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「当事者」が本音で語る、特別座談会

DX成功と失敗の分岐点 世界観の共有とデータ価値の創出、その道程 DX成功と失敗の分岐点 世界観の共有とデータ価値の創出、その道程

DXに取り組む国内企業が増えている。しかし、DXで成果を得ているケースは少ないのが実態だろう。 成功と失敗の分岐点はどこにあるのか。そこで今回、DX分野のキーパーソンによる座談会が実現。プレゼンテーションの第一人者としても知られる、日立製作所のLumada Innovation Evangelistの澤円をモデレーターに、日経BP 総合研究所 フェローの桔梗原富夫氏が豊富な知見から議論を促す。主役は、日立建機 執行役 CDIO 新事業創生ユニット長の遠西清明氏と、日立製作所 マネージドサービス事業部 事業部長の吉田貴宏。DXを推進する当事者が本音で語る。

澤、吉田 遠西氏、桔梗原氏

DXで目指す世界観を共有し周囲を巻き込んでいく

澤 円

株式会社 日立製作所 Lumada Innovation Evangelist
澤 円

 初めに、国内DXの現在地はどこにあるのか。客観的視点から桔梗原さんはどう捉えていますか?

桔梗原 日経BP 総合研究所のイノベーションICTラボは、『DXサーベイ2023-2025』において国内DX推進状況を独自調査しています。その結果、「積極的に推進」と「少しは推進」を合わせた回答が、5割以下だった2020年と比べ、2022年には7割近くに増えました。ただし、「成果を上げている」との回答は3割に過ぎないというのが実態です。また「アフターコロナ時代を生き残るために重視していることは何か」との質問には、「データの収集・分析」が4割近くを占めています。

 今、世界で成長を続けているほぼすべての企業は、DXを推進しデータを活用することで大きな収益を生み出していますが、桔梗原さんが示してくれたデータによると、多くの国内企業は同様の認識を持っているということですね。しかしDXに取り組みながらも、成果の手ごたえを感じていない。原因はどこにあるのか。日立建機はDXを着実に進め、データ活用による新たな価値創造のステップに入っているようですが、遠西さん、最初から上手くいきましたか?

遠西 最初は上手くいきませんでした。DXに取り組み始めた2020年当初は、「基幹システムを刷新したばかりなのに、新たなシステムを導入するの?」、「DXってよく分からない」、「そもそも誰がやるの?」といった会話が社内で飛び交っていました。

桔梗原 DXを部門横断で進める上で課題となるのが、「周囲を巻き込むこと」です。現場とのコミュニケーションを取らずにDXを進めた結果、巨額投資したDXプロジェクトが頓挫したケースもあります。日立建機はどのように課題を克服したのでしょうか?

遠西 清明 氏

日立建機株式会社 執行役 CDIO 新事業創生ユニット長
遠西 清明 氏

遠西 当社は、建設機械・鉱山機械などのハードウエアメーカーからソリューションプロバイダーへの事業転換を目指しています。それを実現する新しい日立建機のコア・コンピタンスが、お客さまの課題を常に行動の起点としていくCustomer Interest First(顧客課題解決志向)(以下、CIF)です。CIFのもと、DXのファーストステップとして「他社が模倣できない、卓越した現場改革力を身に付ける、Operational Excellence」を目標に定めました。しかし問題は、どこから取り組むべきか、焦点が定まらなかったことです。そのため、2020年4月に立ち上げたDX推進本部のメンバーに、顧客接点の変革であるOperational Excellenceとは、どのような世界観なのか。「妄想してみよう」と話しました。

 妄想から生まれた世界観は、さまざまな人が一体感をもって取り組む道標となります。DXプロジェクトで最初に着手するのが現実的なプランではなく、妄想という指摘は重要なポイントです。DX推進本部のメンバーが妄想して創り上げた世界観とはどのようなものですか?

