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2009年9月15日
耐熱性を備えたプリント回路基板など実用部材への道を拓き
資源循環型社会の実現に貢献
株式会社日立製作所(執行役会長兼執行役社長:川村 隆/以下、日立)は、このたび、再生可能な資源である木質バイオマスに含まれているリグニン*1を主原料とした、有機溶剤に溶けるエポキシ樹脂を開発しました。石油を主原料とするエポキシ樹脂は、耐熱性や電気絶縁性などに優れた化合物で、電子部品などさまざまな用途で利用されています。一方、バイオマスを用いたこれまでのエポキシ樹脂は、有機溶剤に溶けず、多様な形に成形できないこと、また耐熱性と絶縁性を満足できないことから、高い耐熱性が求められるさまざまな実用部材への応用は困難でした。
今回開発したエポキシ樹脂は、有機溶剤に溶けることから多様な形に樹脂を成形することができます。さらに、有機溶剤に溶けたエポキシ樹脂を硬化させる際に、リグニンを硬化剤としても使用することで、耐熱性を示すガラス転移温度*2が、200℃以上という高耐熱のエポキシ樹脂硬化物が作製できます。これにより、回路基板、半導体用封止材、発電機、受変電設備など、高い耐熱性が求められるざまざまな部材の電気絶縁用途に用いることが可能です。本成果は、再生可能な木質バイオマスのリグニンを主原料とするエポキシ樹脂の実用化に道を拓くもので、また、資源循環型社会の実現にも貢献するものです。
木材を原材料とする未利用の木質バイオマスは、2007年で約500万トン*3に達し、それらに含まれる炭素源を用いた樹脂(プラスチック)が、石油を原料とする樹脂(プラスチック)に替わる、資源循環型社会の実現に向けた素材として注目されています。すでに、ポリ乳酸などのバイオマスを
利用したプラスチックが一部開発されていますが、回路基板、半導体用封止材、発電機、受変電設備などの高い耐熱性と絶縁性が求められる部材に使用されるエポキシ樹脂の実用化には至っていません。これは、従来のバイオマスを利用したエポキシ樹脂は、有機溶剤に溶けず、所定の形状に成型することが困難であったこと、また耐熱性と絶縁性を満足できないことによります。
このような背景から、今回、木質バイオマスに含まれているリグニンに着目し、リグニンを主原料とする有機溶剤に溶けるエポキシ樹脂を開発しました。今回開発したエポキシ樹脂を用いてプリント回路基板を試作したところ、耐熱性や絶縁性などの特性が、石油を原料とするエポキシ樹脂を用いたプリント回路基板と同等であることを確認しました。なお、今回の開発は、国立大学法人徳島大学(学長:青野 敏博)、国立大学法人横浜国立大学(学長:鈴木 邦雄)と共同で行ったもの
です。今回開発した技術の特長は、以下の通りです。
エポキシ樹脂の作製においてリグニンを主原料とした場合、石油を主原料とした場合と比べ、その作製過程で分子量が著しく上昇するため、有機溶剤に溶かすことができませんでした。今回、水蒸気爆砕法 *4で得た低分子量のリグニンを用いて合成の際の触媒を調整し、エポキシ樹脂の分子量を低分子量に制御することにより、リグニンを主原料とする有機溶剤に溶けるエポキシ樹脂の開発に成功しました。
リグニンを主原料とするエポキシ樹脂に、さらにリグニンを硬化剤として用いることで、高耐熱のエポキシ樹脂硬化物を作製する技術を開発しました。このエポキシ樹脂硬化物のガラス転移温度は、200℃以上であることを確認しました。
リグニンは、木材に約20%含まれており、石油の代替が期待できる材料です。本技術によって、間伐材など従来は未利用であった木材が、木質バイオマスとして利用されることが期待されます。日立は、本技術を、地球環境への負荷を低減する新しい技術の一つとして位置付けており、今後も、配線基板、産業機器などの分野での実用化に向けた研究開発を推進していきます。
なお、本開発の詳細は、9月16日から18日まで国立大学法人熊本大学(熊本県熊本市)で開催される社団法人高分子学会第58回高分子討論会にて発表します。
株式会社日立製作所 日立研究所 企画室 [担当:鈴木]
〒319-1292 茨城県日立市大みか町七丁目1番1号
TEL : 0294-52-7508 (直通)
以上