「2050年のカーボンニュートラル」の実現には、温室効果ガス排出の8割以上を占めるエネルギー分野の取り組みが重要です。そのためには、原子力発電の選択肢も必要となってきており、各電力会社は、何よりも安全性を優先させることを前提に再稼働に向けた取り組みを進めています。2022年3月現在、日本国内の原子力発電所は、廃止となったものを除くと、33基。そのうち10基が再稼働開始しました。その一方で、廃止措置すなわち廃炉に向けて動き出している原子力発電所が現在24基となっています。(*1)
こうした中、日立プラントコンストラクションは、2009年1月に運転を停止した中部電力の浜岡原子力発電所第1号機および第2号機の廃止措置としてタービンの解体工事を進めています。タービンのような大型機器はそのままでは搬出するのが難しいため、建屋内で搬出しやすい大きさに切断する必要があります。しかし中部電力が廃止措置を実施するのは今回初めてであり、当初は、どのような工法によって大型機器を切断すればよいのか手探りの状態であったといいます。
そんなとき、中部電力浜岡原子力発電所の建設や定期点検に携わってきた日立プラントコンストラクションに、お客さまから相談を頂き機器解体に協力することになりました。
現在、定検作業所の工事長を務める大平利夫さんに、日立プラントコンストラクションからの提案内容をお聞きしました。
「タービンなどの大型機器の切断については、既に浜岡原子力発電所において大型機器の交換・廃棄で実績のあった大型バンドソーによる工法を提案しました。”バンドソー”とは一般的に、のこぎりの刃を帯状にして金属を切断するための装置ですが、”大型バンドソー”は機械式無火気切断技術のひとつで日立プラントコンストラクションが開発した技術です。」
原子力発電所の解体工事では、放射線による被ばくや放射性物質による汚染拡大、火災発生を防止しながら、安全かつ効率的な解体が求められます。
当社が提案した大型バンドソーは遠隔操作が可能なので作業者の被ばくのリスクが回避できます。また、電気を使用してモーターなどで回転させてモノを切断するため、他の切断方法とは異なり火災の恐れがありません。
さらに、このバンドソー切断方法では、ガスやプラズマを使用した切断工法では必要となる全面マスクを着用せずに作業が可能であることから、作業員が酸欠や熱中症になるリスクもなく作業環境面で安全である事に加え、作業効率面でもメリットがあります。
また、解体には一般的にガス切断が主流とされますが、ガスを使った切断方法では火気で溶解した放射性物質が切断した金属に入り込んでしまう心配があり、溶解部の除去作業が新たに発生その場合放射性廃棄物をかえって増やしてしまう可能性がありました。
最終的には、こうした作業環境の安全面、作業効率の点で優れているとして、日立の大型バンドソーによる切断方法を浜岡原子力発電所で採用する事となりました。
日立プラントコンストラクションでは、1994年に大型バンドソーを開発。それ以降 無火気切断技術や大型バンドソーに関する特許を多数取得し、高い技術・ノウハウを蓄積しているだけでなく、装置そのものにも他社メーカーにはない特長があります。
「ひとつは、大型の特殊なサイズにも対応できる点です。他社メーカーの装置は、切断可能寸法が幅2m×高さ2mもしくはそれ以下のものが一般的ですが、当社の大型バンドソーで最大の装置は切断可能寸法が幅8m×高さ4mとなります。つまり、大型機器の切断であっても、いわばふところに入れるようにして切断できるのです。加えて、水平・垂直の切断が可能で、切断物や作業場の状況によって装置サイズが変更できるうえ、装置の重量もきわめて軽量という特長があります」(大平さん)
さらに、重量面においても、たとえば2m×2mのものを切断する場合、他社メーカーの装置は重量が30〜40tになりますが、それに対し、日立の大型バンドソーは8.5~4.5tと、他社と比較するとかなり軽量です。現場での取り回しと設置エリア選択の点で大変有効なことがわかります。
廃止措置の第1段階である2009〜2015年度は、まず使用済み燃料プールに保管されている燃料の搬出や汚染状況調査などを行う解体工事の準備を実施。2015〜2022年までの第2段階では、いよいよタービンなどの原子炉周辺設備の解体、炉内除染などがスタートしました。
日立プラントコンストラクションは、2017年秋から解体工事に参入し、2018年2月にはタービン・発電機の切断に取り掛かりました。切断作業においては、コントローラによる遠隔作業を実施、切断状況や周辺監視などを行いながら十分に安全を確保して進めました。
