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2009年2月12日
株式会社日立製作所(執行役社長:古川 一夫/以下、日立)は、このたび、総務省の委託研究「電波資源拡大のための研究開発」のもと、60GHz帯ミリ波無線伝送システムの全周波数帯域(57〜66GHz)で用いることができるシリコンゲルマニウム(以下SiGe)ヘテロ接合バイポーラトランジスタ*1を用いた発振器*2の試作に成功しました。ミリ波無線伝送システムは高いデータレートの通信方式の候補として注目されているもので、写真や動画など大容量のコンテンツを短時間で簡単に送受することが可能となり、テレビや携帯端末などの情報家電製品への適用が期待されます。例えば、将来の超薄型壁掛けテレビへの応用では、高精細画像を非圧縮で無線伝送できるため、画像データの圧縮・伸張を行う回路が不要となり、従来のテレビ本体の回路規模を大きく削減することが可能となります。今回試作した広い周波数範囲でミリ波伝送を実現する発振器は、これらの実現に大きく貢献するものです。
数ギガビット/秒級の大容量伝送を可能にするミリ波無線伝送には、60GHzを中心に7GHz幅の周波数帯(日本・欧州:59〜66GHz、北米:57〜64GHz)が認可されています。国内外のミリ波無線伝送の周波数をカバーするためには、その構成部品である高周波発振器には、認可周波数の範囲を上回る12GHz幅以上の周波数範囲をカバーできる発振性能が要求されます。しかし、従来の発振器では、広い周波数可変範囲で動作させると発振器の出力信号強度が低下し、これを補償するために消費電力が増大するという問題がありました。
このような背景から、日立は、60GHz帯ミリ波無線伝送システムに求められる広い周波数可変範囲で動作し、低消費電力で大きな信号出力を可能とする発振器回路技術「ループグラウンド伝送線路技術」を開発しました。
発振器が動作する周波数可変範囲を拡大するためには、所望の出力周波数の半分の周波数(基本発振周波数)で発振させた信号から2倍の高調波*3(2次高調波)を発生させ、取り出す方式がよく用いられます。しかし、従来は出力回路に発生する寄生容量*4によって周波数可変範囲が狭く抑えられていました。今回、出力回路に基本発振波の波長の入力信号線路と2次高調波の波長の出力グラウンド線路で構成するループ形状のトランスフォーマー*5を導入し、出力グラウンド線路から2次高調波信号を取り出すことで周波数可変範囲を拡大できる新しい回路技術「ループグラウンド伝送線路技術」を開発いたしました。本技術を適用した回路は、信号線路の寄生容量の影響を低減することが可能となり、伝送損失を少なくして信号を効率良く出力できる特長があります。また、この回路は受動素子*6のみで構成しており、本技術によって、低消費電力でありながら大きな出力信号強度と広い周波数可変範囲を同時に得られる発振器を実現しました。
「ループグラウンド伝送線路技術」の有効性を実証するために、0.18ミクロン SiGe BiCMOSプロセスを用いて発振器を試作しました。その結果、52GHzを中心に、周波数可変範囲14GHz幅(45〜59GHz)、信号出力強度1.5dBm、消費電力132mWでの動作を確認しました。また、発振器の総合性能評価指標*7を用いて実測性能の評価を行なったところ、総合評価値マイナス189.6dBという結果が得られ、これは40〜75GHzの周波数で動作できる発振器の中で最高性能を示す値となりました。本回路技術は将来の高周波CMOSデバイスにおいても適用することができ、これにより一層の低コスト化が期待されます。
なお、本成果は、2月8日から米国サンフランシスコで開催された「国際固体素子回路会議(ISSCC : 2009 IEEE International Solid-State Circuits Conference)」にて発表しました。
株式会社日立製作所 中央研究所 企画室 [担当:木下、工藤]
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以上