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2009年1月28日
株式会社日立製作所(執行役社長:古川 一夫/以下、日立)はこのたび、高温域で使用されるパワー半導体の鉛フリー化を実現する高耐熱・高信頼な接続構造を開発しました。
半導体素子と電極や放熱部材等の部品を鉛フリーはんだで接合する際に、素子と部品の熱膨張係数の差によりはんだ付け部に大きな熱応力が発生し、破壊が生じる恐れがあります。そこで、本技術では、両者の間の熱膨張係数差に起因する過大な熱応力の発生を防ぐために半導体素子に近い熱膨張係数を有する応力抑制材を挿入し、さらに、部品から応力抑制材までを貫く形で放熱ポストを設けた構造とすることで、接続部の熱抵抗と熱応力を抑え、接続寿命を向上させたものです。
鉛は生物に対する強い毒性を有することが報告されているため、これまでに様々な分野でその使用規制が進められてきました。電気・電子機器の部品接続に使用されているはんだに関しても、EU(欧州連合)で、2006年7月1日に施行されたRoHS指令*1により、鉛の使用が制限されています。しかし、電力機器,輸送機器,民生機器向けなどのパワー半導体の接続部は、使用時に125から175度程度になるため、一般に使用されている組成の鉛フリーはんだでは高温領域に対応できないことから、高温領域に対応可能な高鉛はんだ*2が、RoHS指令の適用除外材料として使われてきました。今後、パワー半導体の大容量化に伴い素子の発熱量が益々増大することや、炭化珪素、窒化ガリウムのような高温で動作する素子が使用されることを考慮すると、素子接続部の温度は200度近くまで上昇すると予測され、パワー半導体への鉛フリーはんだの適用はさらに困難な状況となります。
しかし、今後、省エネルギーの観点からも、電力を効率よく使用することができるパワーエレクトロニクス製品の需要は伸びることが予想されており、それらに含まれる鉛の環境への影響を考慮すると、パワー半導体の鉛フリー化技術は、安全・安心な社会に必要不可欠なものです。
こうした課題に対し日立では、今回開発した本技術をパワー半導体の中でも、高温域で使用されるパワー半導体に対して適用し、鉛フリーはんだで従来の高鉛はんだを用いた場合と同等以上の接続寿命を達成しました。これにより、従来、鉛フリーはんだが適用できなかったパワーエレクトロニクス製品に対し、鉛フリー化実現への一歩を踏み出したことになります。
世界的な地球環境保全に向けた意識の高まりや、それを受けた規制強化の流れの中で、電力を効率よく使用することができるパワーエレクトロニクス製品の需要の伸長と、それにともなう鉛フリー化へのニーズの急速な高まりが予想される中、本技術は、その実現に向けた隘路を解決する重要な成果であり、人間社会が鉛を使用することによってもたらす環境への影響を大きく低減するための道を拓くものです。
これまでに日立は、材料、構造の両面から解決策を探ってきており、2008年1月には、200度の高温でも、「スズ-銀系鉛フリーはんだ」と比べて、接続部の劣化を半分以下に抑制できる鉛フリー接続技術として「スズ-銅系鉛フリーはんだ」を用いた接続技術を開発しました。今回の開発は構造面からの新たなアプローチであり、今回開発した低熱抵抗・低応力接続構造による鉛フリー接続技術は、高温での高い接続信頼性を実現するものです。本研究開発は、パワーエレクトロニクス製品の半導体素子などの接続部における鉛フリー化への歩みをさらに加速するものであり、今後は、実用化に向けた検討を進めていきます。
開発した技術は以下のとおりです。
半導体素子を電極や放熱部材等の部品に接続する際には、両者を接続するはんだに素子と部品の熱膨張係数差に起因する過大な熱応力が発生するのを防ぐため、一般的に、はんだ接続部に両者の中間の熱膨張係数を有する応力抑制材を挿入します。しかしながら、応力抑制材を挿入すると、これまで半導体素子/部品間の一層であったはんだ接続部が、半導体素子/応力抑制材間と応力抑制材/部品間の二層に増えるため、半導体素子/部品間の熱抵抗が上昇してしまいます。熱抵抗が上昇すると、半導体素子で発生した熱を効率よく逃がすことができず、半導体素子およびはんだ接続部の温度が上昇してしまいます。このため、従来の接続構造には、高温領域に対応できない鉛フリーはんだは適用されてきませんでした。そこで、本開発では、鉛フリーはんだを適用できる程度まで、半導体素子/部品間の熱抵抗を低減し、かつ、はんだに発生する熱応力を低減できる接続構造を開発し問題を解決しました。開発した接続構造の特徴は、部品から応力抑制材までを貫く形で配置された放熱ポストです。これにより、半導体素子から応力抑制材と応力抑制材/部品間のはんだ接続部を介さずに熱を逃がすことができ、半導体素子/部品間の熱抵抗を低減できます。さらに、はんだ接続部の熱応力が大きくなる周辺部は、応力抑制材の効果により、従来同様の熱応力低減効果が得られます。
開発した接続構造(スズ-銅系鉛フリーはんだ使用)の信頼性を評価するため、動作時の接合部最大温度が約200度となる条件で通電熱サイクル試験を行いました。その結果、従来構造に高鉛はんだを用いた場合と同等以上の接続寿命を確保できることを確認しました。また,約-40度から約200度の条件で実施した無通電の温度サイクル試験においても、従来構造に高鉛はんだを用いた場合と同等の接続寿命を確保できることも確認しました。
なお、本技術の詳細は2009年1月29〜30日に社団法人溶接学会マイクロ接合研究委員会主催で開催されるMate2009にて発表します。
日立グループは、地球環境を保全しながら、持続可能な社会の実現をめざす長期計画として2007年12月に「環境ビジョン2025」を策定しました。本ビジョンでは、グループの製品により、2025年度時点で年間1億トンの二酸化炭素の排出量抑制に貢献することをめざしています。日立グループでは家庭やオフィスの電気製品から社会インフラまで、幅広い領域で環境に配慮した技術開発に取り組んでいるほか、現在「日立はすべてを地球のために」をコンセプトとした広告キャンペーンを展開し、環境保全行動の必要性を訴えています。日立グループは、今後もこうした活動を積極的に展開していきます。
株式会社日立製作所 機械研究所 企画室 [担当:秋葉]
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以上