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取り組むべきは「真似・再利用・継続」

PoC貧乏を越えてDXはどこまで進んだか?現場密着のAI活用と3つの推進アプローチ

データ活用の重要性が認識され、企業のデータ活用が急速に進展している中、AIを使うことが現実的な選択肢になってきた。一方で、データを管理、運用する人材の不足、データマネジメントにおけるセキュリティの課題も顕在化している。

「真似」「再利用」「継続」という3つ推進のアプローチで、DXやデータ活用を支援

ここ数年で、DXやAI活用に取り組む企業は大幅に増えた。だが、PoCを繰り返すことでコストがかさみPoC段階から先に進めない、いわゆる「PoC貧乏」に陥る例が目立つ状況にあった。しかし、日立製作所の市川和幸(デジタルサービス部データマネジメントプラットフォーム部 主管技師)によると、最近は様子が変わってきているという。


株式会社 日立製作所 マネージドサービス事業部 デジタルサービス本部 データマネジメント プラットフォーム部 主管技師 市川 和幸

「最近では地に足の着いた取り組みが増えています。例えばAIについて、以前は『使えるんですか』『どう使うんですか』といった相談が多かったのですが、『この業務でこう使いたい』『この部分で精度を上げたい』といった現場で活用するための相談が増えています」(市川)

だが、顧客側には大きく4つの課題が目立つという。1点目はDXのノウハウの不足。DXに取り組み始めたはいいが、データの収集、管理、活用などがうまくできない。2点目は投資対効果への懸念。データ活用の具体的な効果がより厳密に問われるようになっている。3点目は人材不足。特にDX担当者や運用担当者の不足が目立つ。4点目はセキュリティだ。目的意識が明確になった分、ノウハウ、人材といった課題が改めて顕在化しているといえるだろう。

こうした変化を踏まえ、日立製作所では企業のDXやAI活用、それらに欠かせないデータ活用を支援するノウハウをまとめているという。ノウハウを貫くコンセプトは、アプリケーションやデータモデルの開発における「真似」「再利用」「継続」という3つのアプローチだ。

「真似」とは、成功事例を上手に真似すること。DX推進において大きな成果を上げた類似事例を参考に、投資リスクの低減や、投資回収の短期化を図りやすくする。「再利用」とは、業種別に定義されたデータモデルや、データ収集/蓄積/分析のベストプラクティス構成、設計書や定義書を含むさまざまなプログラムを再利用すること。「継続」とは、「アプリケーションを作って終わり」ではなく、DX推進のために改善、運用を続けていくことだ。

「日立製作所はこれら3つのアプローチの実践に必要なノウハウと経験を豊富に持っています。というのも、鉄道のような社会インフラの構成企業をはじめ、金融、医療、公共などミッションクリティカルな業種を中心に数十年にわたって支援してきました。つまり、各お客さまの成功事例、成果につながったノウハウやシステムなどを豊富に蓄積しているわけです。DX推進においては、そうした経験やノウハウに加え、AIなどの新しい技術や知見もフル活用して、各お客さまをサポートできる体制を整えています」(市川)

お客さまと培ったDX推進やデータ活用の知見やノウハウを提供

それが「Hitachi Intelligent Platform(HIPF)」だ。DX推進やAI活用、データマネジメントに関するエキスパートの知見やノウハウをプロダクトとしてまとめたものとなっている。

そのうち「プロフェッショナルサービス」は、「データ利活用コンサルティングサービス」「デジタルツイン構築」「データマネジメント運用:業務拡張」「AIマネジメント、導入支援」で構成。DX推進におけるアプリケーションやデータモデルの「構想策定/要件定義」「設計/構築」「運用」という全フェーズで支援し、DXのノウハウ不足や投資対効果への懸念を解消するという。

一方、「IoT/データ利活用 環境提供」では、データ利活用基盤の構築、適切なセキュリティ対策、運用管理までを含めたITプラットフォームサービス(HIPF Core)をワンストップで提供する。まさしく前述の4つの課題を解決し、目的の達成を支援するものとなっている。


Hitachi Intelligent Platform(HIPF)のサービスメニュー

「HIPFは当社がお客さまと培ったベストプラクティスの集合体です。IT基盤の運用は当社に任せていただき、お客さまにはデータやAIを活用した業務改善など、本来の価値創出に集中していただきたいと考えています。また、『製造DX』『環境DX』『研究DX』『調達DX』『保守DX』といった、カテゴリーごとに必要なノウハウを機能としてまとめたアプリケーションサービスを用意しており、改善を加速させることができます」(市川)

例えば「保守DX」では、設備老朽化による保守頻度/コストの増大、少子高齢化による保守員減少が進む中、サービスレベル/品質を維持し、向上させる上で、保守業務の効率化、合理化が求められている。これに対し、HIPFではアプリケーションサービスで計画立案を自動化したり、設備の巡視/点検を効率化したりするほか、AIで対応策立案を支援したりと、総合的にサポートする。

