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2008年12月18日
自発光型シリコン・レーザの実現に道を拓く
株式会社日立製作所(執行役社長:古川 一夫/以下、日立)は、このたび、厚さ数ナノメートル*1の極薄シリコン発光素子に電流を流すことで、シリコン自体を発光させ、素子内に光を閉じ込めることで、その光が伝播し増幅する現象を観察しました。これは、極薄シリコン発光素子の発光を、電流により増幅できること(光学利得)を示すはじめての観察結果であり、将来の自発光型シリコン・レーザ*2の実現に道を拓く基礎的な成果です。
今回の成果は、極薄シリコン発光素子に、発光した光を閉じ込める「共鳴共振器型発光ダイオード構造」を採用したことにより得たものです。この極薄シリコン発光素子は既存の半導体製造プロセスで製造できることから、今後この技術を用いた自発光型シリコン・レーザを実現することにより、シリコン半導体のチップ内やチップ間で高速光通信ができる、低消費電力・高速なサーバやコンピュータの開発が期待されます。
なお、今回の成果は、独立行政法人科学技術振興機構(理事長:北澤 宏一)の戦略的創造研究推進事業発展研究(SORST)に参画して得られたものです。
現在半導体の材料に広く用いられているシリコンを使ってシリコン・レーザが実現すれば、従来の金属配線で生じる熱の発生や信号の遅延がない光配線が実現できるため、サーバやコンピュータの消費電力が低減でき、また、高速な信号処理が可能になると言われています。しかし、現在の半導体レーザに用いられている直接遷移型半導体*3である化合物半導体に比べ、間接遷移型半導体*4であるシリコンは原理的に発光しにくいという特性があり、これまでのところ、電流で光信号処理が可能なシリコン発光素子は実現されていませんでした。
一方日立は、2006年に、厚さ約9ナノメートルの極薄の単結晶シリコンに電流を流すことによって、シリコンをLED(Light-Emitting Diode、発光ダイオード)として光らせることに成功しました。これは、ナノメートルの微小領域で起こる量子閉じ込め効果*5によって電子状態を変化させ、通常は発光しないシリコンを発光するように変えたものです。しかし、LEDからの光は自然放出光であるため、高速な信号処理(高速変調)を行なうことができず、情報処理に応用にするには不十分でした。また、高速変調を行なうためには、空間的にも時間的にも波形が揃ったレーザ光を実現する必要があり、将来的に自発光型シリコン・レーザを実現するには、電流で発光を増幅させる必要がありました。これまで、シリコンのナノ粒子では光学利得が発生する事が確認されていましたが、電流を注入しやすい極薄膜では光学利得が発生するかどうかは解明されていませんでした。
そこで日立は、今回、極薄シリコン発光素子に光を閉じ込める構造を採用し、極薄シリコンでの光学利得の観察に成功しました。
なお、本成果は、2008年12月15日から米国・サンフランシスコで開催されている電子素子に関する国際会議「国際電子デバイス会議(IEDM : International Electron Devices Meeting)」にて、12月16日に発表しました。
厚さ約4.4ナノメートルの極薄シリコンを用いた発光層付近に光を閉じ込めるため、光が伝播する導波路と、分布ブラッグ反射型ミラーにより形成された共鳴共振器型発光ダイオード構造を採用しました。さらに、光の閉じ込め効果を強くするために、支持基板として用いているシリコンを局所的に開口することで、全体の厚さ約1ミクロン(食品用ラップフィルムの約10分の1)の極薄シリコン共鳴共振器型発光ダイオードが、太鼓の膜のように中空に浮いている構造を作成しました。
シリコンLEDに電流を流すことによって、導波路端部からの発光現象を確認し、光が分布ブラッグ反射型ミラーにより導波路に閉じ込められていることを確認しました。また、発光強度が電流の増大に伴って大きくなっていく様子を解析することによって、素子内に閉じ込められた光が伝播するのに伴い増幅する現象を観測しました。これは、極薄シリコンを使って光学利得を出せることを示すものです。
株式会社日立製作所 中央研究所 企画室 [担当:木下、工藤]
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以上