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デジタル×バイオ融合により、細胞遺伝子治療薬の効果的な開発を支援する技術を開発

製薬企業やバイオテック、アカデミアとの協創を通じて技術の効果検証を進め、がんや難病の克服に貢献

  株式会社日立製作所(以下、日立)は、細胞遺伝子治療薬*1の開発に取り組む製薬企業やバイオテックなどを支援するため、デジタル技術とバイオ技術を融合した「デザイン細胞開発プラットフォーム」技術を開発しました。この技術は、生成AIを用いた遺伝子配列の自動生成とハイスループット細胞評価を連携させることで、従来の数十種類/年程度の細胞設計・評価から10万種類/年程度の設計・評価を可能にします。これにより、細胞遺伝子治療薬開発の探索研究に要する期間を短縮することが期待され、がんに対する安全で治療効果の高いCAR-T細胞*2の効率的な開発を支援します。
  今後日立は、製薬企業やアカデミアとの協創を進め、技術の効果を検証するとともに、がんやその他の難病の克服に向けて貢献していきます。

  なお、本成果の一部は、2025年5月13日から17日に米国ニューオーリンズで開催される米国遺伝子細胞治療学会(American Society of Gene and Cell Therapy, ASGCT)において発表予定です。

*1
遺伝子を細胞に導入し疾患を治療する医薬品。
*2
キメラ抗原受容体(CAR : Chimeric Antigen Receptor)遺伝子改変T細胞 : がん細胞を攻撃するよう遺伝子改変されたT細胞。T細胞は、免疫系において中心的な役割を果たし、体を守るためにウイルスやがん細胞と戦う。

背景および課題

  近年、再生医療や細胞遺伝子治療の市場は急成長しており、2030年には7.4兆円規模に達すると予測されていますが*3、高額な治療費や適応可能な疾患が少ないことが普及の妨げとなっています。特に、進行がんや固形がん、神経難病など有効な治療方法がない疾患に対する医療ニーズを満たすためには、細胞医薬品の効率的な開発が必要です。しかし、従来の研究開発手法では、網羅的な細胞の設計や評価に長期間を要し、薬効の最大化が期待できる遺伝子のごく限られた領域での改変しか一度に試行できないため、開発に時間がかかるという課題がありました。

*3
出典 : Arthur D. Little, 「再生医療・遺伝子治療の市場調査」(2020)

開発した技術の特長

  そこで日立は、製薬企業やバイオテックにおける細胞遺伝子治療薬の開発を支援するため、デジタル技術とバイオ技術を融合した「デザイン細胞開発プラットフォーム」技術を開発しました。この技術の特長は以下のとおりです。

1. 遺伝子配列生成AIによる効率的な治療薬設計・開発

  日立独自の遺伝子配列生成AIは、自然言語処理技術を応用して、膨大な遺伝子配列データから進化的保全性*4に基づき統計的なパターンを効率的に抽出し、新たなCAR遺伝子配列のデータベースを生成します。さらに、遺伝子配列と細胞機能の相関を示す実験データを学習させることで、1億通りの組み合わせの中から、がん細胞に対する活性を最大化するCAR遺伝子配列を探索することが可能です。

2. 大量のデータ取得を可能にするハイスループット細胞評価システム

  ハイスループット細胞評価システムは、単一細胞レベルでCAR-T細胞を評価可能なプールスクリーニング技術*5と、ロボット操作により細胞への遺伝子導入から細胞の機能解析までの一連の工程を自動化したアレイスクリーニング技術*6を組み合わせることで、業界最大規模*7の10万種類/年程度の細胞をさまざまな指標で評価可能なシステムです。一度に14,000種類のCAR-T細胞の細胞傷害活性評価*8が可能になり、CAR遺伝子配列に関連付けられた活性データの大規模取得を実現しました。これにより、CAR遺伝子配列の全領域の改変と多数の改変組み合わせ評価が可能となり、薬効の高いデザイン細胞の設計・開発を加速します。

3. 遺伝子配列生成AIと細胞評価データを用いた独自のDBTLサイクル

  上記、遺伝子配列生成AIを用いた遺伝子設計(Design)、ロボット操作により自動化されたハイスループットな細胞への遺伝子導入(Build)、プールスクリーニングとアレイスクリーニングを組み合わせた大規模かつ精密な細胞機能の解析(Test)、遺伝子配列と細胞機能の相関解析(Learn)を遺伝子設計へフィードバックする、日立独自のDBTLサイクルを構築しました。このサイクルを複数回実行することで、がん細胞に対する活性の高いCAR-T細胞を効率的に設計でき、動物試験においても従来型を上回る腫瘍縮小効果を確認しました。

[画像]図1 遺伝子配列生成AIとハイスループットスクリーニング技術で実現する日立独自のDBTLサイクル
図1 遺伝子配列生成AIとハイスループットスクリーニング技術で実現する日立独自のDBTLサイクル

*4
ある分子(ここではCAR)の遺伝子配列が生物間で共通しているため、その配列が分子の機能を維持するために他生物においても重要であるという考え方。
*5
多数の遺伝子改変細胞を一度に解析する手法で、各細胞の表現型解析と遺伝子解析を組み合わせ、表現型と改変遺伝子配列が紐づく形でデータが得られる。日立は光流体システムを利用し、CAR-T細胞のがん細胞に対する活性を1細胞レベルで検証する。
*6
複数の異なる条件でCAR-T細胞のがん細胞に対する効果を再現性よく検証する方法。ロボット操作により、CAR-T細胞作製から評価までを自動化した。
*7
2025年4月末時点、日立調べ。
*8
免疫細胞ががん細胞やウイルスに感染した異常な細胞を直接攻撃して殺す働き。

山口大学大学院医学系研究科・教授 / 同細胞デザイン医科学研究所 玉田耕治所長のコメント

  血液がんに対して高い治療効果を示すCAR-T細胞療法は、既に遺伝子細胞医薬品として承認されており、自己免疫疾患への適応拡大などをめざしてさらに多くの臨床試験が実施されています。また、がんの大部分を占める固形がんに対しても積極的な研究開発によって相当の進展が認められつつありますが、優れた効果や安全性のためには更なる技術開発が求められています。最適化したCAR-T細胞を設計するためには様々な制御要因の組み合わせを検証することが必要であり、日立が取り組むハイスループットな探索システムが今後重要な役割を担うことが期待されます。

今後の展望

  日立は、製薬企業やバイオテック、アカデミアとの協創により、本技術の効果検証を進めることで、細胞遺伝子治療薬の開発効率向上を支援し、がんやその他難病の克服に向けて貢献していきます。また、本成果の一部は、2025年5月13日から17日に米国ニューオーリンズで開催される米国遺伝子細胞治療学会(American Society of Gene and Cell Therapy, ASGCT)で発表予定です。

日立製作所について
  日立は、IT、OT(制御・運用技術)、プロダクトを活用した社会イノベーション事業(SIB)を通じて、環境・幸福・経済成長が調和するハーモナイズドソサエティの実現に貢献します。デジタルシステム&サービス、エナジー、モビリティ、コネクティブインダストリーズの4セクターに加え、新たな成長事業を創出する戦略SIBビジネスユニットの事業体制でグローバルに事業を展開し、Lumadaをコアとしてデータから価値を創出することで、お客さまと社会の課題を解決します。2024年度(2025年3月期)売上収益は9兆7,833億円、2025年3月末時点で連結子会社は618社、全世界で約28万人の従業員を擁しています。

お問い合わせ先
株式会社日立製作所
研究開発グループ

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