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2008年10月17日

エネルギー機器向け厚板部材の接合に適した
レーザ溶接の省電力技術を開発

レーザの出力を変えることなく部材接合部の溶融する深さを従来に比べ約40%増大

  株式会社日立製作所(執行役社長:古川 一夫/以下、日立)は、このたび、大阪大学接合科学研究所(所長:野城 清/以下、阪大)片山聖二教授らと共同で、火力・原子力などのエネルギー機器向け厚板部材の接合に適したレーザ溶接において、溶接により溶融する深さ(以下、溶込み深さ)を、従来より約40%増大させる省電力技術を開発しました。これにより、従来と同じ溶込み深さを得る場合、レーザ出力を最大で50%低減することができ、接合の消費電力を低減させることができます。
  レーザ溶接は、レーザ光線のエネルギーを利用する溶接で、エネルギー密度が高く、高速で深い溶け込みが得られることから、高い品質と生産性を兼ね備えた接合技術として注目されています。
  今回、日立と阪大は、レーザ溶接時に、溶融部を保護するシールドガスを高速で噴射する「ガスジェット方式レーザ溶接技術」を開発し、従来より溶込み深さを約40%増大させました。従来と同じ溶込み深さを得る場合、レーザ出力を最大で50%低減できることから、消費電力を低減させることができます。また、このガスジェットを用いて、溶接時に発生する金属蒸気(以下、プルーム)を大幅に抑制する「プルーム抑制技術」を開発し、安定した溶接を可能にしました。本技術により、高い接合品質が求められるエネルギー関連機器や産業用機器などの接合において、消費電力を低減した生産性の高い厚板接合ができます。

  近年、溶接の世界では、出力10kW級の大出力のファイバーレーザ*1やディスクレーザ*2などのレーザ発振器の普及にともない、レーザ溶接が様々な分野で利用されはじめています。しかし、10kW級の大出力レーザとシールドガス供給ノズルを組み合わせた従来の方式では、溶込み深さの増大や環境負荷を低減することは困難でした。特に、低速で溶接する場合では、プルームの影響により溶接が不安定になることから、レーザ出力に見合う溶込み深さを得ることが困難でした。このような背景から、日立と阪大は、シールドガスのガス圧が溶接の安定性と溶込み形状に大きな影響を及ぼすことを見出し、レーザ光線の照射と同時にシールドガスを高速で噴射する「ガスジェット方式レーザ溶接技術」を開発しました。これにより、レーザの出力を増大させることなく、溶込み深さを約40%増大させることができました。従来と同じ溶込み深さを得る場合、レーザ出力を最大で50%低減でき、接合時の消費電力を低減します。また、ガスの噴射を適切に制御し、溶接時に発生するプルームや溶融金属の吹き上がりを抑制する「プルーム抑制技術」により、安定した溶接が可能です。
  今後日立は、接合速度の高速化などの実用化に向けた技術開発を推進し、火力・原子力などのエネルギー関連機器、産業用機器の厚板溶接など、様々な製品分野への利用拡大を図ります。

  本技術の詳細は10月20日から23日まで米国カルフォルニア州で開催される「27th International Congress on Applications of Laser & Electro Optics(ICALEO 2008)」で発表します。

開発技術の詳細

(1) 省電力で溶込み深さを増大させる「ガスジェット方式レーザ溶接技術」
  レーザ溶接の溶込み深さは、接合部材の表面に対し、レーザ光線の焦点位置をどこに設定するかによって異なります。今回、ガスジェットノズルにより部材上のレーザ照射部に高速でガスを噴射する「ガスジェット方式レーザ溶接技術」を開発しました。これにより、キーホール*3の上部にキャビティ*4を形成させ、焦点位置を部材のより深い位置に設定できます。その結果、試作したレーザ出力10kWの装置において、ステンレス(SUS316L)を接合した場合、従来技術と比べて約40%溶込み深さを増大させることが可能になりました。また、従来と同じ溶込み深さを得る場合、レーザ出力を最大で50%低減できるため、接合の消費電力を低減させることができます。
(2) 溶接の安定化と環境負荷の低減を実現する「プルーム抑制技術」
  レーザ光線はエネルギー密度が高いため、レーザ溶接時にプルームと呼ばれる金属蒸気がキーホール口から噴出されます。プルームはレーザ出力が大きくなるほど、噴出が活発となり、噴出方向も大きく変動することから溶接が不安定となります。今回、ガスジェットノズルの口径、角度及び噴出されるガスのガス圧を適正に制御する「プルーム抑制技術」を開発することで、プルームの変動及び噴出量、溶融金属の吹き上がりを抑制し、溶接の安定性を高めました。
*1
ファイバーレーザ:レーザ光を増幅する物質に光ファイバーを用いたレーザの総称。
*2
ディスクレーザ:レーザ光を増幅する物質に薄いディスク状の結晶を用いたレーザの総称。
*3
キーホール:レーザビームの材料表面への照射により生ずる金属蒸気の蒸気圧により溶融金属が押し下げられて生じた細く長い穴。
*4
キャビティ:ガスジェットにより溶融金属の表面が押し下げられて形成された凹み。

[画像左]従来技術、[画像右]開発技術、出力10kWでステンレス(SUS316L)をレーザ溶接した場合の溶込み形状

お問い合わせ先

株式会社日立製作所 日立研究所 企画室 [担当:鈴木]
〒319-1292 茨城県日立市大みか町七丁目1番1号
TEL : 0294-52-7508 (直通)

以上

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