ここでは原子力発電の基本原理・しくみから、核燃料サイクルや放射性廃棄物の処理、安全対策まで、幅広い視点から原子力発電について解説します。さらに、核融合や研究用加速器など、未来の技術についても学べます。
電気は私たちの暮らしに欠かせないものです。原子力発電の正しい知識を深め、カーボンニュートラルを実現するエネルギーの未来について考えるきっかけにしてください。
原子力発電は、火力発電と似たしくみで電気をつくります。どちらも水を沸かして蒸気に変え、その蒸気でタービンという大きな羽根車を回し、発電機を動かします。火力発電が石炭や石油、天然ガスなどを燃やして熱を得るのに対し、原子力発電ではウラン燃料を原子炉の中で核分裂させ、その際に発生する熱を使います。
原子炉にはさまざまな種類がありますが、日本では「軽水炉」というタイプの原子炉が使われています。この軽水炉では、普通の水を使って核分裂の速さを調整したり、熱を冷ましたりします。また、蒸気を発生させるしくみの違いによって「沸騰水型原子炉(BWR)」と「加圧水型原子炉(PWR)」の2種類に分けられます。
原子力発電の特長は、少ない燃料でたくさんの電気をつくれることです。ウラン燃料1個(直径・高さともに10mm程度)で一般家庭の6~8か月分の電気をつくることができます。ただし、ウラン燃料は放射性物質であるため、閉じ込めなど厳しい安全管理が求められます。
私たちの身の回りにあるすべての物質は、「原子」で構成されています。原子の中心には「原子核」があり、原子核はたくさんの陽子と中性子からできています。原子核がいくつかに分かれる現象を「核分裂」と呼び、特に核分裂が起こりやすい物質として「ウラン」があります。
ウランの原子核に外から「中性子」がぶつかると、原子核が2つに割れて、大きなエネルギーが発生します。このとき、2~3個の中性子が飛び出し、また別の原子核にぶつかることで、次々と核分裂が起こります。原子力発電は、こうした核分裂の連鎖反応によって生じる膨大な熱エネルギーを使って電気をつくり出しています。
天然ウランには核分裂しやすい「ウラン235」は0.7%しか含まれず、核分裂しにくい「ウラン238」が大半を占めており、原子力発電のウラン燃料では、「ウラン235」の含有量を全体の3〜5%に高めて使います。
出典:国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構 放射線医学研究所『放射線被ばくの早見図』の数値をもとに加工して作成
「放射線」とは、放射性物質から粒子や電磁波の形で放出されるエネルギーをさします。このエネルギーは、物質などを通り抜ける性質を持っています。放射線を出す物質を「放射性物質」、放射線を出す能力を「放射能」と呼びます。これを懐中電灯に例えると、放射線は光、放射能はその光を生み出す力、放射性物質は光を発する懐中電灯そのものにあたります。
放射線は自然界にも存在し、私たちは昔から放射線に囲まれて生活をしてきました。たとえば、宇宙から降り注ぐ宇宙線や、地面や岩石から放出される放射線のほか、空気や食べ物の中からも微量の放射線が出ており、それらを日常的に体内に取り込んでいます。
現在では、放射線の特性がさまざまな分野で活用されています。医療分野では、X線を用いた画像診断やがん治療に利用され、工業分野では製品の内部検査に役立てられています。さらに、農業分野では作物の育成や品種改良にも応用されています。
現在、日本で使用されている原子炉には、沸騰水型原子炉(BWR)と加圧水型原子炉(PWR)の2種類があり、それぞれ蒸気を発生させるしくみに違いがあります。
沸騰水型原子炉(BWR)では、原子炉内で冷却水を沸騰させ、発生した蒸気を直接タービンに送って発電します。この沸騰水型原子炉(BWR)をもとに、安全性や経済性をさらに向上させた改良型沸騰水型原子炉(ABWR)が開発されています。この原子炉では、冷却水を循環させるポンプを原子炉内に組み込むとともに、制御棒を動かす新しい駆動装置を採用しています。また、原子炉格納容器は原子炉建屋と一体化した鉄筋コンクリート製とされ、耐震性が向上しています。
沸騰水型原子炉(BWR)は、東北電力、北陸電力、東京電力、中部電力、中国電力、日本原子力発電で採用されています。
