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課題山積で「クラウドスマート」が必要な時代

ビジネス目的とシステム特性に応じてスマートに使えるハイブリッドクラウドとは

クラウド活用が進んだ結果、ビジネスニーズを満たすためにハイブリッドクラウドでシステムを運用する企業が増えている。それに伴い顕在化した課題を解決し、ITインフラを最適に活用するにはどうすればいいのか。

「クラウドでニーズの変化に即応したい。だが、重要データは外に出したくない」


株式会社 日立製作所 マネージドサービス事業部 クラウドエンジニアリング本部 クラウドデリバリプラットフォーム部 担当部長 日巻 正寛

「ハイブリッドクラウドの活用は日本企業にとって必然です。ビジネスニーズに応じて、どうパブリッククラウドとオンプレミスを使い分けるか、どう組み合わせて活用すべきかが重要な課題になっています」

こう語るのは、日立製作所の日巻正寛(マネージドサービス事業部 クラウドエンジニアリング本部 クラウドデリバリプラットフォーム部 担当部長)だ。周知の通り、ここ数年はパブリッククラウドを「単なるオンプレミスの延長」と捉え、コスト削減目的で一部システムをクラウドにリフトすることに終始してしまう例が多かった。昨今はクラウドへの理解が進んだが、スピード/柔軟性と安全性/安定性という、相反するものを同時に求める声が強まっている。

「リソースの柔軟な拡張、アプリケーションの迅速かつ高頻度なリリースなど、パブリッククラウドの特性を生かして『新規にビジネスを始めたい』『ニーズの変化に即応したい』と話すお客さまは年々増えています。一方で、『機密性の高いデータは社内で管理したい』『重要度の高いシステムはオンプレミスに置き、稼働率や可用性を高めたい』といった声も同時に多数聞いてきました。長くビジネスを続けてきた伝統的な企業ほど、セキュリティ、信頼性、可用性、管理性など非機能要件の面でオンプレミスを重視する傾向にあります」(日巻)

最近でこそよく聞かれる課題だ。だが同社の場合、「2014年には既に取り組んでいたテーマ」だという。メインフレームに代表されるミッションクリティカルシステムの構築、運用保守と、「Amazon Web Services」「Microsoft Azure」などのパブリッククラウドを組み合わせる概念「フェデレーテッドクラウド」だ。これを2014 年から示し、既に多くの実績を持っているという。

「われわれは金融や公共、エネルギー、鉄道など、人々の生活に欠かせない社会インフラや多くの企業のビジネス/システムを長年支援しています。常にお客さまの課題に寄り添い、共に走り続けてきました。フェデレーテッドクラウドも、机上で考えたものではなくお客さまの声に応えた結果としてできた概念でした」(日巻)

ただ、「オンプレミスのインフラとハイパースケーラーのサービスを適材適所で組み合わせて使う」のは、「言葉で言うほど簡単ではない」という。

「オンプレミスとパブリッククラウドの特性を生かし、使い分けるためには各社各様の目的、状況に根差した設計、実装が不可欠だからです。ハイブリッドクラウドの真価を享受するには、ビジネス目的を共有し、既存のITインフラの課題や悩みを聞き届けながら、それぞれのお客さまに最適な設計、実装に落とし込めなければなりません」(日巻)

「今の目的と課題」にも各社各様の経緯や理由がある。いかにソリューションが優れていようと、「その時の課題」だけ聞いたところで確かに正しい判断など無理だろう。

「そこが当社の強みです。多数の企業を長年支援してきた当社は各お客さまの経緯を知り抜いています。これは単なるソリューション提供ではありません。共に走ってきたからこそできることなんです」(日巻)

新たなコストやリスクを生まないためにもビジネス目的に即した構想策定が重要


株式会社 日立製作所 マネージドサービス事業部 クラウドエンジニアリング本部 クラウドデリバリプラットフォーム部 技師 山崎 康博

では具体的に、ハイブリッドクラウドに関してどのような悩みが寄せられているのか。ここではよく聞かれる悩みをピックアップしてもらった。まずクラウドコンサルタントとして普段から顧客の悩みに耳を傾けている日立製作所の山崎康博( マネージドサービス事業部 クラウドエンジニアリング本部 クラウドデリバリプラットフォーム部 技師)は、「オンプレミスのシステムを、パブリッククラウドにリフトしたが予想以上にコストがかかる」というケースを挙げる。

