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2011年3月2日
薄くて折り曲げられるフレキシブルデバイスの実現に道を拓く
株式会社日立製作所(執行役社長:中西 宏明/以下、日立)は、薄くて折り曲げられるフレキシブルデバイスに適した、酸化物半導体*2薄膜トランジスタ(以下、TFT)を用いてRFID*3チップを試作し、現在RFIDやICカードシステムで利用されている周波数13.56MHz*4帯で、その無線動作の確認に成功しました。日立は、今回の技術をベースにフレキシブルデバイスの実用化に向け、その開発を加速していきます。
プラスチックフィルムなどの上にRFIDやセンサ、ディスプレイなどの電子回路を作製したフレキシブルデバイスは、薄型で、物体の曲面部分や変形する部分にも柔軟に貼り付けることができる次世代のデバイス技術として、世界的に研究開発が進められています。特に、RFIDタグのような無線デバイスは、応用範囲が広く実用化が期待されています。
そこで日立は、フレキシブルなRFIDなどの無線デバイスを実現するため、低温下での製造が可能で、スイッチング性能にも優れた酸化物半導体TFTに着目しました。まず2008年に、酸化物半導体TFTをプラスチックフィルム上に形成し、TFTが低電圧で動作することを確認しました(完全空乏型酸化物半導体TFT技術*5)。2010年には、ガラス基板上に酸化物半導体TFT無線整流回路を試作し、周波数13.56 MHzの電波をアンテナで受信して、直流電圧に変換する技術(整流回路技術*6)を開発し、実用化に向けた開発を進めてきました。
フレキシブルな無線デバイスを実現するためには、これらの技術に加え、酸化物半導体TFTで構成される論理回路を形成することが必要です。従来の無線デバイスでは、省電力で動作速度に優れたCMOS回路技術が一般的に使われていますが、酸化物材料においては、P型トランジスタの作製が困難なため、N型とP型のトランジスタを併用するCMOS回路技術を適用できません。一方、千から数万個規模のN型トランジスタのみで論理回路を作製した場合、消費電力が大きくなるため、無線での電源供給で動作することが困難でした。
日立は、このような背景から、N型トランジスタだけで構成しながらも、省電力を実現する酸化物半導体TFT論理回路技術により、ガラス基板上にRFIDチップを試作しました。本チップにアンテナを接続し、周波数13.56MHz帯で動作検証を行なったところ、40mW(ミリワット)の低出力において通信距離7cmで動作を確認することができました。今回開発した技術の詳細は、以下の通りです。
トランジスタがオン状態になる電圧(しきい値電圧*7)を0Vに近い値とし、低電源電圧下での動作を可能にしました。また、N型トランジスタだけで構成した論理演算素子に含まれる、負荷用トランジスタのゲート電圧を、論理演算素子に入力される電圧に応じて自動的に変動させることで、消費電力を低減しました。試作した回路では、一つの論理演算素子にあたり、動作電圧5V時に既存の100分の1以下の1nA(ナノアンペア)の電流で動作する回路を実現しました。
RFID側が、リーダ側から電波による電力供給を受けた時点で、これを動作開始の命令とみなし、データを送信するという無線通信プロトコルを開発、実装しました。従来のRFIDと比べ、RFID側で命令を処理する必要が無くなったことで、プロトコルの実装規模が低減し、低消費電力化が可能となりました。また、RFID側からデータを送信する際に、RFID論理回路の動作クロック*8に関わる情報を付与して送信することによって、リーダ側でデータを読み込む際に、動作クロックの変動により生じる、読み取りの誤りを抑制しています。
本成果は、2011年2月25日に電子情報通信学会より刊行される「IEICE Electronics Express (ELEX)」上において発表されました。
株式会社日立製作所 中央研究所 企画室 [担当:木下]
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TEL : 042-327-7777(直通)
以上