また、原子力発電所の解体・廃止措置ならではの課題にも大型バンドソーの対応力が発揮されました。それは解体後の廃棄物処理の問題です。解体工事に伴って発生する廃棄物、すなわち解体撤去物には、放射能の度合いがさまざまなものがあります。解体撤去物が放射能濃度が人体に影響を及ぼさない濃度(クリアランスレベル:年間0.01ミリシーベルト(*2))以下であることを国に認めてもらうと、「放射性物質によって汚染したものとして取り扱う必要がないもの」とできる、いわゆるクリアランス制度が定められています。クリアランス制度を適用することで、廃炉の際に出る廃棄物を有用資源としてリサイクルすることが可能です。
廃止措置の第2段階では、タービンなど原子炉周辺の放射能濃度が比較的低い場所からの作業となります。中部電力は、タービンなどが切断されたのち、鉄などの解体撤去物については、このクリアランス制度が活用出来るのではないか、と考えました。
クリアランス制度では、切断方法が明確に示されているわけではないため、従来の熱切断方法を採用することも可能です。しかし、従来の熱切断方法では火気を使うため、放射性物質が金属に溶け込んでしまい、放射能で汚染されたゴミを減らすという目標を達成することが非常に難しくなります。
一方、日立の大型バンドソー切断方法では火気を使わないため、そうしたデメリットがなく、クリアランス制度を活用するのに適した方法だといえます。
その一方で、解体現場では少なからぬ苦労もあったといいます。
「原子炉など発電プラントの機器は、もともと壊すことを前提につくられているわけではありません。ですから、建設するときより、実は解体する時のほうが難易度が非常に高くなります。また、複雑な形状の機器解体物の現在定められている切断要求サイズは小さなサイズ・重量に収める必要があるため、思いのほか困難を強いられたこともありました」(大平さん)
とはいえ、日立大型バンドソーを活用した方法であれば、液体で溶かして廃棄する処理方法では無いという点や、切断面がきれいな状態のため、解体後の整理・整頓が容易、かつ低速切断が可能で素材への熱影響がほとんどなく、解体品の保管・管理面でもメリットが活かされました。
中部電力は、第2段階のうち前半分の約7,700tの解体撤去物について、2019年3月にクリアランス認可を取得、保安規定の審査を受けるとともに、さらに約4,000tのクリアランス確認申請を予定しているといいます。
今回の解体工事では、お客さまとのやり取りも多く、多種多様な相談を受ける一方で、議論の中でお客さまから提案を頂くこともあり、非常にお互いの距離が近い現場だそうです。
「相談を受けたとき、われわれ現場だけでは解決できない問題もありましたが、当社の施工技術部門とも連携しながら、スピード感をもって解決策を提示し、対応してきました。これまでの現場の知見をもとに、対処が難しい問題に対しても問題の深堀を行い、いくつかの解決策を提案し議論するなど、お客さまとの連携を深められたのではないかと考えております。その甲斐もあって、当社への信頼をいっそう高めることができたのではないかと思っています。」(大平さん)
こうしたお客さまとのキャッチボールを通じても、原子力発電所の廃止措置における解体工事での技術やノウハウを蓄積することにつながりました。
2023年から始まる第3段階では、より放射能濃度の高い原子炉本体など原子炉領域の解体が行われる予定です。日立プラントコンストラクションは日立GEニュークリア・エナジーと協力のうえ、この第3段階でも第2段階までの作業で得られた技術・ノウハウを活かしたい考えです。
「今回の新しい取り組みによって得られたナレッジを基盤に、これまで日立が培ってきた技術・知見を共有しながら、グループ全体の原子力事業に対して、われわれも貢献したいと考えています。もちろん、浜岡原子力発電所における廃止措置の第3段階に参画することもそうですが、全国には今後廃止措置に着手する予定の原子力発電所も少なくありませんから、そうした発電プラントにも当社の技術を適用していきたいですね」(大平さん)
さらに2021年10月には、中部電力と共同で放射性廃棄物の削減を実現する新たな切削分離工法と分離装置を開発。今後もお客さまの要望に一つ一つお応えしながら原子力発電所の廃止措置に取り組んでいきます。また、日立プラントコンストラクションは、日立GEニュークリア・エナジーのもと再稼働に向けた取り組みも進めています。安心安全という価値の提供を通じて、社会貢献を果たすべく邁進していきます。