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技能五輪世界大会編 モノづくりの礎のために推し進める日立の技能五輪へのチャレンジ

2年に一度開催される技能五輪国際大会。2021年9月に中国上海で開催される予定だった国際大会はコロナ禍で一年延期となり、2022年6月には上海のロックダウンの影響により中止が決定されました。代替措置として開催された「第46回技能五輪国際大会(特別開催)」は、2022年9月から11月にかけ、日本を含む15カ国で分散して開催され、その技能五輪国際大会の中の溶接職種競技では、日立事業所の高柳哲也選手が見事に金メダルを獲得しました。

延期、中止、分散開催という厳しい状況にありながらも、日立グループでは、高柳選手をはじめ、塩澤隼人選手(CNC旋盤)や川端里空選手(構造物鉄工)などが大いに活躍しました。

技能五輪国際大会にて溶接職種競技中の高柳哲也選手

技能五輪にかける日立の想い

そうした活躍は、この第46回技能五輪国際大会だけではありません。エネルギー部門を擁する日立事業所をはじめ、日立グループは、製造現場を支える優秀な技能者の育成および技能伝承を目的として、日本で行われる技能五輪全国大会には1963年の初開催から、技能五輪国際大会には1963 年のアイルランド/ダブリン大会から出場を続けています。その間、数々のメダルを獲得、輝かしい成績を上げてきました。

その歴史を振り返ると、日立事業所だけで全国大会への出場者は延べ652名、入賞者は419名、優勝者は90名にも達しています。国際大会でも日本代表として53名が出場し、13名が金メダルを獲得。いかに日立事業所が技能の伝承に力を注いでいるかがわかります。またこれらの功績は、若い技術者たちへのモチベーションにつながっています。日立事業所には、技能五輪をめざして入社する社員もいるそうです。

日立事業所に掲載されている歴代国際大会出場者及び成績

選手の努力と周囲のサポートが技能を養う

「技能五輪出場」といえば華やかに聞こえますが、日本から各職種で出場できるのは1名のみ。国内大会の選抜を加えると約2〜3年にも及ぶ長い訓練の中、選手たちのやる気を保ちながら、このような好成績を収めてきた背景には、どういったことがあるのでしょうか。

選手たちが競技を競う職種はたくさんありますが、エネルギー部門の選手が挑戦する職種は、溶接、構造物鉄工、機械製図、旋盤の4つです。日立事業所の選手たちは、同事業所の敷地内にある日立製作所・日立事業所教育センタにおいて、平日に加えて時には土曜日も訓練しています。

教育センタ内で総務部技能五輪担当者と歓談する高柳哲也選手

「朝の7時50分から体力トレーニング、8時50分の始業から訓練に入ります。訓練内容は過去の課題や、その中で見えてきた苦手な部分を克服する要素訓練というのが各職種で共通していますね。また、職種によって課題の出され方が違うため、磨いていくスキルの方向性がやや異なります。」と、機械製図指導員の田中広明さんが選手の訓練について教えてくれます。

機械製図では、未公開課題が大会で出されるため、新しく出てきたものへの対応力が求められ、突き詰めるというより、訓練ではさまざまな課題にふれることが重要です。また、構造物鉄工では、全国大会は公開課題というのに対して、国際大会では未公開課題が出題されることから、「国際大会ならではの難しさがある」と指導員の坂本昭仁さんが指摘します。

田中広明指導員と坂本昭仁指導員

日々の訓練を指導する指導員たちも、かつて全国大会や国際大会に出場した選手でした。ただ、現在のZ世代の選手とは、訓練のあり方も変化しています。高柳選手を指導している鈴木拓馬さんは、溶接が好きで好きでたまらない高柳さんの思いが金メダルにつながったと語ります。

「最近の選手のみなさんは頭がいいですし、技能に関する情報もYouTubeなどでいろいろと得ています。そのせいか、この訓練は何のためにするのかを論理的に説明することが必要となっています。私たちの時代は、『やれっ』の一言でしたけれど(笑)」(鈴木拓馬さん)

高柳哲也選手と鈴木拓馬指導員

デジタル技術の下に育ったZ世代の選手たちは、インターネットを駆使したリサーチや分析力も自然に身についており、「非常に頭がいい」と指導員たちはいいます。その力をさらに伸ばすために、指導員たちは、選手一人ひとりの特性にあったトレーニングメニューを考えています。

「技術指導だけが大切なのではありません。私たちは、選手を分析し、選手の訓練方法を考えることも重要です。ひいては、選手自身が自ら考えるように成長させることが指導員の役割です。どのような話し方をすればよいのかを考えながら指導をしています。」(田中広明さん)