保守DXのAI活用については、「固定カメラの映像を画像AIで分析して異常を検知する」「問い合わせ窓口での回答をテキストAIで分析し、業務負荷を軽減する」といった事例があるという。

保守の現場で一緒に創り上げた「音響AI」

HIPFの中でも、AI活用は企業の関心も高いところだろう。実際、AI活用となると技術先行になり、肝心の費用対効果が視野から外れるなど、目的と手段が逆転した議論になる傾向も強い。しかし日立製作所の場合、全ては目的起点であり、どのような技術も手段にすぎないという。先の保守DXにおいても「音響AI」技術を顧客のビジネス要件に合わせて適用している事例があるが、目的は「AIを使うこと」ではなく、「AIでしか実現できないメリットを実業に生かすこと」にある。

音響AIを活用した保守DXを手がける日立製作所の高橋政俊(デジタルプラットフォーム事業部 エンジニアリングサービス第1本部 フロントインテグレーション第2部 主任技師)は次のように話す。


株式会社 日立製作所 デジタルプラットフォーム事業部 エンジニアリングサービス第1本部 フロントインテグレーション第2部 主任技師 高橋 政俊

「音響AIは、直接設備に影響なく非接触でデータを取得できることがメリットです。ホームドア、冷却ファン、パイプなどの異常監視、ポンプ、モーター、送風機の劣化監視など、音が発生するあらゆるものを対象にすることができます。一般に、設備にセンサーを装着すると、老朽化した設備の破損などにつながってしまうこともあります。保守DXの目的は、既存業務の効率化と一層の確実化がありますが、これは老朽化した設備にこそ求められること。非接触であることは、既存設備の安定運用を阻害せずに現状を正しく把握できる点で、非常に有効な保守DXの手段なのです」

音響AIを活用しているのは主に、鉄道や電力など“絶対に止まってはならない”分野だ。日立製作所では、鉄道保安業務で培った知見やノウハウを、電力設備やプラント設備の異常検知に応用したり、逆に他業種で得た知見やノウハウを鉄道業に適用したりと、各分野で培った技術を横断的に共有し、日々技術力と精度を向上させ続けているという。

一方、音響AIの技術面でも日立製作所独自の強みがあるという。騒音を除去する「音源分離技術」と、正常サンプルのみから学習する「異音検知技術」だ。

「保守の現場ではさまざまな雑音が発生しています。例えば作業の効率化、確実化に向けて、音から現状分析するにしても、雑音があると本来分析したい音をうまく分析できません。しかし音源分離技術を利用すると、そうした診断対象の音を分離し、マイク1個で音源を抽出できます。そこに異音検知技術を組み合わせることで、多数の部品で構成される複雑な機械設備の動作音を正確かつ確実に分析し、設備の異常を音から高精度で予見できるのです」(高橋)

また一般に、異常検知では異常値を取得する作業が必要だが、異常値を取得すること自体が困難なケースも多い。

「同じ機種でも設置環境によって学習モデルが異なることがあります。その場合、個々に学習モデルを作成する必要がありますが、日立製作所では特徴を抽出して転移学習をさせるなど、少量のサンプルデータで学習できるように工夫しています。この点も当社独自のノウハウといえるでしょう」(高橋)

効率化と人材育成に貢献。AIを使った鉄道保安事例

そうした音響AIの適用事例として、高橋は「鉄道の転てつ機の点検/保守業務」のケースを挙げる。日立製作所の津守裕(デジタルプラットフォーム事業部 エンジニアリングサービス第1本部 フロントインテグレーション第2部 主任技師)は次のように説明する。


音響AIを活用した点検効率化


株式会社 日立製作所 デジタルプラットフォーム事業部 エンジニアリングサービス第1本部 フロントインテグレーション第2部 主任技師 津守 裕

「転てつ機は、線路を切り替える重要な設備です。電気的に動き、可動部が多いメカニカルな設備であり、冗長化が困難という性質があります。従来は、時間計画保全(TBM)で点検し、メンテナンス部品を交換していました。ベテラン保守員が深夜に転てつ機をコンコンとたたいて異常を見つけていたのです」(津守)

言うまでもなく、これは長年の経験と熟練を要する作業だ。しかし属人化を解消しなければ、少子高齢化で人材不足が進むこれからの時代に対応することができない。そこで「音から異常を検知できるなら、AIで代替できるのではないか」と音響AIを適用。転てつ機の稼働音データをAIで判定し、摩耗、潤滑油切れなどによるメカニカルな異常音を検知する仕組みを築いた。

