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2009年4月21日
鉄道車両インバーターの電力変換損失を約3割低減可能に
株式会社日立製作所(執行役会長兼執行役社長:川村 隆/以下、日立)は、このたび、シリコンSilicon:Si)にかわる次世代パワーデバイス用材料として注目される炭化珪素(Silicon Carbide:SiC)を用いた、3kV級の耐圧を持つダイオード「SiC-SBD(Schottky Barrier Diode)」を開発し、最大3.3kVの耐圧を確認しました。さらに、今回開発した3kV級のSiC-SBDを搭載したパワーモジュールを試作し、従来技術であるSi-pnダイオードを用いた場合と比べ、鉄道車両インバーターの電力変換損失を約3割低減できることを検証しました。
SiCは、現在パワーデバイス用材料として主流となっているSiと比較して、絶縁破壊電界強度が約10倍高く、高耐圧であることから、パワーデバイスの薄型化による導通(オン)時のオン抵抗低減が可能であるため、パワーデバイスの小型化や冷却系の簡素化が期待できる材料として注目されています。日立は、SiCの低損失なスイッチング特性に着目し、SiCの特性を最大限に活用するためのJBS(Junction Barrier Schottky)構造による高耐圧ダイオード技術と電力変換損失の大きな要因であるターンオン損失、リカバリ損失を低減する高速駆動技術を開発しました。これにより、耐圧3kV級SiC-SBDを搭載した電力変換損失の低い鉄道車両インバーターを実現できます。
近年、地球温暖化防止の観点から、低炭素社会を実現するための環境対策が世界規模で進められています。鉄道は、環境負荷の少ない輸送システムとして需要が高まっていますが、さらなる省エネルギー化に向けて、より環境性に優れた鉄道車両用パワーデバイス製品が求められています。
鉄道車両インバーターは、きめ細やかな交流電動機(モーター)の制御を行う鉄道車両のキーコンポーネントです。鉄道車両インバーターの内部構成は、Si-IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)とダイオードが並列に接続される形となっていますが、従来技術であるSi-pnダイオードを用いた場合、オン状態からオフ状態に移行する際に、不必要なリカバリ電流が発生します。これがスイッチング損失となるため、電力変換損失の低減には限界がありました。
日立は、このような背景から、リカバリ電流を極限まで抑制できるSiC-SBDを鉄道車両インバーターに適用することをめざし、高耐圧デバイス技術の開発に取り組んできました。今回、JBS構造を採用することにより、鉄道車両用で鍵となる、3.3kV以上の逆方向耐圧と、2Vの低導通電圧特性を有するSiC-SBDを開発しました。鉄道車両インバーター用パワーモジュールに使用するダイオードをSi-pnダイオードから今回開発したSiC-SBDに置き換えることで、従来と比較して、約3割の電力変換損失低減効果を実現できることを検証しました。
今回開発したパワーモジュールの技術の特長は、以下のとおりです。
従来のSBDでは、ダイオードの導通時の損失を低減するために、n型ドリフト層の不純物濃度を増し低抵抗化すると、ショットキー接合部の電界が強くなり、逆方向に高電圧をかけた際の漏れ電流が増大してしまうという本質的なトレードオフがあり、導通損失低減と漏れ電流抑制を両立することは困難でした。今回、ショットキー接合部の電界を緩和させるため、ショットキー接合とpn接合を組み合わせたJBS構造を採用し、これを可能にする高品質な電極/SiC界面の形成技術を開発しました。これにより、低導通損失と、漏れ電流の抑制を両立することが可能となり、耐圧3.3kV、電流10A、導通電圧2VのSiC-SBDを実現できました。
従来の鉄道車両インバーター用パワーモジュールは、Si-IGBTとSi-pnダイオードで構成されていますが、ダイオードについて、3kV級のSiC-SBDに置き換えたパワーモジュールを試作しました。さらに、高速駆動技術を併用することで、従来のパワーモジュールと比べて、ターンオン損失を約1/6、リカバリ損失を約1/10に低減しました。これにより、インバーターの電力変換損失を約3割低減することが可能です。
ダイオードやIGBTなどのパワーデバイス製品は、電力変換器の高効率化に寄与し、社会インフラを支える重要なデバイスです。日立は、パワーデバイスおよびそれを応用したインバーターシステムの研究開発を推進し、鉄道車両だけでなく、産業機器、各種電源装置を高効率化することで、世界規模でのCO2排出量削減に貢献していきます。
株式会社日立製作所 日立研究所 企画室 [担当:鈴木]
〒319-1292 茨城県日立市大みか町七丁目1番1号
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以上