遠西 例えば「調べて折り返します」ではなく、お客さまが今現場で必要としていることを、最速で対応し信頼を勝ち取る。当社グループにおける「営業のあるべき姿」を象徴するシーンを抽出しデザイン化していく。この世界観を動画にして役員に見てもらったところ、「いいね」と理解が得られました。世界観の共有により仲間づくりを行い、アプリケーション開発を始めた段階で組織変革の兆しが見えてきました。DX推進は組織変革でもあると考えています。


DXプロジェクトで最初に取り組んだのは妄想し世界観を創ること。世界観を共有することで役員はもとより全従業員を巻き込んでいく

 吉田さん、Operational Excellenceをはじめとする、CIFを支えるアプリケーション開発の基盤構築においても世界観の共有は重要でしたか?

吉田 世界観の共有は非常に重要です。DXは試行錯誤を伴うため、従来のIT支援と同じ考え方では、お客さまのDXを成功に導くことはできません。今回、CIFを実現するデータ利活用基盤においても、グランドデザインを日立建機と一緒に描いて設計、構築、運用まで一緒に行っています。また、アジャイル開発によりアプリケーションのPDCAサイクルを継続的かつ効率的に回すために、伴走型サポートが必要です。私たちは、日立建機のDXプロジェクトチームの一員になり、CIFを理解したうえでOperational Excellenceの世界観を共有し、ともにその実現に向けて取り組んでいます。

ユーザーを主語とするデータ利活用基盤を構築

吉田 貴宏

株式会社 日立製作所 マネージドサービス事業部 事業部長
吉田 貴宏

 データを集めて分析しただけでは、データから価値を生み出すことはできません。遠西さん、DXの取り組みを通じて得られた、データ価値創造の勘所はありますか?

遠西 「価値あるデータは何か」を分かっていることが必要です。グループ会社の日立建機日本が国内のお客さまからヒアリングし、その結果をもとに必要なデータを整理しました。ポイントは、最初から100点満点の使えるデータを求めないこと。最初は60点のデータでも活用を進め、少しずつ改善したというのが実態です。吉田さんと、時間をかけてデータの鮮度や粒度などを検討しましたね。

吉田 はい、例えば、ある程度整合性のとれた一日前のデータがほしいとか、整合性がとれなくてもできるだけリアルタイムなデータがほしいとなったときに、どう対応するか。価値あるデータの選別とともに、それを活用する「基盤のあり方」も重要です。従来、日立建機は建設機械に装着したセンサーにより収集したデータと、基幹システムのデータを活用し、お客さまの効率的な機械利用や、営業・代理店などによるタイムリーな保守などをサポートするサービスを提供してきました。しかし、アプリケーション開発・実装を個別で行ってきたため、基幹システムへのアクセス集中、開発効率低下、運用サイロ化などの課題に直面。これを解決するために、アプリケーションと基幹システムの間にデータ利活用基盤を配置し、データの一元管理を実現しています。


DXを支えるデータ利活用基盤は、日立建機と日立製作所との協創により構築。PDCAサイクルを継続的かつ効率的に回すために日立製作所は伴走型で支援している

 データ利活用基盤を語る上で、主語はテクノロジーではなくユーザーであるという視点が大事です。業務におけるデータ活用も今後パーソナライズ化は進んでいきます。ユーザーの行動ドリブンで、必要なデバイスで必要なデータを必要なクラウドサービスを使って活用できる。これからのプラットフォームには、柔軟性がより求められますが、吉田さん、日立製作所はどのようなデータ利活用基盤を提供しているのですか。

吉田 DXにおいてさまざまなデータの取り扱いを考えると、お客さまの視点で最適なクラウドサービスを選択する、マルチクラウドがポイントとなります。日立建機のデータ利活用基盤は、パブリッククラウド、オンプレミスにまたがるデータを束ねて活用することが可能です。さらに、APIの提供、BPM(ビジネスプロセスマネジメント)ツール、BIツールなどユーザーの多様なデータ活用ニーズに応えます。日立製作所はこのように、クラウド/DXに伴走するオファリングにより、ハイブリッドクラウドでアジリティと信頼性を両立し、お客さまの目指す新たなビジネス変革に貢献していきたいと考えております。


