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Hitachi

小林 雄一
熟練者が立てたような
きれいな計画を立案できる技術をめざして

株式会社日立製作所
研究開発グループ
デジタルサービス研究統括本部
サービスシステムイノベーションセンタ

研究者小林 雄一

日立の最適化ソリューションを支えるエキスパートを紹介するインタビューシリーズ。今回は、研究開発グループの小林雄一に話を聞きました。産業向け自律分散システムやトレーサビリティシステムなどの研究開発を経て計画最適化技術の研究開発に従事してきたという小林に、Hitachi AI Technology/計画最適化サービスMLCPのコア技術開発の経緯や今後の展望などを語ってもらいました。

※ MLCP:
Machine Learning Constraint Programming

Q1 これまでの経歴を教えてください

学生時代は素粒子に関する実験物理学を専攻していました。興味を持ったきっかけは高校の授業で、すべてのものの動きは物理で説明ができて未来も予測できると聞いて感銘を受けたことでした。中でも、プログラミングによる実験システムの構築や実験データの分析に面白さを感じて、卒業後もそうした研究に携われたらと日立のシステム開発研究所に入りました。入社してからは、自律分散システムや商品のトレーサビリティシステム、電気自動車向けテレマティクスシステムなど新しいサービスシステムの研究開発に従事。2014年からはインフラ系の最適化を研究開発するチームに所属してMLCPのコア技術を開発し、鉄鋼メーカーや食品メーカーの計画最適化システムで実用化してきました。最適化の研究開発に実験物理学が直接役に立っているとは言えませんが、研究室にこもることなく現場で粘り強く取り組む姿勢には生きているかもしれません。

Q2 最適化のどのような業務を担当していますか

入社以来、研究所に所属して、一貫して新しい技術の開発に従事してきました。最適化技術の研究チームに配属された当初のミッションは、鉄道分野向けに培ってきた制約プログラミング技術を、製造業をはじめとするさまざまな分野に横展開させるというものでした。その中で生まれた成果の一つがMLCPのコア技術です。最適化プロジェクトにおける私の担当業務は、技術をお客さまの課題にフィットさせることです。さらに言えば、お客さまの課題解決に適した技術がなければ、そのための新しい技術をつくり上げることも研究開発者である私の役割です。また現在は、鉄道や水道分野といったインフラ系の最適化システムを研究開発するチームのマネージャーも務めています。

小林 雄一

Q3 最適化の技術開発で難しいと感じたところは

最適化に取り組み始めて分かったのは、数理最適化という技術の歴史は長いものの、計画立案業務においては意外とシステム化が進んでいなくて、未だに熟練者が考えて計画を立てているケースが少なくないことでした。例えば多品種少量生産の現場では、注文に応じた制約条件を守るいくつものルールがあり、それらを設備や人員など状況の変化を考慮しながら組み合わせて生産計画を立案していましたが、その熟練者の頭の中の過程を言語化することは非常に困難でした。そこで注目したのが、これまでに人が立案してきた計画の履歴データです。この多数のデータから熟練者による計画パターンを分析して、抽出した傾向をシステムに反映させることで、人と同じような計画立案を可能にしたのがMLCPのコア技術です。

Q4 研究者として開発したい最適化技術は

計画立案を担当しているお客さまから聞いた「計画は芸術のようなものだ」という言葉が、今も強く印象に残っています。確かに、よくできた計画を可視化すると、規則性がありきれいに見えるものです。私自身も、そういった芸術のようなものにチャレンジするのがMLCPだと考えていて、ただルールを守って立案するだけではなく、言語化できない部分までも含めて自動化して、いい計画、つまり美しい計画を立てられる技術を開発できたらと思っています。世の中には、人に美しいと感じさせる絵を描く生成AIも登場してきています。ただ、今の技術では、こんな感じの絵を描いてくださいと教えるとそんな感じの絵を描いてくれますが、計画におけるこんな感じという部分はまだ教え込めません。ですから、さらに研究を進めて計画の分野できれいな計画を立てられる生成AIをつくりたいです。

小林 雄一

Q5 最適化における日立の強みはなんでしょう

日立は産業、交通、電力などさまざまな分野で事業を展開しています。どの分野においても最適化へのニーズはありますし、分野に固有の技術も共通して活用できるものもあります。例えば鉄道分野で実用化していた運行管理の最適化技術を製造業のお客さまに紹介したところ、ラインの生産計画に似ていると興味を持っていただき導入に至ったことがありました。また、産業分野の最適化プロジェクトでお客さまと試行錯誤を重ねてつくり上げてきた協創プロセスを応用して、他分野のプロジェクトを効率的に進行した実績も多数あります。このように、さまざまな分野の最適化に関わってきた人たちの経験やノウハウ、技術が蓄積されていているとともに、分野の壁を越えてシームレスに活用できるスキームが確立されているところが日立の強みだと思います。

Q6 今後に向けた取り組みと最適化でめざしていきたいもの

最適化技術は、企業内の課題解決に限らず働き方の改善や少子高齢化、省エネルギー、脱炭素、フードロスといった社会課題の解決に貢献できると思っています。例えば、脱炭素に関して言えば、現在の生産量をできるだけ維持しながら脱炭素をどこまで実現できるかを、MLCPや新しい技術を使ってシミュレーションして計画を提示できるようにするための研究開発に取り組んでいて、いくつかのお客さまに提案してもいます。これはあくまでも一つの例ですが、研究開発に携わる立場としてはそうした最適化技術を一日でも早くつくり広めることによって、世の中のさまざまな課題の解決にも貢献していきたいと考えています。

プロフィール

経歴

1999年入社
入社後、産業向け自律分散システムやトレーサビリティシステムなどの研究開発を経て、現在、計画最適化技術に関する研究開発に従事

日本オペレーションズ・リサーチ学会員、情報処理学会員

担当業務(得意)領域

  • 混合整数線形計画法
  • メタヒューリスティックアルゴリズム
  • ルールベース最適化
  • 機械学習

これまでの主な実績

  • 電気自動車ドライブ計画最適化
  • 鉄鋼メーカー生産計画最適化
  • 食品メーカー生産/要員計画最適化
  • 鉄道列車ダイヤ最適化

論文発表・講演実績・メディア掲載実績

  • Towards Developing a Self-Explanatory Scheduling System Based on a Hybrid Approach (ICPS 2016)
  • MLCP: A Framework Integrating with Machine Learning and Optimization for Planning and Scheduling in Manufacturing and Services (IEEE SoSE 2020)
  • 鉄道運行管理システムへの機械学習適用 (日立評論、2021)
  • 情報処理学会業績賞 (2020)
  • 関東地方発明表彰奨励賞 (2022)

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