2011年3月の東日本大震災で津波被害に見舞われた福島県南相馬市では、復興に向けて「南相馬市再生可能エネルギー推進ビジョン」をまとめ、行政、市民、事業者が一体となって取り組み、2030年度には市の消費電力に匹敵する電力を生み出す目標を掲げました。この一環として、津波で壊滅的被害を受けた沿岸部に計画されたのが「万葉の里風力発電所(発電容量2.35MW風力発電システム×4基)」です。
新たな産業の創出、エネルギーの地産地消などを目的に、風力発電など再生可能エネルギーの導入をめざす地方自治体や事業会社は少なくありません。しかし事業化に向けては、収益性を確保する事業計画の立案から資金調達、用地の選定、発電設備の建設、長期にわたる運営・保守など、複雑で困難な多くの課題がありました。
南相馬市には日立グループの工場が立地していた縁もあり、日立は同市のビジョンに賛同し、事業主体となる株式会社南相馬サステナジーに地元企業とともに共同出資しました。日立は、事業化計画の支援から環境評価、発電所の設計、資材や機器の調達、建設工事を担当し、2018年3月の稼働後も運転・保守を一貫して支援しています。
「万葉の里風力発電所」の建設では、日立グループの持ち味を生かしたソリューションを提供してきました。たとえば、日立のエネルギーセクターの一員である日立パワーソリューションズは、これまで風力発電・太陽光発電・蓄電池システムなどのエンジニアリング・運転制御・保守サービスで培った技術・ノウハウをもとに、候補地の選定、風況の調査、発電所の設計、資材や機器の調達、建設工事を担当し、2018年3月の稼働後も運転支援や保守などをトータルサポートしています。
風力発電は、季節、天候、地形などで風況が複雑に変化するため発電量も大きく変動します。そこで、日立の遠隔監視・制御システムのもと設備の状況を24時間体制で見守り、風速・風況など風の状態に応じた最適運転を支援することで発電量の向上に努めています。
「万葉の里風力発電所」の年間予想発電量は一般家庭の約4,500世帯分に相当し、年間約1万トンのCO2(二酸化炭素)排出抑制が期待されます。発電した電力は20年間にわたって電力会社に売電されます。また、福島県再エネ復興支援事業の対象事業者に採択されており、「福島県再生可能エネルギー復興推進協議会」を通して、売電収益の一部を活用した植樹などの地域貢献活動に生かす計画です。
日立は、「万葉の里風力発電所」に対して、今後、デジタルイノベーションを加速するソューション「Lumada」を用いて、故障による停止時間の削減や適切な部品交換を行うための予兆診断を取り入れるとともに、周辺地域の風力発電所や太陽光発電所と統合・調整することで、より安定した電力供給を図っていくことにしています。さらに、福島県では南相馬市と飯舘村の境に風車14基を建設し、50MW級の風力発電所の建設を進めています。日立はこの計画にも参画し、風力発電ソリューションを提供しています。
日立は、国連が掲げる持続可能な開発目標(SDGs)が掲げる、誰もが持続可能な近代的なエネルギーへのアクセスの確保に向けて、再生可能エネルギーの導入拡大につながるソリューションにいっそう力を入れていきます。