「転てつ機の状態をセンサーで計測し、検知した異常音をAIが『不具合』と判定したときのみ保守員が対応します。不具合が起こる前に対処できるため、ダウンタイムの低減にもつながっています」(津守)

設備の老朽化に伴う、ベテラン作業員による保守の頻度/コスト増という課題を、AIによるノウハウ標準化と遠隔監視によって大幅に効率化したわけだ。これは単なる効率化にとどまらず、技術継承や人材育成にも貢献しているという。

「AIを業務に適用するためには、まず現場業務を担っているベテランの経験や勘が求められます。ベテランの知恵とテクノロジーを組み合わせることで業務の効率化と高度化を同時に実現できるのです。つまり、ベテラン担当者は自らの経験を若手に伝えながら業務負担を軽減し、若手はノウハウを吸収するとともに、テクノロジーを使って分析や効率化に取り組むことになる。課題意識と目的が明確な場合、現場のモチベーションが高まることも多いのです。AI適用というプロジェクト自体が、技術継承や人材育成につながることを実感しています」(津守)

DX推進やデータ活用において重要性が増すセキュリティ対策

一方で、日立製作所ではデータ活用と切り離せない問題として、セキュリティを重要課題と位置付けている。実際、データマネジメントの不備による情報漏えいや滅失、毀損(きそん)は、組織の社会的信頼を失墜させてしまう。特に、データやシステムを暗号化して莫大(ばくだい)な身代金を要求してくるランサムウェアの場合、ビジネスが停止してしまうこともあり、実害が拡大しやすい。市川は次のように警鐘を鳴らす。

「これまで製造業では、ネットワークを外部から遮断することで安全性を保証してきました。しかしDXを推進する上では、センサーデータなどを拡張性が高いクラウド上で分析する機会が増加します。クラウドと接続する際に、比較的導入しやすいVPN接続が使われるケースも多くなりますが、VPN=安全と信じて安易に採用し、そのVPN機器を無防備な状態のままにした場合、そこが脆弱(ぜいじゃく)性となり、製造システムがランサムウェアに感染するといった事態も十分に起こり得るのです」(市川)

自宅に設置したサーバーやクラウドサービスを使って日々脅威を観測しているという、日立製作所でHIPF Coreの製品マネージャーを務める名島太樹(マネージドサービス事業部 デジタルサービス本部 データマネジメントプラットフォーム部 主任技師)は「ITとOT(Operational Technology)の両方で、多層的な対策が不可欠です」と話す。


株式会社 日立製作所 マネージドサービス事業部 デジタルサービス本部 データマネジメントプラットフォーム部 主任技師 名島 太樹

「例えばランサムウェア攻撃では攻撃者が金銭の窃取という明確な目的を持っているので、ある意味でAIよりも手法や技術の進化が速いといえます。他にも標的型攻撃やゼロデイ脆弱性など多くの脅威があり、侵入を完全に防ぐことは不可能です。インターネットに接続された機器に対するポートスキャンやマルウェアの侵入は日常的に発生しており、量、質ともに攻撃者に有利な状況です。ITを入り口にOTの世界に入っていく攻撃手法も確立されています。ITとOTの両方で、しっかりとした侵入対策はもちろん、攻撃者に侵入された後を想定した多層的なセキュリティ対策が不可欠です」(名島)

とはいえ、最も大切なのはビジネスのためにデータを進んで活用していこうというモチベーションだ。無論、セキュリティ対策も同時並行で進めることが不可欠だが、日立製作所では前述のHIPFで「基本サービス」として提供している。これには、「セキュリティを含めたデータマネジメントの悩みを解消し、データ活用に集中いただきたいという狙いがあります」と市川は話す。

ただ、現状ではHIPFによって成果を得ている企業がある一方で、まだまだデータ活用自体をためらう企業も少なくないという。市川はデータ活用の重要性や、属人化解消/ノウハウ継承といったAI適用のメリットなどを振り返りつつ、「まずは取り組んでみることが最も大切です」とエールを送る。

「データを活用してみると、次にすべきことが分かり、おのずと改善のサイクルが生まれます。『やってみた方がいいかな、やらない方がいいかな』『失敗しないように作戦を立ててから使おう』と悩むより、まずは使ってみて、お客さまの成長につなげてほしいと考えています。日立製作所のサービス、技術力、人材力の全ては、そうした“活用”に集中していただくためのものです。データを活用したいがうまく収集、分析できないなど、冒頭でお話しした“4つの課題”が思い当たる場合は、まずお声掛けください。その悩みを伺い、目的を共に明確化した上で、総力を挙げてデータ活用を支援します」(市川)

転載元:ITmedia ビジネスオンライン
ITmedia ビジネスオンライン 2023年11月15日掲載記事より転載
本記事はITmedia ビジネスオンラインより許諾を得て掲載しています。

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