改良型沸騰水型原子炉(ABWR)は、北陸電力、東京電力、中部電力で採用されているほか、中国電力や電源開発でも導入が予定されています。
原子力発電は、環境への負担を抑えつつ、効率的に電力を生み出す方法の一つです。発電時に二酸化炭素を排出しないため、カーボンニュートラルの推進や脱炭素社会の実現が求められる現代において、クリーンなエネルギー源(クリーンエネルギー)としての価値が高まっています。
クリーンエネルギーとして代表される太陽光発電や風力発電は、天候により出力が不安定になるため、需給調整など電力システムに組み込むコスト(統合コスト)が高まります。一方で原子力発電は、発電コストと統合コストがともに低いという特長があり、安定的に大容量の電力を長期間にわたって供給できます。
燃料効率の良さも大きなメリットです。ウランはエネルギー密度が高く、少量で膨大な電力を生み出せます。石炭や天然ガスと比べて必要な燃料の量が圧倒的に少ないため、輸送や保管のコストを抑えられます。さらに、燃料価格の変動による影響を受けにくく、長期的に見ても経済的に安定した発電方法といえます。
出典:電気事業連合会『原子力コンセンサス』より作成
福島第一原子力発電所の事故を教訓に、新規制基準が導入され、安全対策が大幅に強化されました。原子力発電所ごとに、想定される最大規模の地震や津波に耐えられる設計が進められ、防潮堤の設置や建物の水密化が実施されています。また、火山や竜巻などの自然災害への対応として、影響評価を行い、必要に応じた対策が講じられています。
さらに、設計基準を超える重大事故が発生した場合の対策も強化されました。複数の安全機器や設備が同時に機能を失わないよう、外部電源を二系統以上確保し、非常用電源車や送水車も配備。放射性物質の拡散を防ぐしくみや水素爆発を抑制する装置を設置し、テロ対策として発電所設備の遠隔操作システムも導入されました。
加えて、新規制基準では、基準に適合していると認められた場合でも、原子力発電事業者は自主的な安全向上の取り組みを継続的に実施することが義務付けられています。
出典:経済産業省 資源エネルギー庁 『次世代革新炉の現状と今後について 令和6年10月』より引用
日本の電力需要は、デジタル技術の進展などを背景に、今後も増加が見込まれています。脱炭素電源の確保が日本の経済成長と産業競争力を左右することから、特定の電源に依存するのではなく、バランスの取れた電源構成をめざし、再生可能エネルギーと原子力をともに最大限活用していくことが極めて重要とされています。
こうした状況を踏まえ、原子力においては、現在停止中の原子力発電所の再稼働や運転延長だけでは必要な容量を賄うことは難しく、廃炉を決定した原子力発電所のサイト内において、新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉への建て替え等の検討が進められています。
開発が進められている次世代革新炉には、革新軽水炉、小型軽水炉、高速炉、高温ガス炉、核融合があります。
脱炭素社会の実現に向けた法改正により、原子力発電所の運転期間は従来の40年を基本としながらも、60年を超えて運転できるようになりました。そして運転開始から30年を経過すると、10年ごとに技術的評価を行い、長期施設管理計画の策定と認可取得が義務付けられています。
こうした制度のもと、原子力発電所を長く安全に運転するために、設備の点検や修理をより精密に行う高度な保全技術が導入されています。原子炉をはじめとする高温・高圧の環境にさらされる設備では、配管の摩耗や絶縁体のひび割れなどの劣化が発生します。そのような経年変化や異常を運転中に早期発見できるよう、ITを活用した常時監視システムが開発されています。
また、作業者の被ばくを低減するために、ロボットを用いた遠隔操作の導入も進んでいます。劣化の状況を的確に把握し、新たな技術を備えた装置へ更新することで、原子力発電所全体の性能維持が可能となります。
出典:経済産業省 資源エネルギー庁『原子力発電所の「廃炉」、決まったらどんなことをするの?』より引用
出典:日本原子力文化財団「原子力・エネルギー図面集」
