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2010年9月21日
磁石材料の開発やHDDなどの磁気デバイスの性能向上に寄与
株式会社日立製作所(執行役社長:中西 宏明/以下、日立)は、このたび、スピン偏極走査電子顕微鏡(以下、スピンSEM:Spin-Polarized Scanning Electron Microscopy)を用いて高温下でかつ磁場を加えながら磁区を観察する技術を開発し、500℃までの高温でコバルト単結晶の磁区構造が変化する様子を可視化することに成功しました。開発技術は、加熱機構を単独で使用した場合では500℃まで、最大1キロOe(エルステッド)の磁場を加えられる磁場印加機構と併用した場合は250℃の温度範囲で磁区を測定することができます。これにより、スピンSEMが持つ“高分解能な磁区観察”という特長を活かした、温度や外部からの磁場が磁性体に及ぼす影響の観察ができるようになりました。本技術は今後、新たな磁石材料の開発や、ハードディスクなどの磁気デバイスの性能向上に寄与することが期待されます。
スピンSEMは、細く絞った電子線を試料にあて、試料から放出される2次電子の中のスピン(磁石の性質を示す最小単位)を計測して、スピンが同じ方向を向いた領域(磁区)を観察する走査型の電子顕微鏡です。他の磁区観察装置に比べ分解能が高く(当社装置で10ナノメートル)、さらに磁化の向き(磁化ベクトル)を知ることができるので、1984年に当社中央研究所が初めて開発して以来、磁性応用デバイスのミクロな現象を観察する手段として複数の研究機関で装置の開発および活用が行われてきました。一方、磁区観察の領域においては、近年、高温下で永久磁石の磁力が弱くなっていく様子や、ハードディスクの記録ビット形状が変化していく様子など、加熱や磁場の印加に伴う磁区変化を観察することにより、磁性材料の特性を調べることが望まれています。しかし、スピンSEMは、エネルギーの低い2次電子を効率良く捕獲するために観察試料の近傍に複雑な計測構造があり、わずかな漏洩磁場や加熱による真空度の低下に影響を受けやすいことから、試料加熱や磁場印加機構を搭載することが難しく、高温磁場中での磁区観察の障壁となっていました。
このような背景から、今回日立は、スピンSEM向けに高温磁場中観察技術を開発し、高温下での磁性材料の磁区構造の変化の顕微鏡観察に成功しました。開発技術と観察成果は以下の通りです。
複雑な計測構造を持つスピンSEMで高温での観察ができるように、小型のセラミックヒーターと耐熱材料で構成した2次電子収集電極を開発し、加熱による装置への影響を抑制しました。また、加熱は銅板による熱伝導方式、磁場印加は永久磁石を用いる方式とすることで加熱と磁場印加の併用を可能にしました。さらに、試料に磁場を印加した際に2次電子の軌道やスピンに影響を与えないように、3次元電子軌道・スピン方向シミュレーションプログラムを用いて磁場印加機構を設計しました。
コバルト単結晶を室温から500℃まで温度を上げて観察した結果、200℃から300℃の間で、大きく磁区の変化が現れて、磁区のサイズも大きくなること、また、400℃から500℃に加熱する間で、大きな磁区の中にサブミクロンレベル(千分の1ミリメートル以下)の小さな磁区ができている様子が撮影されました。これらの磁区変化は、それぞれの温度でコバルトに起こる性質の変化と対応しており、現象としては知られていましたが、サブミクロンレベルの分解能で高温下での磁区構造の変化を観察したのは初めてです。
さらに、今回開発した技術を用いて、強力な永久磁石材料として知られるNdFeB(ネオジム、鉄、ホウ素)磁石を観察し、熱減磁過程における磁区変化を磁化消失温度まで加熱しながら観察することに成功しました。また、実験の結果、最大1キロOe(エルステッド)の磁場印加機構と併用した場合は250℃まで、磁区観察ができることを確認しました。
このように、本技術によって、スピンSEMが持つ“高分解能な磁区観察”という特長を活かした、磁性体に及ぼす温度や外部磁場の影響の観察が可能になりました。
今後、スピンSEMを用いた高温・印加磁場下での磁区観察は、新たな磁石材料の開発や、ハードディスクなどの磁気デバイスの性能向上に寄与することが期待されます。
なお、本成果は、9月19日から24日までブラジル・リオデジャネイロで開催される「第17回国際顕微鏡学会(IMC17)」において報告されます。
株式会社日立製作所 中央研究所 企画室 [担当:木下、工藤]
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以上