IoTやAI、ビッグデータ活用などの先端技術の進展とともに、世界中のさまざまな分野でデジタル化が加速しています。
経済成長の基盤となる産業分野をはじめ、現代社会を幅広く支える電力・エネルギー分野においても、発電設備や送配電網全体での需給バランスの調整や品質の良い電力を安定的に供給するためのデジタル技術の進展がますます進んでいます。
こうした中、インドネシア政府は、製造業におけるオートメーション化およびデータ化・コンピュータ化をめざす昨今の技術的コンセプトである「インダストリー4.0」を推進するとともに、2060年の温室効果ガス排出量実質ゼロ(カーボンニュートラル)達成に向けて取り組んでいます※。さらには、年約5%の持続的成長をめざすため、首都ジャカルタに次いで人口やGDPが大きい東ジャワ州に、東京ドームの約42個分ともなる200ヘクタールもの工業団地を造成し、地域初のデジタル変電所を導入するプロジェクトを開始しました。
具体的には、インドネシア国内に電力を供給するPLN(インドネシア国営電力公司(プルサハン・ペルセロアン(ペルセロ)・ピー・ティー・プルサハン・リストリク・ネガラ))が、東ジャワ州で初めてとなるデジタル変電所をシドアルジョ工業団地に導入することにしました。
デジタル変電所の導入のねらいは、送配電系統の安定化、そして安全かつ安定的な電力供給の実現。さらにはデータ活用による高度な監視・管理ならびに予兆診断・意思決定支援も可能なデジタル変電所は、東ジャワ州で拡大する電力需要への対応に加え、工業団地への電力供給の安定性とレジリエンスの確保も実現するという期待もありました。
その構想を実現するパートナーとして選ばれたのが日立エナジーです。
競合企業も名乗りを上げる中、日立エナジーがこのプロジェクトを受注した理由をプロジェクトマネージャーとしてまとめ役となったハリオ・プラモエデワントさんとボロメウス・サクティさんにお聞きしました。
「日立エナジーは1970年代からインドネシアに拠点を置き、国内のエネルギーインフラ開発を支援してきました。日立エナジーはインドネシアを含む世界中で信頼性の高いデジタル変電所技術を開発してきたパイオニアであり、そのことがPLNに大いに評価された点のひとつです。また、スケジュール通りにプロジェクトを完遂するノウハウや能力の高さを示すことができた点も理由となっています」(ハリオさん)
デジタル変電所の導入は、シドアルジョ工業団地およびその周辺地域で変動する電力を効率的に利用できるようにするというのが目標です。お客さまのご要望もあり、日立エナジーはデジタル変電所の設計だけでなく、納入、試運転、商用運転までを1年間で実現するという厳しいスケジュールに直面しました。そのうえ、通常とは異なり、コロナ禍のまっただ中でプロジェクトを進行しなければならないという困難もありました。
スケジュールの遵守にあたっては、現場に携わった日立エナジーのプロジェクト・エンジニアリング・カスタマーサービスのそれぞれのチーム間と、さらにはお客さまのチームとの連携が大きなポイントとなりました。
設計・組み立ては主にインドネシアで実施。日立エナジーのスイスやスウェーデンの拠点からもサポート体制を整えるなど、プロジェクトを成功させるため、万全の体制が敷かれました。
日立エナジーのチーム、ベンダー、お客さまなど、関係者との緊密な連携により、2021年8月15日の試運転開始からわずか約1か月で商用運転を開始することができました。この成功は、地元テレビ局にニュースとして放送されました。
「初めてのデジタル変電所ということで、お客さまも新しい技術設定の判断に苦労されたかもしれませんが、迅速にご決断いただき、また、お客さま側のチームとも緊密な関係を構築し、共通の目標に向かって相互に協力してきました。このことが、コロナ禍での厳しい状況にも関わらず、プロジェクトを完遂に導くカギとなりました」(ハリオさん)
デジタル変電所導入によるお客さまの期待としては、第一に電力ネットワークのレジリエンスと安定性を確保すること。戦略的な工業団地であるからこそ、自然災害などによって停電や故障などがたとえ起こったとしても速やかな回復を実現することが求められます。加えて、ネットワークに流れる電力に関するリアルタイムデータも取得できることから、より迅速な予測と意思決定を可能にするというデジタル変電所ならではのメリットも見込めます。
「デジタル変電所のメリットは、それだけではありません」とボロメウスさんは強調します。「従来は、電力に関するデータは多くの銅線から高圧機器や制御盤を介してコントロールセンターに送られていました。しかし、光ファイバーに置き換わることによって、80%近くも銅ケーブルが削減することができるため、大幅にコストが減少するほか、銅線によるデータ損失のリスクも減少することで信頼性も向上させることができるのです。
また、変電所や制御施設に必要な面積・工事コストも大幅に削減されました。さらに重要なのは、デジタル技術を活用することで、電圧の中での作業を最小限に抑えられるため、変電所で働くチームの健康と安全のレベルが劇的に上昇する点です。」
デジタル変電所は、稼働後も現在までトラブルもなく、シドアルジョ工業団地の各社へ電力を送電しており、お客さまであるPLNの担当者 および 工業団地の代表者から日立エナジーに対する感謝の言葉をいただきました。
「日立エナジーとしては、すばらしいコラボレーションができたことに満足しています。現在、インドネシアでは政府のイニシアチブの下にデジタルトランスフォーメンションが推進されています。電力システムのデジタル化を通じて、われわれもそこに参加し、サポートしているわけですが、今後もインドネシアの持続可能なエネルギーの未来に貢献したいと考えています」(ボロメウスさん)
革新的なテクノロジーと長年にわたって蓄積してきたノウハウを強みに、電力・エネルギーのデジタル化を促進する日立エナジーは、デジタルトランスフォーメーションを推進し、強力でグリーンなスマートグリッドを構築する企業として、インドネシアや東南アジアの持続的成長を支援していきます。
※:ジェトロ(日本貿易振興機構)資料より