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Hitachi

2007年11月13日
株式会社日立製作所
東北大学電気通信研究所

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将来のHDD用磁気ヘッドへの応用が期待されている
スピン蓄積効果を応用した磁気センサの有効性を確認

素子寸法を微細化するほど出力電圧が増大する特性を確認

  株式会社日立製作所(執行役社長:古川 一夫/以下、日立)と東北大学電気通信研究所(所長:矢野 雅文/以下、東北大)は、このたび、株式会社日立グローバルストレージテクノロジーズサンノゼ研究所の協力を得て、磁性体と非磁性体を接触させて電流を流すと電子の一部が非磁性体に蓄積される効果がある「スピン蓄積*1」を応用した磁気センサを試作し、その有効性の検証を行いました。今回の検証では、素子幅50nmの試作センサにおいて、100μAの入力電流に対して最大42μVの出力電圧を達成しましたが、これは、スピン蓄積効果を応用した磁気センサとしては、従来の観測データと比べて50倍以上の大きさのものです。また、この磁気センサは、素子を微細化するほど出力電圧が増大する特長があることもあわせて実証したことから、スピン蓄積効果を応用した磁気センサは、磁気センサの微細化が進む将来のハードディスク装置(以下、HDD)用磁気ヘッドに有効であると言えます。
  本成果は、文部科学省の研究開発委託事業「ITプログラム」の課題の一つである「超小型・大容量ハードディスクの開発」プロジェクト(プロジェクトリーダー:中村 慶久(東北大学電気通信研究所教授))の一環として達成したものです。

  近年の急速なIT化の進展と様々なデジタル機器の普及により、大容量の映像や音声のデジタルデータを記録、再生するHDDは、記憶容量のさらなる大容量化が求められています。HDDの記録密度の向上は、メモリの単位となる磁性媒体上の記録ビットの微細化と、信号再生・書き込み用磁気ヘッドに組み込まれる磁気センサの小型化や磁気検出感度の向上によって実現されてきました。現在、HDD の再生ヘッドには、巨大磁気抵抗効果(Giant Magneto-Resistance、GMR)や、トンネル磁気抵抗効果(Tunneling Magneto Resistance、TMR)素子*2が使われています。また、1平方インチ当たり1テラビット級のHDDの実現に向け、ノイズが少なく小型化に適したCPP(Current Perpendicular to Plane)-GMRヘッドの研究開発が進められています。
  しかしながら、将来、1平方インチ当たりの容量が1テラビットを超える時代になると、記録密度のさらなる向上が求められ、磁気ヘッドの素子寸法は30nm以下となると予想されています。記録密度の向上に伴い、磁性媒体の記録ビット長や磁場信号も小さくなることから、再生ヘッドには、高い分解能、高い信号雑音比(S/N比)、そして磁気検出感度が高い磁気センサが必要となります。
  今回、日立と東北大は、スピン蓄積効果を応用した磁気センサを試作し、従来の観測データと比べて50倍以上の出力電圧を達成するとともに、素子を微細化するほど出力電圧が増大する特長があること実証し、スピン蓄積効果を応用した磁気センサが将来の高密度HDDに有利な磁気センサであることを確認しました。開発した技術は以下の通りです。

1.スピン蓄積効果を応用した磁気センサの試作

  試作した磁気センサは、非磁性体であるアルミニウム薄膜を加工した1本の細線(以下、非磁性細線)と、磁性体であるコバルト鉄(CoFe)を加工した2本の細線(以下、磁性細線)によって構成されています。非磁性細線の上に、平行した2本の磁性細線を直交させ、非磁性細線と磁性細線が接する2つの接触面には絶縁体薄膜であるAl2O3が挿入されています。2本の磁性細線はそれぞれ、スピン電子を注入する固定層と、磁界の反転を検出する自由層という役割があります。固定層の磁性体から非磁性体に電流を流すと、非磁性体内部にスピン電子がたまり、自由層の磁性体までスピン電子が到達します。絶縁体薄膜であるAl2O3は、向きがそろったスピンを選別する効果を発揮します。この時、自由層の磁性体と非磁性細線間の電圧を測定すると、外からの磁界の向きに応じて、電圧信号は変化します。これがスピン蓄積効果です。これは非磁性細線を流れるスピンの向きと自由層の磁性体に加わる磁界の向きが一致したときには電流が流れ、逆の場合は電流が流れないためで、この特長によって、磁界の変化で大きな電圧変化が得られます。

2.寸法効果の実験的な確認

  試作した素子を用いて、固定層の磁性体から絶縁体薄膜であるAl2O3を介して非磁性細線へ電流を流し、外から磁界を与えると、磁界に対応して電圧変化が発生することを実験的に検証しました。電圧信号の大きさは、加える電流の増加に伴い増大し、また磁性細線の間隔を狭くすると増大することが分かりました。
  以上の結果から、磁性細線の間隔を50nmにした場合、100μAの電流を流すと最大42μVの電圧変化(磁気電圧変化)が発生することを確認しました。この結果はスピン蓄積効果で得られている従来データの50倍以上の大きさです。

  以上のように、スピン蓄積効果を利用した磁気センサの出力電圧は、素子を微細化するほど増大する特性を持つことから、磁気センサの微細化が進む将来のHDD用磁気ヘッドに有効であると言えます。
  また、本成果は、電子のスピンを非磁性体に蓄積し、磁性体のような性質を持たせるスピン蓄積現象を具体的な磁気センサに応用したもので、スピン蓄積効果の応用に関する新たな研究開発領域の潮流を築くものです。
  今回得られた成果を検証し、スピン蓄積効果の素子を微細化するほど出力電圧が増大する特長のメカニズムを詳細に検討することは、今後の研究の重要な点であり、HDD磁気ヘッドへの適用に向けた素子開発とともに、今後も研究開発を進めていく予定です。
  本成果は、2007年10月15日(月)から17日(水)まで東京国際フォーラムで開催された「8th Perpendicular Magnetic Recording Conference(第8回垂直磁気記録国際会議)」にて発表したものです。

注釈

*1
FeやCoFeのように磁石の性質を持つ物体(強磁性体)と、Cuのような非磁性体を接触させて電流を流すと、一部の電子は強磁性体の磁気モーメントの情報をもち、スピン電子として非磁性体に流れ込む。電流を流すと、このスピン電子は、非磁性体の中に溜まった状態になる。これをスピン蓄積現象と呼ぶ。
*2
トンネル磁気抵抗(TMR:Tunneling Magneto-Resistance)素子は強磁性膜/絶縁膜/強磁性膜の三層構造で形成される。2つの強磁性膜の磁石の向きが平行の状態と、反平行の状態で流れる電流の電気抵抗が大きく変化する現象をトンネル磁気抵抗効果と呼ぶ。

お問い合わせ先

株式会社日立製作所 中央研究所 企画室 [担当:木下]
〒185-8601 東京都国分寺市東恋ケ窪一丁目280番地
TEL : 042-327-7777(直通)

以上

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