クラウド/DXの実現に伴走する日立製作所のオファリング(詳細はこちらから

 日立建機では、データ利活用基盤を利用したアプリケーション開発も進んでいるとお聞きしています。

遠西 2022年4月に、第一弾として「営業支援アプリ」の運用を開始しました。ユーザーは日立建機日本の営業担当者1,000人。お客さまの保有機械の稼働状況、取引履歴・メンテナンス計画などの情報を、タブレットなどのアプリケーション上で瞬時に把握できます。AIを活用したお客さま提案も可能です。また現在、データ利活用基盤を利用したアプリケーション開発プロジェクトが30以上立ち上がっています。

吉田 データ利活用基盤の活用が進んできたときに課題となるのが、稼働アプリケーション数増大に伴う障害対応の迅速化、データ量増大によるクラウドコストの抑制などです。私たちは伴走者として継続的な運用改善をご提案し日立建機のDXを支えていきます。

桔梗原 一般的に国内企業は、「データの整備・管理・流通・運用が進んでいない」、「データ利活用の文化や方針がない」といった指摘もあります。日立建機の世界観共有や、日立製作所の伴走型は、国内企業のデータ利活用における課題解決のヒントになりそうですね。

トップの強い意志をDX推進本部のメンバーが受け継ぐ

桔梗原 富夫 氏

日経BP 総合研究所 フェロー
桔梗原 富夫 氏

 冒頭で、妄想することが大切だというお話になりました。しかし、妄想を実現する情熱がないと本当に妄想で終わってしまいます。DX推進が、情熱というテーマで語られることはあまりないですが、実際に取り組む中で感じることは何かありましたか?

遠西 当初、DX推進本部のメンバーはIT部門や事業部門といった在籍部門との兼務でした。「空いている時間がない」、「DX推進本部での仕事が評価されない」など、兼務に伴う課題が表面化し、一度は解散。再スタートのときは専従者で進めました。澤さんがおっしゃったように、情熱を持ってやりたいという人がいないとDXプロジェクトは成功しません。そして情熱は周囲を動かします。CFO(最高財務責任者)の理解を得て、DXを推進するための戦略的投資枠を確保しました。成果がすぐに出なくとも、一歩ずつ前進していくことができます。

桔梗原 日立建機のDXがトップダウンで始まったこともポイントですね。DXでは、組織、人員配置、業務プロセスなどの変革が必要です。それを行うためにはトップの強いリーダーシップと覚悟が求められます。

遠西 トップの覚悟は、当社を取り巻く環境の変化が背景にあります。お客さまの経営課題は「安全性と生産性の向上、ライフサイクルコストの低減、環境対応」が中心です。この課題は今、そして10年後の課題でもあります。しかし、自動化、電動化などが進むことで、課題の解決方法は違ってきます。中期経営計画(2023〜2025年度)では、経営戦略の柱のトップに「顧客に寄り添う革新的ソリューションの提供」を掲げています。これはDXにより実現していくことになります。DXにかけるトップの強い意志は、私はもとよりDX推進本部のメンバーに受け継がれています。


CIF(顧客課題解決志向)のもとでDXを推進し、建設機械・鉱山機械などのハードウエアメーカーからソリューションプロバイダーへの事業転換を目指す

吉田 お客さまと一緒に目標に向かって走る、これが伴走型です。お客さまの目標は、私たちの目標でもあります。達成のために、情熱を持って取り組むことを大切に考えています。

 妄想、世界観、そして情熱が、DX推進の原動力となる。ITエンジニアだけでなく、全従業員がDXを「自分ごと」として捉え、さらに構築・運用パートナーも巻き込むことがDX成功の秘訣だと、みなさんのお話をお聞きしながら確信しました。私がEvangelistとして提唱するLumada(ルマーダ)は、illuminate(照らす)とData(データ)を組み合わせた造語です。データに光を当て、新たな知見を引き出す。本日のお話は、Lumadaの方向性とも一致するものです。最後に、チャレンジした者だけがDXの手応えを獲得できる。これは、忘れてはいけないと思います。みなさん、本日は貴重かつ示唆に富むお話をありがとうございました。

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所属・役職等はすべて取材日時点のものです。
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本記事に記載の会社名、商品名、製品名は、それぞれの会社の商標または登録商標です。

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