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2009年7月24日
株式会社日立製作所
国立大学法人東北大学
2層の強磁性体からなる磁性多層膜の磁化反転電流の予測に成功
株式会社日立製作所(執行役会長兼執行役社長:川村 隆/以下、日立)と国立大学法人東北大学(総長:井上 明久/以下、東北大)金属材料研究所(所長:中嶋 一雄)は、このたび共同で、固体中の電子が持つ磁気的な性質である「スピン」を制御する、スピントロニクスデバイスのシミュレーション技術を開発しました。開発した技術は、量子力学的な手法により、電子における「スピン」の流れ(スピン流)と、電子単位のスピントルク*1を計算し、この結果を磁化の動的シミュレーションに組み入れることによって、磁化を反転させる電流を予測する技術です。本技術を、これまで電子の複雑な挙動のために解析することができなかった2層の強磁性体*2からなる磁性多層膜に用いたところ、磁化が反転する電流をシミュレーションによって予測できることが分かりました。本技術は、磁性多層膜を利用したスピントロニクスデバイスの現象解明や設計に道を拓くものです。
なお、本研究は、独立行政法人科学技術振興機構(JST)の戦略的創造推進事業(CREST)「数値シミュレーションによる新材料・新機能の開発」プロジェクト(プロジェクトリーダー:東北大金属材料研究所 前川 禎通教授)の一環として実施したものです。
固体中の電子には、電気的性質を示す「電荷」と磁気的な性質を示す「スピン」の二つの性質があります。20世紀の産業を支えたエレクトロニクスは、「電荷」の性質を工学に応用したものですが、近年、「電荷」に加え「スピン」の性質も同時に利用するスピントロニクスが注目されています。ハードディスクドライブのヘッドなどで使用されている巨大磁気抵抗効果(GMR:Giant Magneto Resistive effect、1988年に発見)はその成果の一つであり、2007年に、GMRの発見者であるAlbert FertとPeter Grünbergがノーベル物理学賞を受賞しています。
スピントロニクスを用いたデバイスは、不揮発で消費電力が低いという性質を持つ、21世紀のストレージデバイスとして期待されていますが、その基盤となるのが、電流により磁性体中の磁化を反転させる回転力であるスピントルクです。デバイスに強磁性体と非磁性体*3を組み合わせた磁性多層膜を用いると、このスピントルク、すなわち磁化の反転を制御することができるため、これをオン・オフ信号に利用したスピントロニクスデバイスの研究が活発化しています。この磁性多層膜の構造を設計するためには、スピントルクを計算し磁化が反転する電流をシミュレーションし予測する必要がありますが、強磁性体が2層以上の場合、電子の複雑な挙動のために予測することができませんでした。
このような背景から、今回、日立と東北大は、磁性多層膜のシミュレーション技術を開発しました。開発した技術の内容は以下の通りです。
電子の波としての性質を記述する量子力学的な手法を用いて、磁性多層膜に電流を流した状態での微視的な電子のレベルにおける「スピン」の流れ(スピン流)と、スピントルク(電流によって磁化を反転させる回転力)の計算技術を開発しました。
上記の計算によって求めた電子単位のスピントルクを、磁化の動的シミュレーションに組み入れることによって、微視的な電子のレベルから巨視的な磁化のレベルに拡張するシミュレーション技術を開発し、磁化が反転する電流を予測することが可能になりました。
本技術を用いて、強磁性体/非磁性体/強磁性体の磁性多層膜かつ、2つの強磁性膜の磁化が互いに逆向きをなす「積層フェリ構造膜」についてシミュレーションを行った結果、実験で得られた磁化を反転させる電流と定量的に一致することがわかりました。さらに、「積層フェリ構造膜」は、駆動電流を低減させる 効果があることがシミュレーションによって再現され、低消費電力のスピントロニクスデバイスとして有効な構造であることを示しました。
なお、本成果は、7月26日からドイツのバーデン=ヴュルテンベルク州の都市カールスルーエで開催される磁性に関する国際会議「International Conference on Magnetism(ICM2009)」で発表する予定です。
株式会社日立製作所 中央研究所 [担当:木下、工藤]
〒185-8601 東京都国分寺市東恋ヶ窪1丁目280番地
TEL : 042-327-7777 (直通)
東北大学金属材料研究所 金属物性論研究部門
[担当:前川禎通、高橋三郎]
TEL : 022-215-2005、022-215-2008
以上