「選手も将来は製造現場に戻ります。そこでは自分で考え、作業できることが大切となってきます。全国大会では公開課題がメインなのですが、国内大会で競う選手にもそうした主体性を持ってもらえるよう、あえて未公開課題の訓練も取り入れています。やはり現場でも大いに活躍してほしいですしね。」(坂本昭仁さん)

このように指導員は、大会での成績向上のためのサポートはもちろん、選手の将来も見据えながら二人三脚で訓練しているのです。選手がいずれ指導員となり技能の伝承がなされるだけでなく、元選手たちが製造現場で技能伝承をいわば横展開させてきたといってもよいでしょう。

訓練で養った力をエネルギー事業に生かして

今回金メダルを獲得した高柳選手の上長である三浦雄一さん(日立事業所 エネルギーBU 原子力製造部 主任技師)は、現場にとっての技能五輪の重要性を次のように説明します。

「溶接は多種多様な環境下で実施することから、技能を身に着けるためには多くの製品で応用を利かせながら経験を積むことが必要です。技能五輪はその力を習得することができます。」。

技能五輪の訓練で行う課題制作を通じ、「自ら学ぶ力」を養うことが重要と考えているのは、指導員だけでなく、製造現場の人間も同じです。また、その後の職場復帰となった際のコミュニケーション力、仕事をするための準備力、技能力などの基礎が養われるという意味でも、訓練は重要な活動です。そうして培われた能力を生かすべく、製造現場の上長たちは、技能五輪経験者が職場の中核的な存在となるよう多くの経験を積ませ、管理者となるように指導しています。

他方、選手たちの訓練を目の当たりにしている日立事業所のエネルギー総務部は、技能五輪への取り組みには製造現場との協力が不可欠であり、大切だと考えています。また、人財育成を目的とするだけでなく、訓練校でのトレーニングは技能面はもちろん、メンタル面を鍛える重要な場です。「製造現場に戻ったときは職場のキーパーソンとしての影響力を持つような人財になってほしい。」そんな願いを抱きながら、日立事業所では、日々訓練する選手たちの成長を見守っています。
選手と指導員の二人三脚の努力の積み重ね、そして長年彼らを支えている日立事業所の3者の力が合わさって結果を生み、日立のモノづくりを支える力となっていくのです。

日立製作所・日立事業所教育訓練センタ外観

このように日立のエネルギーセクターは、モノづくりの基礎を守り、人財を育み、製造現場と一体となって、技能五輪への取り組みを今後もいっそう強く推し進めていきます。

日立製作所 代表執行役社長兼取締役(当時)庄山悦彦からの激励メッセージ

2022年につかんだ国際大会での金メダル

日立事業所の高柳哲也選手が金メダルを獲得した瞬間、米国オハイオ州クリーブランドの表彰式会場では、応援に駆けつけていた日立関係者が立ち上がり、いっせいに喜びの声を上げました。

「周囲の期待が大きく、金メダルとわかったときは、うれしいというよりも正直ホッとした気持ちのほうが強かったですね。ただ、4つの課題のうち、最も難易度の高い1日目の課題を終えて、これでいけると思いました。」と高柳選手は、そう振り返ります。
また、高柳選手の上長である三浦さんは、メダルを獲得する技術は持っていると思っていたものの、金メダルに手が届くとは想像しなかったそうです。

この技能五輪国際大会での競技は過酷なものです。例えば、今大会の溶接職種競技では、前半2日間が1日各6時間、後半2日間が各4時間と4日間にわたって行われました。集中力の持続はもちろん、夜の過ごし方も重要になってきます。
さらに、使用する機械や道具もふだん使い慣れている日本製のものとは違うなど、日常の訓練とは違った環境や、やりにくさがあるのです。

しかし、高柳選手はそんなハンディをものともしませんでした。むしろ、「緊張はなく、楽しんで課題をこなしていました。」と語ります。
そして4日間の課題をこなし、結果発表の時間が訪れます。銅メダルの選手が読み上げられた後、銀メダルの選手の名前は告げられないという驚きの展開。なんと、韓国の選手と同点で高柳選手が金メダルを獲得したのでした。
表彰式で実際に金メダルを手にした高柳選手に満面の笑みがこぼれました。指導員との長年の訓練や思い出がよみがえり、喜びもひとしおだったに違いありません。
今後は実際の現場で一層技能を磨き、周囲をけん引していく人財となっていくことを期待しています。

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