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Hitachi

小数など連続変数に対応したCMOSアニーリング技術「relaxed MA」を開発

大規模災害に対応した再保険ポートフォリオ設計、物流計画作成などの効率化・高精度化に貢献

  株式会社日立製作所(以下、日立)は、大規模で複雑な社会課題解決の鍵となる技術として、従来の2値の変数(1または0)に加え、連続変数(0から1の間の任意の小数)*1を用いた最適化計算が可能なCMOSアニーリング技術「relaxed MA」を開発しました。連続変数を活用することで、より大規模な組合せ最適化問題*2を、高精度に解くことが可能となります。
  今回、大規模災害を想定した複合的な災害要因に対応する再保険ポートフォリオの最適化業務*3に本技術を適用して効果を検証しました。その結果、従来比約10倍の数の保険契約に対して、期待される収益金額を1円刻みの細かな精度でポートフォリオ計算ができることを確認しました。
  今後、日立は再保険ポートフォリオ設計業務に加え、需給バランスを考慮した電力網の運用効率化、Eコマースにおける販売促進施策の最適化、物流計画作成業務の効率向上などに本技術を活用することで、お客さまや社会のさまざまな課題の解決に貢献します。
  なお、本成果の一部は、2024年6月10日から14日に英国グラスゴーで開催される「Adiabatic Quantum Computing (AQC) 2024」で発表予定です。

[画像]図1. 再保険ポートフォリオ最適化における効果(契約の保有割合を有効数字3桁の小数で表現する場合)
図1. 再保険ポートフォリオ最適化における効果(契約の保有割合を有効数字3桁の小数で表現する場合)

*1
連続変数 : 0と1のみで表現する2値の変数とは異なり、0と1の間で32ビットまたは64ビット浮動小数点で表現可能な変数
*2
組合せ最適化問題 : さまざまな制約の下で多くの選択肢の中から、ある指標(価値)を最も良くする変数の値(組合せ)を求める問題
*3
再保険ポートフォリオの最適化業務 : 保険会社が保有する複数のリスクを再保険契約によって分散させ、バランスの取れたリスクポートフォリオを構築する業務

これまでの日立の取り組み

  近年、量子コンピュータなどの新しいコンピューティング技術を用いて、複雑かつ大規模な組合せ最適化問題を解き、お客さまのさまざまな課題を解決することが期待されています。
  日立は2015年に、最適化問題に特化することで高速な計算を可能とするCMOSアニーリングと呼ばれるコンピューティング技術を開発しました*4。さらに、2019年にはGPU*5を用いた並列計算により、10万変数の全結合問題を高速に計算可能なアルゴリズム「モメンタム・アニーリング(MA)*6」を開発し、2022年より「CMOSアニーリング クラウドサービス」としてお客さまに提供してきました。

*4
約1兆の500乗通りの膨大なパターンから瞬時に実用に適した解を導く室温動作可能な新型半導体コンピュータを試作(2015年2月23日)
*5
GPU(Graphics Processing Unit) : リアルタイム画像処理に特化した演算装置あるいはプロセッサ。CPUよりも高速かつ高いエネルギー効率で技術計算を実行。
*6
お客さまの課題に応じた高速な組合せ最適化ソリューションの提供をめざし、CMOSアニーリング向けの最適化アルゴリズムを拡充(2019年8月30日)

開発の背景と課題

  2019年に開発したモメンタム・アニーリング(MA)では、組合せ最適化問題を解くための変数として、例えば、最適化したい対象を「選択する(1、すなわち100%)」か「選択しない(0、すなわち0%)」を表すために2値(1または0)変数が用いられてきました。しかし、この方法では、1または0だけでは表現できない小数(割合)を最適化する場合に複数の2値変数を組み合わせた計算が必要となるため、お客さまが必要な小数の桁数(精度)に応じて、使用する2値変数の数が増大する課題がありました。例えば金融商品のポートフォリオ最適化において、さまざまな契約の保有割合を有効数字3桁の小数で表現するためには、契約数の約10倍の2値変数が必要となります。このため、計算の有効桁数を増やすと契約数が限られてしまい、契約数を増やすと計算の有効桁数が限られてしまうため、大規模なポートフォリオを高精度に最適化することは困難でした。

開発技術「relaxed MA」の特徴

  日立は小数など連続変数にも対応可能なCMOSアニーリングのアルゴリズムを開発し、さらに、GPUを用いた並列計算により高速に最適化計算を行う「relaxed MA」と呼ばれる技術を開発しました。これにより、金融商品のポートフォリオ最適化において、一つの契約の保有割合を一つの連続変数で表現できるようになります。これにより、大規模災害における複合した災害要因に対応するために数多くの保険契約を対象とする再保険ポートフォリオの最適化問題を、高速かつ高精度で解くことが可能になりました。
  今回、お客さまとの連携により、本技術の効果を検証したところ、従来比約10倍の数の保険契約に対して、期待される収益金額を1円刻みの細かな精度でポートフォリオ計算ができることを確認しました。

今後の取り組み

  日立は、「relaxed MA」を適用したCMOSアニーリングをクラウドサービスに組込み、お客さまに提供開始しています。今後はCMOSアニーリングクラウドサービスをさまざまな領域でお客さまに活用いただき、複雑な制約条件下での勤務シフト作成や、物流計画作成業務の効率化、高精度化をはじめとする、お客さまや社会のさまざまな課題の解決に貢献します。

CMOSアニーリングクラウドサービスについて

日立製作所について

  日立は、データとテクノロジーでサステナブルな社会を実現する社会イノベーション事業を推進しています。お客さまのDXを支援する「デジタルシステム&サービス」、エネルギーや鉄道で脱炭素社会の実現に貢献する「グリーンエナジー&モビリティ」、幅広い産業でプロダクトをデジタルでつなぎソリューションを提供する「コネクティブインダストリーズ」という3セクターの事業体制のもと、ITやOT(制御・運用技術)、プロダクトを活用するLumadaソリューションを通じてお客さまや社会の課題を解決します。デジタル、グリーン、イノベーションを原動力に、お客さまとの協創で成長をめざします。3セクターの2023年度(2024年3月期)売上収益は8兆5,643億円、2024年3月末時点で連結子会社は573社、全世界で約27万人の従業員を擁しています。

お問い合わせ先

株式会社日立製作所 研究開発グループ

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