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2007年5月16日
生体光計測用途に向けた発振波長705/730ナノメートルの
半導体レーザ技術を開発
単一横モード動作で光出力100ミリワットを達成
日立製作所 中央研究所(所長:福永 泰/以下、日立)は、このたび、動作電流が110ミリアンペア(mA)以下の低電流で光出力100ミリワット(mW)で発振する波長705ならびに730ナノメートル(nm)帯の、低電流・高出力半導体レーザ技術を開発しました。生体での吸収が少ない波長700nm帯の半導体レーザは、生体計測用光源の究極の小型化に向けて、その実現が期待されています。今回、光を放出する活性層にInGaAsP(インジウム・ガリウム・ひ素・リン)を採用するとともに、光損失が少ないリッジ構造を適用することによって、生体計測装置用光源に必要な低電力・高出力で単一横モード動作*1の条件を満たした、半導体レーザの開発に成功したものです。従来、光ディスク用に780nm帯の単一横モード動作の半導体レーザは実現されていましたが、本開発によって、生体光計測用途に適した700nm帯の幅広い波長領域における低電流・高出力半導体レーザ光源の実現に道を拓いたものといえます。
近年、医療やバイオの分野では、光を用いた生体計測技術が侵襲性の少ない生体計測法として注目され、研究開発が進められています。ここで用いられる光には、水やヘモグロビンなどによる吸収が少なく、生体に対する高い透過性を持つ波長700nm帯の光源が適しています。一方、小型・低コストの計測装置を実現するためには、小型・低消費電力性能に優れた半導体レーザ光源の利用が求められます。しかし、これまで、光ディスク用途で開発された波長780nm帯の半導体レーザを除いて、20mWを越える高出力まで、高い測定精度を得るために必要な単一横モード動作を維持できる700nm帯の半導体レーザは実現されていませんでした。光計測では、測定対象によって光源の最適な波長が異なることから、今後、生体計測分野で広く半導体レーザ光源を利用するには、700〜770nmの波長帯で実用的な性能をもつ半導体レーザの開発が必須となっておりました。
このような背景から、日立は、低い動作電流で高出力発振が可能な、波長705nmならびに730nmの半導体レーザ技術を開発しました。
開発した半導体レーザ技術の特長は、以下の通りです。
1.活性層にInGaAsPを採用した量子井戸*2構造による700nm帯波長の実現
600nm帯の半導体レーザで用いられていたInGaPにAsを添加したInGaAsPを井戸層に用い、これをAlGaInP層ではさんだ量子井戸構造を活性層に採用しました。従来、InGaAsPは材料が均一に混ざりにくい性質(非混和性)をもち、これが結晶性を低下させていました。今回、最適な結晶組成および結晶成長条件を見出すことによってInGaAsPの結晶性を高め、波長705nmと730nmでの発振を可能としました。
2.光損失の少ないリッジ型ストライプ構造の適用による高出力動作の実現
光が伝搬する部分の厚さをリッジ(うね)状に高くすることで、光損失の少ないリッジ型の半導体レーザ構造を採用しました。これは、近年、光通信用レーザやDVD用レーザで採用されているもので、動作電流が低く、高出力まで単一横モードと呼ばれる純度の高い光を発振することが可能です。また、この構造は1回の結晶成長で作製できるため、低コスト化に優位です。
今回、波長705nmならびに730nmで発振する2種類の半導体レーザ光源を試作し、素子特性を測定した結果、単一横モードの発振で100mW(室温連続動作)の光出力を達成しました。波長700〜730nmにおいて、単一横モード動作での100mWは光出力として世界最高値です。100mW出力時の動作電流は110mA以下であり、従来、報告されていた同じ波長帯の半導体レーザに比べ、低消費電力動作が可能であることを確認しました。さらに、温度特性が極めて良く、80℃まで安定に動作することがわかりました。
結晶成長法には量産に適した有機金属気相堆積(MOCVD)法を用いました。今回見出した結晶成長条件は波長制御性に優れており、InGaAsP層の組成を変えることによって700〜730nmの任意の波長を実現することが可能です。今後さらに条件を最適化することによって、半導体レーザの波長領域をさらに広げていくことが期待できます。
なお、本成果は、2007年5月14日から、くにびきメッセ(島根県松江市)で開催される「第19回インジウム燐及び関連材料に関する国際会議(IPRM'07)」にて発表しました。
- *1
- 光の波長分布が単峰であり、レーザ光をレンズなどにより小さなスポットに集光することができる特性のことです。測定精度を向上するために、計測・分光など多くの用途で単一横モード動作が必要とされています。
- *2
- ナノメートル(1メートルの10億分の1)単位の薄膜の井戸層を他の材料の層で挟み込んだ活性層の構造の一種です。電子は薄い井戸層に閉じ込められてレーザの特性が向上します。
お問い合わせ先
株式会社日立製作所 中央研究所 企画室 [担当:花輪、木下]
〒185-8601 東京都国分寺市東恋ケ窪一丁目280番地
TEL : 042-327-7777(直通)
以上
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