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2010年9月21日
シリコンレーザの実現に新たな道を拓く
株式会社日立製作所(執行役社長 : 中西 宏明/以下、日立) は、この度、シリコンレーザの実現に向けて、シリコン基板上に1,000個以上の極薄シリコン膜(量子井戸*1)を垂直に並べたフィン型構造のシリコン発光ダイオードを考案し、レーザ発振を可能にする条件の一つである光増幅現象*2を観測しました。
日立は、これまで、2006年に半導体の上に一つの極薄シリコン膜をのせた単一量子井戸構造を持つ極薄シリコン素子でシリコン発光現象を、2008年には光増幅現象をそれぞれ観測しています。今回のフィン型構造による光増幅現象の観測は、シリコン発光量を実用レベルまで高めるために必須となる多重量子井戸構造を応用した、初めての成果であり、開発したフィン型シリコン発光ダイオードは量産にも適しています。今後、さらに大きな光増幅を実現できればシリコンレーザ実現への道が拓けます。
なお、本研究の一部は、日本学術振興会の最先端研究開発支援プログラム(東京大学 : 荒川 泰彦教授)により助成を受けたものであり、フォトニクス・エレクトロニクス融合システム基盤技術開発研究機構 (PECST)にて実施したものです。
半導体材料に広く用いられているシリコンを使用したシリコンレーザが実現できれば、半導体のチップ内やチップ間のデータ転送を電気信号による伝送から、高速・低損失な光伝送に置き換えられるため、サーバをはじめとするIT機器の飛躍的な高性能化、省電力化が可能になると期待されています。しかし、シリコンは、材料の特性上発光させることが難しく、発光させるためには、量子効果*3が現れるほど微細なナノ構造をつくる必要がありました。
日立では、2006年以降、厚さ数ナノメータからなる極薄のシリコン薄膜に電流を注入して自発光させるシリコン発光ダイオードの研究に取り組んでいます。2008年には単一量子井戸構造を光共振器の中に取り入れ、極薄シリコン発光素子で初めて光増幅現象の観測に成功しています。2009年には、量子力学シミュレーションによって、2008年の観測結果の検証を理論面から行いました。
シリコン発光で観測された光増幅をさらに高め、可干渉性のある光を放出できれば、シリコンレーザの発振が起きます。しかし、従来の単一量子井戸構造を持つ素子構造では十分な光増幅が得られないことから、単一量子井戸構造を近接して重ね合わせた多重量子井戸構造を光共振器の中に形成して、発光効率を高める必要がありました。
このような背景から、日立は、多重量子井戸構造を形成するために、極薄シリコン膜をシリコン基板に垂直に1,000個以上並べたフィン型のシリコン発光ダイオードを試作しました。試作したフィン型シリコン発光ダイオードは、リソグラフィー*4とドライエッチング*5を用いて、ひとつの素子内にフィンを1,000個以上一括形成したフィン型構造です。エッチング直後のフィン幅は20ナノメートル(1ナノメートル : 100万分の1ミリメートル)ですが、これを酸化することによって、最終的に約1ナノメートルにまで薄膜化しています。また、形成したシリコン・フィン上にシリコン窒化膜からなる光導波路を形成し、シリコン・フィン型発光ダイオードから発光した光を導波路に閉じ込めることによって、発光効率を高めています。
今回試作したフィン型シリコンダイオードにより、その動作検証を行ったところ、電流注入によって発光した光が導波路を伝搬し、導波路端部から放射されることを確認しました。さらに、発光スペクトルの詳細な解析の結果、光の増幅が行なわれていることも確認しました。
また、試作したフィン型シリコン発光ダイオードは、日立が独自に開発した次世代トランジスタの候補の1つであるフィン型電界効果トランジスタ(FinFET)との整合性が高く、同一基板上に容易に集積化することが可能で量産性に適しています。シリコン基板上に、フィン型シリコン発光ダイオードとFETを集積化した光電子融合チップが実現できれば、サーバをはじめとするIT機器の小型化、高性能化、省電力化への貢献が期待できます。
今後も日立は、情報・通信事業を支える基盤技術として、シリコンレーザの実現に向け研究開発を推進していきます。
本成果は、2010年9月22日から、東京大学本郷キャンパスにて開催される国際固体素子・材料カンファレンス(SSDM : International Conference on Solid State Devices and Materials)で9月23日に発表します。
株式会社日立製作所 中央研究所 企画室 [担当 : 木下、工藤]
〒185-8601 東京都国分寺市東恋ヶ窪一丁目280番地
電話 042-327-7777 (直通)
以上