現在、原子力発電所の運転期間は原則40年※1と定められています。老朽化などにより運転を停止した原子力発電所も、安全に解体し、跡地を再利用するための「廃止措置」、いわゆる廃炉が必要です。
原子力発電所の廃炉作業は段階的に進められます。まず、使用済燃料を適切な施設へ搬出し、汚染状況の調査と除染を実施します。次に、タービンや配管などの周辺設備を撤去し、原子炉本体の解体へ移行します。内部の解体が完了し、放射性物質の除去が確認された後、最後に建屋全体を解体します。廃炉作業の進行に伴い、放射性物質の量は段階的に減少します。
原子力発電所の廃炉作業は30年以上の長期間に及ぶ大規模なプロジェクトです。そして日本では21基※2の原子炉の廃炉が決定しており、今後も増加が見込まれます。このため、廃炉作業の効率化と安全性向上を目的に、三次元データを活用した計測技術や遠隔操作ロボットによる解体など、最新技術の導入が進められています。
※1 福島第一原子力発電所事故後に改正された法律に基づく規定です。ただし、原子力規制委員会の認可があれば、20年を超えない範囲で、一度限り延長することが可能です。
※2 福島第一原子力発電所事故前に廃炉が決定した3基と、事故後に決定した21基と合計して24基、実験炉、実証炉を含めると26基(2025年4月現在)
出典:経済産業省 『廃炉・汚染水・処理水対策ポータルサイト 主な取組』より引用
1. 燃料デブリの取り出し
デブリとは、事故により溶融し固化した核燃料や炉心の破片をさします。2024年11月に2号機で試験的な燃料取り出しが完了し、このデータを基に本格的な作業への移行が計画されています。
2. 使用済燃料プールからの燃料取り出し
4号機および3号機からの燃料はすべて回収済みで、現在は1号機と2号機における燃料取り出しの準備が進行中です。(※2025年4月1日現在)
3. 汚染水対策
原子炉の冷却に使用された水や地下水が放射性物質と混ざり汚染水が発生します。これに対処するため、「陸側遮水壁」や「地下水バイパス」が設置されました。既に発生した汚染水は「ALPS(多核種除去設備)」で浄化され、放射性物質が大幅に除去されたうえで管理されています。
4. ALPS処理水の処分
2023年から処理水の海洋放出が開始されました。放出前には基準値以下まで浄化され、国際基準に従って希釈されています。
5. 廃棄物の処理・処分、原子炉建屋の解体等
放射線レベルが高い廃棄物は特別な容器に封じ込めて厳重に管理されます。安全が確認された金属やコンクリートの一部は再利用される予定です。最終的には建物や設備を解体し、敷地を放射線の影響がない状態に戻すことをめざしています。
福島第一原子力発電所の廃炉作業は、30~40年規模の長期計画が必要とされています。世界でも前例のない困難な取り組みですが、「復興と廃炉の両立」を掲げ、安全を最優先にしながら着実に進められています。
核燃料サイクルとは、原子力発電所で使い終えた燃料(使用済みとなった核燃料)を再利用するしくみです。使用済核燃料から再処理したプルトニウムとウランを混ぜて「MOX(Mixed Oxide)燃料」として加工した後、原子炉で再び発電に活用します。
原子力発電では、燃料を使用した後に高レベル放射性廃棄物が発生します。そのまま処分する方法もありますが、再処理を行えば、資源を有効利用できるだけでなく、廃棄物の量を大幅に削減できます。さらに、高レベル放射性廃棄物は長期間にわたり強い放射線を放出しますが、再処理によって有害な成分を分離し、その影響を低減できるなど、核燃料サイクルにはさまざまなメリットが期待されています。
現在は青森県六ヶ所村において、核燃料サイクル施設の建設・運用が進められています。これには、ウラン濃縮工場、再処理工場、低レベル放射性廃棄物埋設センター、高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センターが含まれます。
出典:経済産業省 資源エネルギー庁『マンガでわかる 電気はあってあたりまえ? 「高レベル放射性廃棄物」ってなに?どうやって処分するの?』より引用
原子力発電の使用済核燃料には再利用可能なウランやプルトニウムが含まれ、日本では核燃料サイクルを通じてこれらを回収・再活用しています。しかし、再利用できない高レベル放射性廃棄物も発生します。
