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2008年4月24日
脳梗塞などで蓄積した乳酸を脂肪と分別して計測
株式会社日立製作所(執行役社長:古川 一夫/以下、日立)は、このたび、明治国際医療大学(学長:中川 雅夫)医学教育研究センターの田中忠蔵センター長と共同で、脳梗塞などが発生している箇所に蓄積した乳酸を、MRI(磁気共鳴撮像装置)を用いて、高速かつ高精度に画像化できる、「乳酸イメージング技術」を開発しました。本技術では、MRIを用いて測定した信号の波形が、乳酸と脂肪でわずかに異なることを利用して、これまで困難であった乳酸と脂肪を区別し、乳酸のみを測定することが可能です。同時に、計測空間をジグザグな軌跡でスキャンすることで、画像化に必要な信号を効率的に収集できる「エコープラナー法」を適用し、乳酸の高速画像化を実現しました。
今回、7テスラ(磁界の強度、1テスラは104ガウス)の実験用MRIに本技術を適用して計測実験を行ったところ、約5分間で組織内の乳酸を画像化できることを確認しました。乳酸は脳梗塞など酸素が欠乏した箇所に蓄積することから、今回開発した技術は、将来、脳梗塞などの発生箇所を短時間で測定する手法として応用が期待できます。
近年、日本人の死亡原因の上位を占める脳梗塞や腫瘍などの観察精度を上げるには、生体組織や臓器の形を観察する形態計測に加えて、疾患に関連して体内で生成、蓄積される代謝物の分布を観察する代謝機能計測が重要になると考えられています。脳梗塞や腫瘍に関連する代謝物の一つとして、乳酸があげられます。乳酸は酸素が欠乏した箇所に蓄積される性質があるため、その乳酸の分布状況を画像化する「乳酸イメージング」が可能になれば、脳梗塞によって血流が低下し酸素欠乏が生じている領域や、腫瘍で異常増殖を繰り返して酸素供給が追い付かない領域などの特定が可能になると考えられています。
磁気を利用して体内を画像化するMRIでは、分子の種類によって、原子核が共鳴を起こす高周波磁場の周波数が異なることを利用して、測定対象に含まれる分子の種類の特定と、その分布を画像化することが可能です。しかし、乳酸の場合、脂肪と磁気共鳴を生じる高周波磁場の周波数が同一であるため、従来は両者を区別して計測することが難しく、これまで乳酸を高速かつ高精度で画像化できる技術は実現されていませんでした。将来、脳梗塞や腫瘍などの診断を支える技術として乳酸イメージングを用いるためには、乳酸を脂肪と分別し、短時間で乳酸のみを測定する技術の開発が課題となっておりました。
このような背景のもと、日立と明治国際医療大学は共同で、MRIを用いた高速かつ高精度での乳酸の画像化技術を開発しました。
今回開発した技術の特長は、次の通りです。
これまで、乳酸と脂肪は、磁気共鳴を生じる磁場の周波数が同一であることから、両者の区別が困難とされてきました。しかし、今回、日立と明治国際医療大学の研究チームは、各分子から発生する磁気共鳴信号の波形がわずかに異なる現象を利用することで、両者を区別できることに着目しました。
MRIで計測した信号の時間方向の信号波形をみると、乳酸と脂肪ではその形状が異なり、乳酸信号の強度が脂肪信号の強度を大きく上回るタイミングが存在します。そこで、今回、そのタイミングを抽出する信号処理技術(エコーシフト法)と、日立がこれまで開発してきた、計測空間をジグザグな軌跡でスキャンする高速画像化手法「エコープラナー法」を組み合わせて、7テスラという、高い磁場強度のMRI向けに最適化した、乳酸の高速かつ高精度な測定技術を新たに開発し、乳酸の磁気共鳴信号のみを測定することを可能としました。
開発技術の原理実証を行うために、7テスラの実験用MRI を用いて実験用脳梗塞ラットの計測を行ったところ、皮下脂肪からの信号に邪魔されず、脳梗塞を起こした領域に蓄積した乳酸を、約5分で画像化できることを確認しました。
本技術は、これまで困難であったMRIを用いた、乳酸の高速かつ高精度での画像化を実現したものであり、将来、脳梗塞や腫瘍などの診断を支える技術の実現に道を拓く成果といえます。
本成果は、2008年5月3日から、カナダのトロントで開催される「International Society for Magnetic Resonance in Medicineの16th Scientific Meeting & Exhibition」にて発表する予定です。
株式会社日立製作所 中央研究所 企画室 [担当:木下]
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TEL : 042-327-7777 (直通)
以上