分析を行った結果、「いくつかの新しい視点が見え始めてきました」と商品開発部 営業開発G課長補佐の丸尾 勇太氏は語ります。

 「例えば当社には年1回、契約内容を確認するため、お客さまを訪問させていただくご契約内容確認活動というものがあります。その活動を進めることで、お客さまはご自身の契約内容について理解が深まり、お客さま満足度向上につながると考えるためです。そこで、AT/Hが導き出したのは、その活動を実施するタイミングや確認方法についての新たな示唆でした。社内的には一見当然と思われることもありましたが、これまでは統計的な根拠を示し、具体的な条件などを説明することはできていなかったのです」と丸尾氏は続けます。

 AT/Hはこれ以外にも、保険の成約率向上に影響する要因を複数のパターンで発見することに成功。スキルに依存しない業務の標準化やコンサルティング力の底上げ効果が期待できると判断した日本生命は、2017年4月から本番環境での活用をスタートさせました。

さまざまな用途にAT/Hの力を拡張していきたい

 「われわれが想定する内容に近いメッセージが生成されることもありますが、それはビッグデータ分析の結果ですので、今まで以上に根拠をもった内容として営業職員へレコメンドできるようになったのはうれしいですね。またAT/Hが作ったメッセージは、特定の個人の意見などに偏らない情報であり、フラットに受け止められるという声も、現場から出ています。その意味でAIは、ツール活用のモチベーションアップにつながる副次的な効果も生み出せると考えています」と井上氏は笑顔を見せます。

 「今後は、現在、営業職員にのみ提供しているAIメッセージを、マネージャー職へのアドバイス支援や、お客さまへのご案内メッセージへ拡張するなど、さまざまな用途にAT/Hの力を発揮できるのではないかと考えています。メッセージ作成業務の完全自動化も含めて、これからも日立さんには積極的なAI活用、IT活用の提案をいただければ助かります」と丸尾氏は期待を寄せます。

 業界に先駆けたAI活用で生産性の向上を推進しながら、保険営業のコア業務であるフェイストゥフェイスによるお客さまサービスに力を注ぐ日本生命。日立は多岐にわたるITの力で、これからも同社の未来戦略を力強くサポートしていきます。

[イメージ]Hitachi AI Technology/Hを活用した訪問準備システムの画面例

[お客さまプロフィール] 日本生命保険相互会社

日本生命保険相互会社ロゴ

[本店所在地]大阪府大阪市中央区今橋3-5-12
[創立]1889年7月4日
[従業員数]70,651名(うち内勤職員19,747名)(2017年3月末現在)
[事業内容]生命保険業、付随業務、その他の業務

特記事項

  • 本事例中に記載の内容は初掲載当時のものであり、変更されている可能性もあります。詳細はお問い合わせください。
  • 事例は特定のお客さまでの事例であり、全てのお客さまについて同様の効果を実現することが可能なわけではありません。
  • はいたっく2017年10月号掲載記事
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