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2007年5月7日
財団法人国際超電導産業技術研究センター
株式会社日立製作所
国立大学法人横浜国立大学
広帯域・高精度の超電導アナログ/デジタル変換器
基本回路技術を開発
周波数帯域10MHzで変換精度14ビットの世界最高性能を達成
財団法人国際超電導産業技術研究センター[理事長:荒木浩]超電導工学研究所[所長:田中昭二](以下、ISTEC-SRL)、株式会社日立製作所 基礎研究所[所長:長我部信行](以下、日立)および国立大学法人横浜国立大学[学長:飯田嘉宏](以下、横国大)は、このたび、共同で、広帯域・高精度の超電導アナログ/デジタル変換器(以下A/D変換器)に向けた基本回路技術を開発いたしました。
この成果は、「低消費電力型超電導ネットワークデバイスの開発」事業(プロジェクトリーダー:早川尚夫名古屋大学名誉教授)として、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託を受けて実施したものです。
A/D変換器は音声や電波などのアナログ信号をコンピュータで処理できるようにデジタル信号に変換する装置であり、オーディオ機器や通信機器を始めとする様々なところで使われています。A/D変換器の性能は、どれだけ高い周波数のアナログ信号を、いかに高精度(ビット数が多い)のデジタル信号に変換できるかで決まります。
近年、無線情報端末の普及や無線通信環境の整備によって無線トラフィックが増大しており、次世代の無線通信基地局には通信の大容量化が求められています。大容量化を実現するためには、入力であるアナログ信号の周波数広帯域化と出力であるデジタル信号への高い変換精度を、基地局の主要部品であるA/D変換器において実現することが必須となります。
このたび、アナログ信号処理部(変調器)に高速性に優れた超電導回路を採用し、デジタル信号処理部に集積性の優れた半導体回路と組み合わせた超電導A/D変換器を試作することにより、サンプリング周波数*118.6 GHzでA/D変換を行い、周波数帯域10 MHzのアナログ信号から14ビットのデジタル信号への変換を実証しました。これは現在の世界最高性能となります。
今回の成果は、大容量化が求められる次世代無線通信基地局や、高い測定精度が必要とされる先端計測装置に向け、広帯域・高精度の超電導A/D変換回路の基本技術を確立したものです。今後はこれらの応用システム実現に向けた検討を進めてまいります。
超電導現象を利用した単一磁束量子*2回路は、数10〜数100 GHzという高速動作が可能であるため、A/D変換器へ適用することで、広帯域で高い変換精度をもつA/D変換器の実現が可能となります。特に、高温超電導素子は低温超電導素子に比べ、高速性能に優れ冷却コストを低減できるという優位性があります。しかし、高温超電導素子は高集積化が難しく、A/D変換器を構成する全ての回路に適用するのは困難です。そこで、ISTEC-SRL、日立および横国大の共同研究グループでは、高温超電導素子を適用できる高性能A/D変換器の実現に向け、変調器には超電導回路を、デジタル信号処理部には集積性の優れた半導体回路を用いることで超電導回路規模を500素子で構成する、超電導A/D変換器の開発を進めてきました。
今回、超電導回路と半導体回路で構成される超電導A/D変換器を考案し、製造プロセスが確立している低温超電導素子を用いて超電導回路を作製することで、超電導A/D変換器の有用性を実証しました。超電導回路には、変調器のほかに、変換されたデジタル信号を後段の半導体回路へ出力するための超電導−半導体インタフェース回路も含まれています。
試作したA/D変換器の特長は以下の通りです。
(1) 変換精度の劣化を抑制する2段積分型のシグマ・デルタ超電導変調器
変調器はアナログ信号をサンプリングし、1ビットのデジタル信号に変換する回路です。これまで、回路の抵抗成分で発生する熱雑音が変換精度の劣化をもたらしていました。今回、超電導体の特徴である“ゼロ抵抗”を最大限に生かすことで、回路の抵抗成分を減らし熱雑音の影響を最小限にしました。結果として、変換精度の低下を抑制し理論値に近い高い変換精度を実現しました。
(2) 4 mV、20 GHzのデジタル信号を出力する超電導 - 半導体インタフェース回路
超電導回路の信号は周波数が数10 GHzと高く、かつ信号レベルが0.1 mVと低いため、半導体回路で処理可能な低い周波数への変換と、信号増幅が必要です。今回、変調器からの出力信号を4チャネルに分配し、チャネル当たりの周波数を5 GHzまで低減する1:4分配回路と、各信号を4 mV まで上昇させる増幅器からなるインタフェース回路を開発し、後段の半導体回路に最大周波数20GHzでのデータ伝送を実現しました。
(3) 小型・高速の半導体信号処理回路
超電導回路から出力された1ビットデータ信号を、デジタル信号処理により14ビットのデジタル信号に変換する回路。今回、多相多段に基づく新しい並列アーキテクチャの採用によりデジタル信号処理回路の構成を最適化することで、回路サイズを最小化しつつ実効信号処理能力を飛躍的に向上させました。
今回の評価試験では、回路の動作検証を行うために、製造プロセス技術が確立している低温超電導素子を用いましたが、高速性能に優れた高温超電導素子を適用することで、さらに高性能なA/D変換器の実現が期待できます。今回開発された回路技術は、大容量化が求められる次世代無線通信基地局や、高い周波数信号を対象とする先端計測装置に向けた広帯域・高精度の超電導A/D変換器の実現に向けた基本技術です。
注釈
- *1
- サンプリング周波数:アナログ信号をデジタル信号に変換(A/D変換)する際に、1秒間に何回変換を行うかを示したもの。無線通信の場合、一般に、この値が大きいほど、伝送容量が大きく変換精度が高くなる。
- *2
- 単一磁束量子:超電導体に生じる、量子化された磁束の最小単位。
お問い合わせ先
財団法人国際超電導産業技術研究センター 超電導工学研究所 [担当:田辺]
東京都江東区東雲1-10-13
TEL : 03-3536-5701
株式会社 日立製作所 中央研究所 企画室 [担当:花輪、木下]
〒185-8601 東京都国分寺市東恋ヶ窪一丁目280番地
TEL : (042)327-7777 (直通)
国立大学法人横浜国立大学 広報・渉外室渉外係 [担当:樋口]
〒240−8501 横浜市保土ヶ谷区常盤台79−1
TEL : (045)339-3027
以上
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