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2008年12月2日
電子機器に用いる配線金属と接着性の高い被覆材の選択が可能に
株式会社日立製作所(執行役社長:古川 一夫/以下、日立)は、このたび、シンガポールの研究機関であるInstitute of High Performance Computing (以下、IHPC)*1と共同で、電子機器の配線に用いる金属と、その被覆材である樹脂との接着面がはがれる様子を可視化する、ナノメートル(100万分の1ミリメートル)の精度を持つ分子シミュレーション技術を開発しました。
本技術は、金属と樹脂の接着面に力が加わることによってはがれる様子を、金属と樹脂のそれぞれの原子間に作用するバネのモデルに置き換えてシミュレーションを行うことで、計算に必要な時間を大幅に短縮し、接着特性を精度良く求める技術です。
これにより、従来のシミュレーション技術では困難であった、金属と樹脂の分子レベルのはがれる様子を解析できるため、接着特性を調べるために行っていた繰り返し実験の回数を低減することが可能です。
今後、本技術を、さらなる配線構造の微細化が進む電子機器の設計に応用することで、配線に用いられる金属とより接着性の高い樹脂の材料選択が可能になります。
近年、電子機器は、小型化・高機能化の要求に伴い、配線の微細化が求められています。しかし、今後さらなる微細化が進んだ場合、金属の表面が平滑化し、これまで表面の凹凸により接着強度を保っていた金属と被覆材である樹脂の接着強度が弱くなるという新たな問題が起こります。
従来は、この問題に対し、平らな金属や樹脂でも一定の接着強度を得るために、実際に繰り返し実験を行い、最適な金属や樹脂材料を調べていましたが、開発期間の短縮やデバイスの高機能化のために、より高い精度で、金属と樹脂の接着特性を解明するシミュレーション技術の開発が望まれていました。しかし、従来シミュレーションに用いられていた量子力学*2的手法では、金属と樹脂の接着面がはがれた場合に起こる、電子雲*3の分布の変化を直接計算する必要があり、その計算に時間がかかりすぎることから数百原子の計算が限界で、金属と樹脂の接着面がはがれる様子を分子レベル(数千〜数十万原子)で計算し可視化することは困難でした。
このような背景から、日立はシンガポールの研究機関であるIHPCと共同で、金属と樹脂の接着面のはがれる様子を可視化する新しい分子シミュレーション技術を開発しました。
以上の手法により、膨大な計算時間がかかる量子力学的手法から電子雲の状態変化を直接的に計算する必要がなくなるため、計算時間を大幅に短縮でき、分子レベルのはがれる様子を、実験をせずに調べることができます。
日立は、今回開発したシミュレーション技術を、電子機器の配線基板に多く用いられているポリイミド樹脂と各金属(銅、ニッケル、酸化銅)の接合界面に用いました。この結果、ニッケルは銅よりも界面で電子雲の重なりが大きく相互作用が強いため、接着強度は強くなることが分かりました。また、酸化銅を用いた場合は酸化銅内部での電子雲の偏りが大きいため、銅の場合よりもポリイミドとの接着強度は強くなることが明らかになりました。これにより、配線材料である銅の表面を酸化したり、銅とポリイミドの間にニッケル層を入れたりすることで接着性が高まることがわかりました。
なお、本技術は、12月1日から米国のマサチューセッツ州ボストンで開催されている「MRS fall meeting 2008」*4において発表する予定です。
今回開発したシミュレーションによる金属と樹脂の接着面がはがれる様子
以上