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Hitachi

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2013年9月18日

カーボンナノチューブを探針に用いた近接場光学顕微鏡を開発

波長850ナノメートルのレーザー光を用いて幅5ナノメートルの金のパターンを画像化

  株式会社日立製作所(執行役社長:中西 宏明/以下、日立)は、このたび、カーボンナノチューブ*1(以下、CNT:Carbon Nanotube)を探針(プローブ)に用いた近接場光学顕微鏡(以下、NSOM:Near-field Scanning Optical Microscope)を開発し、波長850ナノメートルのレーザー光を用いて、幅5ナノメートル(1ナノメートルは100万分の1ミリメートル)の金のパターンの画像化に成功しました。開発したNSOMは、4ナノメールに尖らせたCNTの先端に近接場光*2 と呼ばれる物体表面近くだけに存在できる特殊な光を生成し、これを走査することによって物質表面から反射する光を分析・画像化する技術です。光による計測は大気中あるいは液中で、物質にダメージを与えることなく組成や分子構造を測定できることから、今後、生体細胞や先端高機能材料のナノメートル単位の分析に道を拓く技術として期待されます。

  細い針を移動させて物質表面の状態を調べる走査プローブ顕微鏡(SPM:Scanning Probe Microscope)は、1986年にGerd BinnigとHeinrich Rohrerがノーベル物理学賞を受賞した走査型トンネル顕微鏡(STM:Scanning Tunneling Microscope)や原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)などが、すでに産業分野に応用されています。これらのSPMは、原理的に物質表面の凹凸は測定できますが、物質の組成やどのような分子構造であるかなどの分析はできません。これに対して、プローブの先端から細い光を出し物質表面から反射する光の情報を分析するNSOMは、微小部分の組成や分子構造を知ることができます。また、大気中や液中で測定を行えるため、生きている細胞などの計測に適しています。
  一方、NSOMの最大の課題は、微小な光スポットを作り出すことです。例えば、人間の目に見える光の波長は約500ナノメートルですので、数ナノメートルの対象物を観察するためには、これを数百分の一に絞らなければなりません。今回、日立は、プローブにCNTを用いることで、数ナノメートルの大きさの金のパターンの画像化に成功しました。技術の詳細は以下の通りです。

(1) 微小な近接場光スポットの生成と測定再現性の向上
  プローブには、磨耗しにくく、かつ先端を4ナノメートルに尖らせた外径約20ナノメートルの円筒状多層CNTを用い、金の薄い膜をコートしたシリコン製の三角錐チップの先端に固定します。さらに三角錐チップを、カンチレバーと呼ばれるシリコン製の片持ち梁(一方を固定し、他方を固定しない薄い板)の先端(自由端)に固定します。カンチレバーの背面からレーザー光を照射すると三角錐チップの金薄膜中にプラズモンと呼ばれる自由電子(束縛を受けず、電気伝導や熱伝導を担う電子)の集団的な振動が発生し、このプラズモンによって、三角錐チップの先端に直径数百ナノメートルの近接場光が生じます。この第一の近接場光の電界がCNTプローブ先端に集中することにより、プローブ先端に先端径と同程度の4ナノメートルの第二の近接場光スポットが生じます。先端を尖らせた磨耗の少ないCNTを用いることで、極微細パターンの画像化と測定の再現性向上(同じ画像が繰り返し得られる)を実現するとともに、直径数百ナノメートルという小さな近接場光で測定用の近接場光スポットを生成するので、余分な光による画質の劣化を軽減できます。
(2)近接場光の画像化と分解能の評価
  CNT プローブの先端に生じた近接場光スポットを測定用光スポットとして非接触で物質表面上を走査しながら、各走査点でプローブ先端と試料との間で散乱する光を検出することにより、近接場光画像を作ります。今回、波長850ナノメートルのレーザー光を用いて、幅5〜30ナノメートルの金のパターンを厚さ50ナノメートルのSiO2層(二酸化ケイ素)で挟みこんだ表面が平らな試料を観察したところ、幅5ナノメートルの金パターンを材質の違いとしてSiO2から明瞭に分離して画像化でき、その分解能は3ナノメートル以下となることを実証しました。

  今後、開発したNSOMを、生体細胞の蛋白質などの構造、機能、化学結合状態(分子や原子の結合状態)の解析に活用することにより、再生医療を始めとするヘルスケア分野の研究・開発に寄与していくとともに、社会イノベーション事業を支える次世代ナノ材料の物性・構造解析など基礎研究分野にも応用していく予定です。

  なお、本技術は、2013年9月16日から20日まで同志社大学で開催される「2013年応用物理学会秋季学術講演会」にて発表する予定です。

  本開発の一部は、(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託業務「低損失オプティカル新機能部材技術開発」の結果得られたものです。

*1
カーボンナノチューブ(CNT:Carbon Nanotube): 炭素原子で作られたグラフェンシートを丸めた、直径0.4〜50nmの単層あるいは多層の円筒状構造の物質。単層CNTはグラフェンシートの幾何学的構造によってバンド構造が変化し電気伝導率やバンドギャップが変わるため、シリコン以降の半導体材料として期待されている。また、多層CNTは耐摩耗性、剛性に優れ、原子間力顕微鏡の探針に用いられている。その他、燃料電池材料、平面蛍光管、冷陰極管のカソード材料、高輝度・低電圧ディスプレイ材料、透明導電フィルムへの応用研究が盛ん。
*2
近接場光: 物体の表面近くだけに存在でき、通常の光とは異なる性質をもつ特殊な光。金属針の先端や細く加工した光ファイバーなど、波長より小さなナノメートルサイズの微小構造に光を導いて発生させる。目に見える光のように物体から離れて遠くに伝わることはできない。光学顕微鏡の分解能や光ディスクの記録密度を飛躍的に高める有力手段として研究されており、半導体などの微細加工にも応用が見込まれる。

[画像左]厚さ50nmのSiO2層で挟まれた幅5〜30nmの金パターンの光学像、[画像右]光学像の白線部分の輝度分布

お問い合わせ先

株式会社日立製作所 研究開発本部 技術統括センタ [担当:吉田、北潟]
〒244-0817 神奈川県横浜市戸塚区吉田町292番地
電話050-3135-3409 (直通)

以上

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