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2008年10月17日
動作周波数30〜150GHzで、従来比で約3分の1の低電力動作を実証
日立製作所(執行役社長:古川 一夫/以下、日立)は、このたび、次世代の無線通信周波数帯である高マイクロ波帯(6〜30GHz)で利用が可能な、シリコンゲルマニウムを用いたヘテロ接合バイポーラトランジスタ(以下、SiGe HBT*1)の低消費電力技術を開発しました。
今回開発した技術を用いることにより、従来より低い電流でトランジスタを高速で動作させ、省電力化を実現しました。具体的には、低温での薄膜形成技術を活用することで、ベース層*2の薄膜化をはかり、高速性能を向上するとともに、ベース層とエミッタ層*3の間に不純物濃度の低いエミッタ層(低濃度エミッタ層)を新たに挿入して動作電流を低減しました。これにより、これまでは高電流を流すことでのみ得られていた高速性をより低い電流で達成することができるようになり、SiGe HBTにおける高速化と低消費電力化の両立が可能となります。
その結果、高マイクロ波帯の無線通信用デバイスに必要な30〜150GHzの幅広い周波数において、試作したSiGe HBTの動作電力が従来比で約3分の1になることを確認しました。これは、次世代の無線通信帯である高マイクロ波帯において、無線システムを省電力で利用するうえでの基盤技術となるものです。
なお、本研究は、総務省の委託研究「電波資源拡大のための研究開発」の一環として実施されたものです。
現在、携帯電話や無線LAN等の急速な普及とともに、現在の無線通信システムで使われている6GHz以下のマイクロ波帯では、種々の周波数の利用による過密状態が課題となっています。そこで、比較的余裕のある高マイクロ波帯(6〜30GHz)やミリ波帯(30GHz以上)といった次世代の無線通信周波数帯への移行に向けた基盤技術の開発が進められています。高マイクロ波帯で使われる無線通信用のICには、30〜150GHzの高速動作を行うトランジスタが必要とされると同時に、ICの低コスト化や小型化が必須であり、さらに近年では、モバイル機器用途の拡大や環境への配慮から、低消費電力化が求められるようになってきました。
そのような背景から、従来製品に使用されている化合物半導体と比較して、安価かつ高速であり、CMOS*4回路との混載によるICの小型化が可能なトランジスタとしてSiGe HBTが注目されています。しかし、従来のSiGe HBTは、高速動作を行うためには高電流を流す必要があり、高速性と低消費電力を両立することが困難でした。
そこで、日立は、SiGe HBTの低消費電力化に向けて、高電流を流すことなくSiGe HBTの高速化を実現する技術を開発しました。まず、低温での薄膜形成技術を確立することにより、トランジスタを構成するベース層の薄膜化を行い、高速性能を向上することに成功しました。また、トランジスタのエミッタ層とベース層内部の不純物の濃度を高精度に制御することができる新しいトランジスタ構造を開発し、動作電流の低減を可能にしました。
これにより、SiGe HBTは、高電流を流すことなく、高速化が可能となり、従来では、高速化との両立が困難であった低消費電力化を実現しました。その結果、試作したSiGe HBTは、遮断周波数*5の最大値が200GHzを超えるとともに、高マイクロ波帯で携帯電話や無線LANなどの無線通信用デバイスを利用するために必要とされる30〜150GHzの幅広い周波数において、動作電力が従来比で約3分の1になることを確認しました。
今回、開発した技術の詳細は以下の通りです。
従来のSiGe HBTの製造過程では、SiGe HBTを構成するエミッタ層、ベース層、コレクタ層のうち、エミッタ層を多結晶シリコンからの不純物の拡散によって形成していたために、高温の熱処理を行っていました。これにより、エミッタ層の下にあるベース層内の不純物の拡散が進み、ベース層が厚くなることで電子の通過時間が長くなり、これが高速化を実現するうえでの障壁となっていました。そこで、今回、エミッタ層を低温での薄膜形成技術により形成することにより、ベース層内の不純物の拡散を抑えて、薄いベース層を形成し、電子の通過時間を短縮しました。
今回、SiGe HBTのベース層とエミッタ層の間の充放電時間*6が低い電流におけるトランジスタの高速動作に影響を及ぼしていることに着目しました。ベース層とエミッタ層の接合部分の不純物濃度が低いほど充放電時間が短くなり、高速化が可能になるものの、従来技術では、エミッタを形成する際に熱処理を行っていたために不純物濃度の制御が不可能でした。そこで、今回、低温での薄膜形成技術を用いることで、ベース層とエミッタ層の間に不純物濃度の低い低濃度エミッタ層を挿入する新たなトランジスタ構造を開発しました。これにより、低電流でも充放電時間が短くなり、従来比で約3分の1の動作電流で、周波数30〜150GHzの動作が可能となりました。
なお、本成果は、2008年10月13日から米国・モントレーで開催される、バイポーラデバイス・回路技術に関する国際会議「2008 IEEE Bipolar / BiCMOS Circuits and Technology Meeting (BCTM2008)」にて発表致します。
株式会社日立製作所 中央研究所 企画室 [担当:木下]
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以上