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2010年4月5日
株式会社日立製作所(執行役社長:中西 宏明/以下、日立)は、このたび、マンガン系正極材料を用いた産業用リチウムイオン電池の寿命を、従来の当社開発品と比較して約2倍にできる新たな正極材料を開発しました。開発した正極材料は、資源が豊富なマンガン系の材料で、正極材料に含まれるマンガン元素の一部を他元素と置換することで結晶構造を安定化させると同時に、耐酸性に優れた複合酸化物*1を混合することによって電解液*2へのマンガン溶出を低減したものです。今回開発した正極材料を用いて電池セルを試作し評価*3を実施した結果、電池容量の低下を従来の2分の1に抑制でき、マンガン系正極材料を用いたリチウムイオン電池の寿命の約2倍である約10年以上の寿命を実現できる見通しを得ました。
今回開発した正極材料を用いたリチウムイオン電池は、風力発電などの新エネルギー分野での電力貯蔵用や、温暖化ガスを低減する電動式の建設機械等の産業用の電源としての応用が期待されます。
本成果は、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から日立が委託を受け推進中の「系統連系円滑化蓄電システム 要素技術開発」の一環として得られたものです。電池セルの試作については新神戸電機株式会社(以下、新神戸電機)と共同で実施しました。
リチウムイオン電池は、携帯電話・モバイルPCなどの民生用途で実用化され、ハイブリッド自動車などの移動体用途などへの適用も進められています。また、将来的には、環境負荷を低減する風力発電などに併設する小型蓄電デバイスとしての応用が期待されています。一方で、現在、もっとも市場が大きい民生用途のリチウムイオン電池正極材料には、コバルトを主原料とする材料が用いられていますが、リチウムイオン電池の普及拡大に伴い希少資源であるコバルトの安定確保が懸念されています。そこで、日立はコバルト以外の金属を主原料とする正極材料の候補として、資源量が豊富であるマンガンに着目し、スピネル構造*4を有するリチウムマンガンスピネル*5系材料などの研究開発を進めてきました。この材料は、動作電圧が高く蓄電用途に向いた材料ですが、充放電サイクルに伴う容量低下などの課題があることから、寿命特性の改善が課題でした。
今回、日立は、リチウムマンガンスピネルに含まれるマンガン元素の一部を他の元素と置換することにより、電池の充放電におけるスピネルの結晶の体積変化を小さくすることで容量の低下を抑制することに成功しました。さらに、耐酸性に優れた層状系複合酸化物を混合することにより電解液へのマンガンの溶出を低減しました。そのため、従来の課題であった電池容量の低下防止への対応が可能となり、電池寿命の向上を実現したものです。今回、開発した技術の特長は次の通りです。
従来のリチウムマンガンスピネル系の正極材料は、電池の充電の際にリチウムイオンが正極から放出されるためスピネルマンガン結晶の体積が収縮します。一方、電池の放電の際は結晶の体積が膨張する変化が発生します。このような充放電サイクルに伴う体積変化の影響で結晶構造が劣化することが、容量低下の一因となっていました。そこで、結晶に含まれるマンガン元素の一部を他元素と置換することにより、結晶構造を安定化させ、充放電容量の低下を抜本的に改善しました。
従来のリチウムマンガンスピネル系正極材料を用いると、電解液中の水分によって発生する酸の作用により、マンガンが溶出してしまうことが、容量低下の要因となります。そこで、マンガン元素の一部を他元素と置き換えたリチウムマンガンスピネル系材料に、さらに日立が開発した耐酸性に優れた層状系複合酸化物を混合させることにより、マンガンの溶出を低減し、容量の低下を抑制しました。
今回開発したリチウムイオン電池正極材料は、資源量が豊富なマンガンを主原料として利用しているため、低コストで安定的に供給することが可能です。今後、日立は正極材料や電解液組成の更なる改善などを通じて電池性能の向上を図り、蓄電池応用製品事業を積極的に拡大することで、環境負荷低減に貢献していきます。
株式会社日立製作所 日立研究所 企画室 [担当:鈴木]
〒319-1292 茨城県日立市大みか町七丁目1番1号
TEL : 0294-52-7508 (直通)
以上