「コストが増える要因はさまざまです。データベースのようにオンプレミスとパブリッククラウドでライセンス体系が変わる場合もあります。既存システムをリフトするだけでも、“そのまま”というわけにはいきません。これらを計画段階からしっかり見極める必要があります」(山崎)

特に社会インフラの分野で、クラウドインテグレーションを担当することが多い日立製作所の田中繁(マネージドサービス事業部 クラウドエンジニアリング本部 クラウドデリバリプラットフォーム部 主任技師)は、「従量制のデータ転送コスト(アウトバウンド通信)を適切に見積もれない」といった課題を挙げる。


株式会社 日立製作所 マネージドサービス事業部 クラウドエンジニアリング本部 クラウドデリバリプラットフォーム部 主任技師 田中 繁

「パブリッククラウドに移行したシステムとオンプレミスに残したシステムを連携させる場合、単一のワークロードならネットワーク接続は少なくて済みます。しかしシステムが多いほど、パブリッククラウドからオンプレミスへのアウトバウンド通信が増える。このためパブリッククラウドの利用コストが増大します。パブリッククラウドの中でデータをキャッシュするなど、連携の仕組みや実装方法を工夫する必要があります」(田中)

オンプレミスのミッションクリティカルシステムでは実現できていたことを、パブリッククラウドでは再現するのが難しい場合もある。「オンプレミスと同等のSLAを確保するためにファイブナイン(99.999%)など必要以上に可用性を高めてしまう」(山崎)といったケースだ。その分、コストが増大することは言うまでもない。

データベースやストレージの配置が課題になることも多い。目的に即した全体設計がなければ、オンプレミスでサイロ化していたシステム/データ資産に、クラウドという新たなサイロが加わるだけになりがちなためだ。

「パブリッククラウドの利用が増えるとITリソースの棚卸しと管理がより難しくなり、セキュリティインシデントにつながるリスクも増大します」(田中)

ITインフラの最適活用におけるポイント「選択肢の検討」とは何か、なぜ重要なのか

このように、課題はビジネスの目的や状況によって大きく変わり、課題同士も複雑に絡み合っている。ソリューションを適用すれば解決できるといった単純な話ではない。

「だからこそ、ビジネス目的を見極め、どう実装すべきかをシステムごとに検討し、全体像を描く必要があります。まずは現行システムがどういう状態にあるのか、パブリッククラウドを使うことで何を実現するのかを明確にすることから始めています」(日巻)

例えば「既存システムを維持するためにコストを最適化すること」がビジネス目的の場合、単にパブリッククラウドにリフトしたとしても、前述のように、結局はコストが増大してしまうこともある。そこで重要になるのが「選択肢の検討」だという。

「リフト&シフトという言葉がありますが、シフト(クラウドネイティブ化)まで進むには時間もコストもかかるため、『とにかくクラウドにリフトだけしたい』というご要望を頂くこともあります。しかし、システムによってはシフトする方がメリットが大きい場合もある。よって、リフト後にシフトが必要となる可能性を事前に考慮しておいたり、その後のロードマップと具体的な選択肢を提示しておいたりすることが大きなポイントになります」

「言われた言葉」をうのみにせず、言葉の背景にある真の目的を見極め、プロフェッショナルとしてより良い方向へリードするわけだ。

「お客さまにさまざまな選択肢を持っていただき、そこからビジネス目的に応じてご検討いただく。ご担当者だけの理解や納得に閉じず、全社的な共通理解を得られやすくすることが重要だと考えます」(山崎)

専門チームとの連携、サービスとしての提供、人材育成支援などが日立製作所の強み

一方、実装では考え方と手法を柔軟に変えることが求められる。日立製作所は、NIST(米国立標準技術研究所)が提案する標準的なフレームワークやパブリッククラウドベンダーが推奨しているガイドライン、ベストプラクティス、リファレンスアーキテクチャー、日立製作所が蓄積しているナレッジなどを組み合わせて対応しているという。

「実装方法もビジネス目的やシステム環境などに耳を傾けて各社に最適な形を採ります。日立製作所にはミッションクリティカルシステムを中心に培ってきた実績とノウハウがあります。それらを必要に応じてグルーピングしたり、切り出したりしながら適用しています」(田中)