この高レベル放射性廃棄物は融かしたガラスと共に固化され「ガラス固化体」とも呼ばれます。ガラスは水に溶けにくく化学的にも安定しているため、放射性物質を長期間閉じ込めるのに適しています。しかし放射能レベルが十分に下がるまでには、非常に長い時間を要するため、その解決策として地下深くの安定した岩盤に閉じ込め、人間の生活環境から隔離する「地層処分」が採用されています。
では、具体的にどこに埋設されるのでしょうか。 ガラス固化体を金属容器に封入し、粘土で覆った後、300m以上の深さの安定した岩盤に埋設します。岩盤と粘土が天然のバリアとなり、放射性物質の拡散を抑制します。フィンランドやスウェーデンでは既に施設建設が進行中であり、日本でも適切な最終処分場の選定調査が行われています。
左:革新軽水炉「HI-ABWR」、右:小型軽水炉「BWRX-300」
革新軽水炉「HI-ABWR」
小型軽水炉「BWRX-300」
より安全で多様な形へと進化を続ける原子力発電。安全性の向上に加え、高い経済性、廃棄物の低減といった環境への配慮など、次世代の革新炉は原子力の可能性をさらに広げています。
革新軽水炉
革新軽水炉は、従来の原子炉をもとに、安全性をさらに高めた原子炉です。地震などの自然災害、テロなどにも強く、万が一の事故の際にも放射性物質の放出を回避・抑制する機能を高めた設計になっています。日本では、2030年代後半の稼働を目標に、開発が進行中です。
静的炉心冷却システム(右上)と静的デブリ冷却システム(右下)
小型軽水炉
小型軽水炉は、従来よりも小さく安全性に優れた原子炉で、多くの部分を工場で製作し、現地で組み立てられるため、短期間で建設できると注目されています。また、小型で立地柔軟性にも優れ、データセンター等への電力供給源としての利用も検討されています。世界各国で導入計画が本格化しており、2030年手前での稼働を目標に開発が進行中です。
高速炉
高速炉は、冷却材にナトリウムを使って、ウランやプルトニウムを効率よく燃やす原子炉です。燃えにくいウラン238をプルトニウムに変えて燃料として利用できるため、限られた資源を有効に活用できます。また、廃棄物量・有害度を減らす効果も期待されています。日本では2040年代に実証炉の建設をめざして開発が行われています。
高温ガス炉
高温ガス炉は、冷却材にヘリウムガスを使って、950℃という高温の熱を取り出すことができる原子炉です。発電だけでなく、この高温熱を使って水素製造や化学プラントのエネルギー源にすることが検討されています。また、減速材に黒鉛を利用することで冷却機能を喪失しても自然に冷温停止が可能な設計も特長で、茨城県の研究施設で実験が重ねられています。
核融合炉
核融合炉は、太陽のように核融合反応からエネルギーを生み出す原子炉です。重水素や三重水素などの軽い原子同士を融合させ、その時に出る莫大な熱を利用して電気を作ります。他の原子炉と同様に二酸化炭素を排出せず、さらに高レベル放射性廃棄物を出さないため、地球環境により配慮した次世代エネルギーとされています。現在、その実用化に向けた国際プロジェクトとしてフランスで実験炉「ITER」が建設されており、日本も参加しています。
大強度陽子加速器施設J-PARC 加速器 MR
(シンクロトロン、30GeV)
加速器とは、粒子(電子、陽子、イオンなど)を高エネルギーに加速する装置で、物理学、材料科学、医学、エネルギー研究など幅広い分野で活用されています。
特に研究用途では、多様な種類の加速器が登場しています。例えば「高エネルギー加速器」は、粒子を光の速度近くまで加速し、衝突させることで素粒子や宇宙、物質の起源を探る研究がされています。 スイスのジュネーブ近郊にある欧州合同原子核研究機関(CERN)では、周長27kmに及ぶ世界最大の大型ハドロン衝突型加速器でヒッグス粒子が初めて観測されました。
「大強度ビーム加速器」は、標的に強力な陽子ビームを当て、発生したさまざまな二次粒子(中性子、ミュオン、ニュートリノなど)のビームを使って研究を行う装置です。日本の大強度陽子加速器施設(J-PARC)では、世界最大の高エネルギー陽子ビームがつくり出せ、基礎研究から産業応用まで幅広い研究を行っています。