本文へジャンプ

Hitachi

このニュースリリース記載の情報(製品価格、製品仕様、サービスの内容、発売日、お問い合わせ先、URL等)は、発表日現在の情報です。予告なしに変更され、検索日と情報が異なる可能性もありますので、あらかじめご了承ください。なお、最新のお問い合わせ先は、お問い合わせ一覧をご覧下さい。

2008年3月27日

生体用計測装置向けに波長755ナノメートルの半導体レーザを開発

単一横モード動作で光出力100ミリワットを達成

  株式会社日立製作所(執行役社長:古川 一夫/以下、日立)は、このたび、動作電流110ミリアンペア(mA)で100ミリワット(mW)の光出力が可能な、波長755ナノメートル(nm)の半導体レーザの試作に成功しました。波長755nmにおいて、単一横モード動作*1での光出力100mWは、世界最高値*2です。
  現在、水や血液などでの吸収が少なく、生体に対する高い透過性を持つ波長700nm帯の光を用いた計測技術が、侵襲性*3の少ない生体用計測法として注目されています。そして、特に755nmの波長は、700nm帯の波長の中でも、比較的ヘモグロビン(還元ヘモグロビン)に吸収されやすい性質であることから、本技術を用いて、血液中の還元ヘモグロビンを基に、血液中の酸素 濃度や血液の流れなどを、今まで以上に高い測定精度でかつ低消費電力で計測することが可能になります。
  これまで、日立は、705nmと730nmの高出力半導体レーザの開発に成功しており、本開発によって、生体用計測に適した700nm帯の幅広い波長領域への半導体レーザの適用が、今まで以上に期待できると考えています。

*1
単一横モード動作:光の波長分布が単峰であり、レーザ光をレンズなどにより小さなスポットに集光することができる特性のこと。測定精度を向上するために、計測・分光など多くの用途で単一横モード動作が必要とされている。
*2
2008年3月26日時点、日立調べ。
*3
侵襲性:検査や治療によって、患者の方を傷つけたり日常生活あるいは生命に悪影響を与えたりする可能性があること。生体光計測の最大の特長は、非侵襲性あるいは低侵襲性にある。

  近年、医療やバイオの分野では、光を用いた計測技術が侵襲性の少ない生体計測法として注目され、研究開発が進められています。この計測技術で用いられる光には、水や血液などでの吸収が少なく、生体に対する高い透過性を持つ波長700nm帯の光が適しており、現在、LED(発光ダイオード)や固体レーザを光源とする装置が開発されています。また、755nmの波長は、生体用計測のほかに、医療・美容用途にも適した波長であることから、現在、宝石の一種で非常に高価なアレキサンドライトを用いた固体レーザが実用化されています。
  今後、半導体レーザに光源を置き換えることによって、測定精度の向上や装置のさらなる小型化・省電力化が期待されています。そして、すでに波長700〜770nmで発振可能な半導体レーザが開発されていますが、その多くは動作温度の上限が50度程度であるなど、使用環境が制限されていました。また、755nmの波長を発振可能な、出力10mW以上の半導体レーザは実用化されていませんでした。

  このような背景から、日立は波長700nm帯で発振可能な半導体レーザの開発に取り組み、2007年5月には、光出力100mWを単一横モード動作で発振可能な波長705nmおよび730nmの半導体レーザ技術の開発に成功しました。そして、引き続き、700nm帯において、血液中の還元ヘモグロビンを基に、血液中の酸素濃度や血液の流れなどを、今まで以上に高い測定精度でかつ低消費電力で計測できる755nmの半導体レーザの開発に取り組んできました。

  今回開発した半導体レーザは、755nmの波長を実現するために、活性層の量子井戸*4の材料としてInGaAsP(インジウム・ガリウム・ヒ素・リン)を採用しています。従来、InGaAsPは材料が均一に混ざりにくい性質(非混和性)を持ち、これが結晶性を低下させていましたが、最適な結晶組成および結晶成長条件を見出すことによってInGaAsPの結晶性を高め、波長755nmでの発振を可能にしました。また、リッジ構造*5を採用することで、光損失を低減し、高出力かつ低電流動作を実現しました。この構造は、1回の結晶成長で作製できるため、低コスト化に優位です。

*4
量子井戸:ナノメートル(1メートルの10億分の1)単位の薄膜の井戸層を他の材料の層で挟み込んだ活性層の構造の一種。電子は薄い井戸層に閉じ込められてレーザの特性が向上する。
*5
リッジ構造:光を閉じ込めるために設ける光導波路構造の一種。中央の導波路部分のクラッド層を残して両側をエッチングで除去することで、リッジ(ridge)型の導波路が形成される。

  今回、波長755nmで発振する半導体レーザ光源を試作し、素子特性を測定した結果、単一横モードの発振で100mW(室温連続動作)の光出力を達成しました。波長755nm帯において、単一横モード動作での光出力100mWは、世界最高値です。100mW出力時の動作電流は室温で約110mAであり、低消費電力での動作が可能であることを確認しました。さらに、温度特性が極めて良く、755nm帯で初めて80度までの安定動作を実現しました。
  結晶成長法には、量産に適した有機金属気相堆積(MOCVD)法を用いました。今回見出した結晶成長条件は波長制御性に優れており、InGaAsP材料の組成を調整することによって700〜755nmの任意の波長を実現することが可能です。

  755nmの波長は、700nm帯の波長の中でも、比較的ヘモグロビンに吸収されやすい性質であることから、今回開発した半導体レーザ技術を用いることで、血液中の還元ヘモグロビンを基に、血液中の酸素濃度や血液の流れなどを、高測定精度で計測できる、省電力でかつ小型の装置を開発することが可能になります。
  これまで、日立は、705nmと730nmの高出力半導体レーザの開発に成功しており、本開発によって、生体用計測に適した700nm帯の幅広い波長領域への半導体レーザの適用が、今まで以上に期待できると考えています。

  なお、本成果は、2008年3月27日から、千葉県船橋市の日本大学理工学部船橋キャンパスで開催される「第55回応用物理学関係連合講演会」にて発表する予定です。

お問い合わせ先

株式会社日立製作所 中央研究所 企画室 [担当:木下]
〒185-8601 東京都国分寺市東恋ヶ窪一丁目280番地
TEL : 042-327-7777 (直通)

以上

Adobe Readerのダウンロード
PDF形式のファイルをご覧になるには、Adobe Systems Incorporated (アドビシステムズ社)のAdobe® Reader®が必要です。