しかし、それこそ“言うは易く行うは難し”だろう。具体的にはどのような支援体制になるのか。

「企業が抱える課題に基づき、各専門チーム同士が連携してお客さまに包括的に対応しています。例えばクラウドリフトのケースでは、システムの可用性やセキュリティ要件を考慮してパブリッククラウド上で実装するノウハウを持つ、ミッションクリティカルシステムの構築/運用実績を持つチームがプロジェクトを主導します。システムのクラウドネイティブ化をめざす場合は、クラウドネイティブ化の専門チームと連携してプロジェクトを進める、といった具合です 」(山崎)

高度な実装スキルを持つ複数の専門チームが、各顧客に最適化した専門支援体制を組織するというわけだ。

「日立製作所にはHARC(Hitachi Application Reliability Centers)というSRE(Site Reliability Engineering)の手法を使ってクラウド運用を改善する専門部隊もいます。今はクラウドをいかに賢く運用するか、すなわち「クラウドスマート」を意識し続けて、少しずつ運用の成熟度を高める必要があります。最新の技術トレンドもキャッチアップした高度な専門家集団が、その実装を支援するわけです。当たり前ですが、コンサルティングだけ行っても目的は達成できません。各専門チームがいることで、実装まで一貫した支援ができることはやはり強みとなります」(田中)

パブリッククラウドとシームレスに連携したオンプレミスのクラウド環境を築くas a Service型ITプラットフォーム『EverFlex from Hitachi』を用意していることも“実装力”の大きなポイントとなっている。

というのも、ハイブリッドクラウドを実現するには、オンプレミス側もサイロ化を解消し、効率的に一元管理できるクラウドライクな仕組みへとモダナイズすることが求められる。だが、一から設計、実装するには莫大(ばくだい)な時間とコストがかかってしまうため、大きなハードルとなっていた。

EverFlex from Hitachiは、ミッションクリティカルシステムにおける長年の実績と知見を基に日立製作所が設計、構築した「仮想化基盤」「データ基盤」「ミッションクリティカル基盤」といったオンプレミス側の各種基盤を、従量課金で利用できるサービスとなっている。


EverFlex from Hitachiのポートフォリオと主要サービス

共に検討した各社各様の設計を、各社各様のビジネス/システム要件、コスト事情に基づいて、柔軟かつ迅速に実装できるのは確かに大きな強みといえるだろう。加えて、その後の「活用」も継続的に支援できるという。

「クラウド活用を最適化するには、CCoE(Cloud Center of Excellence)の運営や人材育成が重要です。日立製作所自身が実践してきたCCoE運営のノウハウを提供し、組織横断的な取り組みや、人材育成を支援できます」(日巻)

以上のように、「ハイブリッドクラウド環境の実現」と一言でいっても、設計、実装、その後の活用までさまざまな課題がある。その一つ一つに踏み込んで、長年蓄積してきたノウハウ、手段を組み合わせて、コスト合理性を持ちつつ柔軟に支援する――今回の数々の話から、日立製作所の場合はこれが言葉だけのものではないことがご理解いただけたのではないだろうか。無論、「悩みに寄り添った継続的な支援」は日立製作所の従来スタンスであり、同社にとって特段、目新しい話ではない。だが、「伴走」の意味が強く問われている中では、「コンテキストに基づいた支援」や「実装、すなわち目的達成まで逃げない」ことの意味は重い。

「日立製作所には各分野に数多くのエキスパートがおり、エンジニア育成のためのラーニングパスを整備してトレーニングや資格取得支援を積極的に進めています。クラウド活用プロジェクトにおいて、アーキテクト/スペシャリスト相当のコア人材(上級)、技術リーダー/サブリーダー相当のコア人材(中級)、作業者相当のベーシック人材の3つに大別しています。それぞれの役割に合わせた適切な研修メニューをそろえ、パブリッククラウドの認定資格者数を毎年伸ばし続けているのです。このような人材が有する多様な専門知識を課題解決に生かしながら、最適なITインフラの実現に向けて、お客さまと共に設計、実装を推進していきます」(日巻)

日巻と山崎と田中

転載元:ITmedia ビジネスオンライン
ITmedia ビジネスオンライン 2023年11月15日掲載記事より転載
本記事はITmedia ビジネスオンラインより許諾を得て掲載しています。

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